第48話ギルド証をゲットしよう!




「新エリアの一つは火山か...」


「あっついね....」


「なんでこんなところに...最初の街でクエストが終わる人もいるっていうのに...」


ロイ、フレイヤ、ナギの3人が滴る汗を拭いながらぶつぶつと呟く。


3人がいるのは新エリアとして解放された火山エリアの中心部、火山洞窟である。


受注場所が噴水の前にあるギルド設立のためのおつかいクエストを受注した彼らがなぜこんなところにいるのかというと、クエストの受注NPCのおじいさんがある素材を取ってきて欲しいというのだ。


その素材というのが...


「“溶岩大蠍の心臓“なんて...あんな爺さんに渡したって使い所ねぇだろうに...」


「何かの素材になるなんて聞いたことないわよ?」


「ロイとフレイヤの二人が知らないってことは、今まで誰も試したことがないのか、ほんとに何も作れないかのどちらかかな?」


ロイとフレイヤの会話を横で聞いていたナギも言葉を発する。


ナギの言葉にロイは考え始める。


「多めに狩って試してもらうのもありか...プリティガールさんに話をしておこう。」


「プリティガールさんって、イベント4位のあの人よね?生産職なの?」


「あぁ、鍛治に裁縫、製薬に錬金、なんでもできるぞあの人は。」


ロイの言葉にフレイヤは驚愕した表情を浮かべる。


「生産系のスキル全揃えの上に戦闘もできるって...やり込み具合で言ったら私たちより上なんじゃないの?」


「まぁあの人動画配信を仕事にしてるからな。ゲームも仕事のうちって言ってたし。」


「まさか...『筋肉街道まっしぐら』ってチャンネルじゃないわよね?」


「お、よく知ってるじゃないか。チャンネル名とは似ても似つかない動画内容だけどな。」


そんなことを話しているうちに3人は火山のマグマ溜まりのたどり着いた。


ぽこぽこと煮えたぎるマグマからの熱気にさらに汗が噴き出す。


「...こんなところにいるなんてよほどの物好きなんだね、その溶岩大蠍っていうのは。」


「ゲームのモンスターに物好きとかないと思うぞ?」


ナギは遠い眼をして呟くとロイが冷静なツッコミを入れる。


「さ!早くそのサソリを倒して帰りましょ!こんなところに長くいたくない!」


「あ!ちょと待てい!まだ準備がーーー」


ロイの制止も聞かずフレイヤはマグマの中に石を投げ込んだ。


ーーーぽちょん




「....恨むぞフレイヤ。敵が増えるじゃねえか」



ロイの呟きが静かに響いた直後、



ーーーーーカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチーーーーーー



「....嫌な予感がする。」


周囲に響き渡るハサミを打ち鳴らすような音がナギの警戒心を煽る。


「おい、マグマをみろ。」


ロイの言葉に火口を覗き込むナギとフレイヤ。


彼らの視線の先にいたものは....黒くて小さい....



ーーーーーカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサーーーーー


「キャアァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!Gィィィィィィ!!!!!」


「フレイヤ落ち着いて!!!!ゴキブリじゃないよ!!サソリだよ!!!」


錯乱状態に陥ったフレイヤを抱き抱えたナギは大きく声を上げる。


ナギの視線の先には火口から這い出してくる無数のサソリ。


大きさは拳大であるものの、地面を埋め尽くすほどの圧倒的な数。


しかしナギの疑問は大きくなる。


「大蠍っていう割にはそんなに大きくない...?」


「いや違う。こいつはCランクのモンスターで火属性魔法と毒攻撃を使ってくる猛火蠍だ。溶岩大蠍はもっとでかい。」


ロイの冷静な受け答えにナギが感心したのも束の間、マグマの中心部が大きく盛り上がった。


そしてその中から姿を現したのは、大型トラック並みの大きさのサソリだった。


黒く輝く外骨格にその身体に見合う大きさの鋏、そして長い尾の先についた鉤爪のような毒針。


そして身体の節々からは常に炎が吹き出している。


これこそが目的のモンスター、溶岩大蠍(S)である。


「あの外骨格の防御力がとんでもないらしくてな、下手に攻撃をすると武器の耐久の方を削られる。それに火属性の魔法が全く効かず、むしろ奴の体力を回復させちまうんだと」


「うわぁ」


「しかも奴の身体は毒の毛で覆われててな、拳とか蹴りで直接攻撃をするとこっちが毒状態になっちまう。」


「なるほど」


ロイの言葉にナギはうんうんと頷き、


「....まぁ触らずにボコボコにすればいいわけだね。」


ナギはブルブルと震えるフレイヤをそっと離すと、〔錬成武装〕でとある武器を生成し構える。



「ナギ、その武器は一体...?」


ロイはナギの構える武器に疑問を抱き、ナギに問いかける。


「見ればわかるでしょ?三節棍だよ?」


「いや、それはわかるが...なんでそんなクセのある武器を?」


「フレイヤがなんかのアニメに影響を受けたらしくて...使ってるところを見せてあげたらすごい喜んでさ。実戦でも使ってみようと思って。」


あとは棘鉄球モーニングスターとかも喜んでたな、と喋りながら自分の身体の周りで三節棍をくるくると回す様子のナギに、ロイはおでこに手を置いてはぁ、とため息をつく。


「もういいや、とりあえず...」


ロイはうずくまって震えるフレイヤの頭をパシッと叩く。


「おいフレイヤ、早く立ち上がらないと噴水前に強制送還するぞ。ナギの勇姿が見れなくなってもいいのか。」


「だめ!!!」


フレイヤがスッと立ち上がり、腰の刀を抜いた。


「取り乱してごめん、もう大丈夫。」


フレイヤがキリッとした目つきに変わっているのに安心したロイとナギも各々の武器を構えた。


目の前には臨戦状態に入っている溶岩大蠍と地面を覆い尽くす無数の猛火蠍。


「どっちがいい?」


「フレイヤは今回刀でしか攻撃できないから俺と一緒にボス特攻、ナギはその間に小さいのを殲滅してくれ。」


「わかった。任せて。」


そういうが早いか3人はそれぞれの敵に向かって駆け出した。


「猛火蠍って名前がつくくらいだから、火属性は効かなそうだよね...とりあえず動けなくすればいいか」


ナギは〔纏気〕で三節棍の先に魔力を纏い、勢いよく跳び上がる。


そして三節棍の端を掴み猛火蠍へと叩きつけると、蠍の身体が分裂し弾け飛んだ。


どうやら猛火蠍はナギを危険認定したらしく、同時に多数の蠍がナギに襲いかかる。


「〔龍魔法〕“氷霜“」


ナギの口から放たれたブレスが飛びかかるサソリを氷漬けにし、落ちる氷に三節棍で打撃を叩き込んだ。


蠍の氷漬けは粉々に砕け、光となって消えた。


「ふぅ、今のでだいぶ減ったな!」


まだたくさんの蠍が残っているが、今の攻撃で2割くらいは減らすことができた。


「早く終わらせてフレイヤたちの助っ人に行かなくちゃね!」


ナギはそう声を上げると三節棍を構え、サソリに向けて振るった。




***********************************************************************************



ーーガキン!!!


「くっ!この鋏重すぎでしょっ...!!」


振われた鋏を刀で受け止めたフレイヤは力任せに鋏を弾く。


「〔刀術〕“紫電一閃“!!」


「〔剣術〕“奈落落とし“!!」


フレイヤの横薙ぎに振るった刀とロイが縦に振り下ろした剣がそれぞれ溶岩大蠍の脚の一つを切り飛ばすが、その切れ目から炎が吹き出し脚はすぐに再生される。


「〔聖月大車輪〕!」


ロイの魔力の斬撃が目の前に迫るものの、大蠍は鋏でそれを防ぐ。


鋏は無傷であった。


尻尾から毒を噴射してロイとフレイヤに攻撃をするが、それは二人には届かなかった。


「...あの鋏が厄介ね。」


「あぁ、こっちの攻撃は防がれ、向こうはあれで物理的に攻撃してくる。尻尾の攻撃も気をつけなきゃいかんし、何より再生能力が半端ないな。」


ロイとフレイヤがそんな会話をしている間も蠍は攻撃をやめない。


身体の節々から炎を吹き出し、脚をカサカサと動かしてロイに迫る。


「くっ!!〔天誅〕!!」


ロイの〔光属性魔法〕が蠍を焼くが、蠍はぴんぴんしており全く効いていない様子。


溶岩大蠍の尻尾がフレイヤに迫る。


「!?っ〔刀術〕“流水“!!」


鋭く迫る尻尾の毒針を刀術スキルによって受け流す。


しかしそこに蠍の鋏が迫るが、その鋏をロイが剣で受け止めた。


「くっ!!」


「ロイ!」


「今は耐えろ!ナギがくれば手数もこっちの方が多くなってやりやすくなるだろうさ!!」


ロイがチラッとナギの方向を見ると、三節棍を振り回して蠍を次から次へと叩き潰す様子が見えた。


え?てかあの三節棍の動きどうなってんの?なんかグニャグニャ曲がってるように見えるんだけど?


ナギが少し腕を振るうだけで打撃が蠍に飛んでいき、確実にその命を削り取る。


ナギを中心として半径2メートルが蠍の近づけない領域となっている。


「...参考にならないな。」


この溶岩大蠍の突破方法のヒントがあるかもしれないと思いナギに視線を向けてみたのだが...


ーーそういえば渚って規格外だったわ。


幼馴染の化け物具合を再認識するだけだった。


「...っ!!フレイヤ避けろ!!」


「っ!!」


炎が吹き出す鋏が大きく振り上げられたのを視界に入れたロイが声を張り上げ、二人で跳躍した。


地面に叩きつけられた鋏が洞窟内に大きく振動を伝え、天井からポロポロと石が落ちてくる。


「物理ばっかで忘れてたけど、こいつ魔法使えるんだったわね...!!」


「ってフレイヤ!危ない!!」


ーーーガキン!!


ロイの声に反応し咄嗟に刀で防御したフレイヤの目の前には、大蠍の毒針が迫っていた。


「く....!!」


顔を歪めて毒針を抑えるフレイヤに向けて、大蠍が口を大きく開く。


その口から高密度の炎がフレイヤ目掛けて放たれた。


「っ〔光壁〕!!」


ロイが蠍とフレイヤの間に割って入り、〔光属性魔法〕の防御技を繰り出す。


光の壁が半円状に展開され、フレイヤたちを包み込む。


「...フレイヤ、大丈夫か?」


「えぇ、なんとかね。」


二人の会話中も蠍から吐き出される炎は止まない。


「ねえロイ、鋏を両方斬り落とすから隙を作ってくれない?」


フレイヤの提案にロイはニヤリと口角を上げる。


「任せろ、その間お前は動けないんだろ?守りも任せとけ!」


その言葉を聞いたフレイヤは刀を鞘に収め、抜刀の構えをとり目を閉じる。


炎が治まった瞬間、ロイは蠍に向けて飛び出す。


「〔剣術〕“八岐大蛇“!!」


ひとまず〔剣術〕スキルの8連の斬撃技で蠍の片側の脚を全て斬り落とし、身動きを取れなくする。


そして光属性魔法の〔重光咆〕によって体力を削る。


しかし大蠍はその攻撃の合間を縫って毒針をフレイヤに突き刺そうと伸ばした。


しかし、小さい蠍を全滅させたナギが三節棍で毒針を弾く。


「フレイヤへの攻撃は僕に任せて!!」


振り降ろされる両鋏を三節棍の回転による打撃で次々に跳ね返し、フレイヤへの攻撃を防ぐ。


そして、フレイヤの準備が整ったようだ。




「〔魔閃〕“断裂“」



フレイヤが足を踏み込んで蠍に駆け出し、刀を抜く。


蠍の周囲に光の線が見えたかと思えば、気づいた時にはフレイヤは蠍の背後で納刀するところだった。


蠍は動きを止めしばらく静止していたが、そこで変化が訪れた。


蠍の両鋏と尻尾の毒針が宙を舞い、地面に落ちる。


そして蠍本体の体も斜めに両断され、地に伏した。


そのまま光の粒子となって消えていく。


「「......終わったぁ...」」


ロイとフレイヤが同時に地面に倒れ声を漏らすと、討伐報酬が届いた。


溶岩大蠍の外殻×12、溶岩大蠍の血液×6、溶岩大蠍の心臓×1


心臓が一つ落ちたのでおつかいクエストはこれにて終了だ。


しかし、


「じゃあプリティガールさんに渡す用の心臓取りにいく?」


まだまだ元気なナギが二人に提案するが、二人は頭を横に振る。


「「絶対やだ」」






***********************************************************************************



「おぉ!これぞまさしく“溶岩大蠍の心臓“じゃ!!若者たちよ!感謝するぞ!これは礼じゃ。受け取ってくれ!」


喜んだおじいさんがロイに巻物を押し付けた。


ーーテテン!ロイは【ギルド証】を手に入れた!!


こんなアナウンスが流れてきそうな反応だったが、めでたくロイたちはギルド設立の準備が整った。


さぁ!拠点探しに行こう!!!





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