第47話結成に向けて




「よーい、どん!!」


掛け声とともに西澤くんが校庭のトラックの外周を走り始めた。


スタート位置で渚、香織、達也と佐々木さんは走る西澤くんを眺めていた。


5人は体育祭で出場するクラス対抗リレーの練習のため、放課後の時間を利用して体操着で練習をしていた。佐々木さんは監督役のため制服である。


校庭のトラックの一周は400メートル、一人一周ずつ走ることになる。


一応運動部の西澤くんだが、クラス内では渚たちの次に速いというわけではない。


正直な話、クラス内にはそれなりに速い人はいたのだ。


しかしクラスの男子の並々ならぬ闘志に危険を感じた佐々木さんが西澤くんを指名したのだ。


学級委員だからというもっともらしい理由をつけたのと西澤くんがそれなりに足が早かったおかげで反論は出なかったが、渚が西澤くんに優しく言葉をかけたことで西澤くんへの嫉妬が増えたようだ。


リレーの走る順番は西澤くん→香織→達也→渚となっている。


身体能力の差から順番は女子→男子→女子→男子が他の高校で一般的なのだが、この高校は成績の良い順番でクラス分けがされているためクラスの男女比は一定ではない。


クラスによっては男女二名ずつ選出するのが難しい場合もあるので、順番や人選はクラス任せとなっている。


ちなみにアンカーは二周走ることになっている。距離にして800mだ。


そう考えている間に西澤くんが一周して戻ってきた。


「篠原さん!」


「はい!」


西澤くんと香織のバトンパスがうまく成功し、香織が走り始めた。


「はぁ、はぁ、はぁ...」


膝に手を置いて息を整える西澤くんに佐々木さんが労いの言葉をかける。


「西澤くん、お疲れ様。」


「あぁ、ありがとう。」


「西澤くんって結構速かったんだね!知らなかったよ!!」


渚が西澤くんにそう声をかけると


「久里山さんにそう言ってもらえるのは光栄だね!周囲の目が怖いけど足を引っ張らないように頑張るよ。」


そう話している間に香織は残り半分の域に差し掛かっていた。


「おい!篠原さんが走ってるぞ!」


「おぉ!あのスラっとしたフォームに揺れる胸!!たまらん!!」


「はぁ、やっぱり告白しようかな...」


「おいよせ!どうせ『好きな人がいるから』って振られるんだ!!」


「え“!?お前振られたのか!?」


「くっ!あれは俺がまだ高校生の時...」


「お前何歳だ。今でも高校生じゃねえか」


運動部の方から聞こえてくる話し声を渚の耳がキャッチした。


「香織って好きな人いたの!?」


渚がひそひそと大きな声で達也にといかけると、達也は歯切れが悪そうに答える。


「あぁ...まぁ、そうだな。」


「へぇ!誰なんだろう?まぁ僕たちが口を出すのもあれだし、香織が好きになった人なら大丈夫だよね!」


「....まぁお前がそれでいいなら何も言わないが...」


「?」


渚は首を傾げてからすぐに走る香織に顔を向けた。


「香織、がんばれー」


渚がエールを送ると香織の顔が僅かに綻び、足の速度が増した。


「あれ?香織が急に加速したね?」


「本当ですね。なんででしょう?」


「ラストスパートじゃないか?半分過ぎたし。」


「あぁ、なるほど」


渚の疑問に佐々木さんと西澤くんが答え、渚は納得する。


「...単純だな香織も。」


「ん?達也なにか言った?」


「いや、何も。」


渚の質問を適当に流した達也は香織からのバトンを受け取ると勢いよく駆け出した。


その後の渚へのバトンパスも成功し、渚がニ周走り終わったところで練習を終了した。


5人は運動部の邪魔にならないよう校庭から撤収した。



***********************************************************************************



「そういえば今日から新エリア解放だよね?」


学校からの帰宅途中、渚は達也に尋ねる。


「そうだな!それとギルド設立も今日から解放なんだ!」


達也が何だか嬉しそうに話しているを聞いて渚は一つ気になることがあった。


「ねぇ、ギルドを設立すると何かいいことがあるの?」


「ん?そうだなぁ....」


達也が顎に手を当てて考え込む。


「自分の攻撃が味方へ当たらなくなる...とかか?」


「これはもはやロマンなのよ渚ちゃん、VRMMOと言ったらギルド!これは全世界共通の認識なの!そんでもって少人数のギルドで大人数のギルドを叩き潰すのよ!痛いのが嫌な女の子もギルド作ってたでしょ!?これはアニメの話よ!わかる!?」


「そのアニメ見てないからわかんないんだけどぉ!?今度見とくからとりあえず頭揺らすのはやめてぇ!!!」


香織が渚の肩に手を置き、渚の頭をガクガクと揺らしながら喋りつづける。


ぐわんぐわんと揺らすうちに徐々に掴むところが肩から服へと変わり、いつの間にか胸ぐらを掴んでしまっている香織。


そして徐々に持ち上がる渚の身体。


「あ“、首しまってるぅ...」


徐々に青白くなっていく渚の顔。


「お、おい香織!渚が死にそうな顔になってるからやめてやれ!」


「え?...あぁ!!??」



ーー数分後ーー


「..あ、頭がぐらぐらする.....うぷ..」


「ご、ごめん渚ちゃん、私ってばどうかしてた。」


「大丈夫だよ。」


ペコペコと謝る香織に渚は手をひらひらさせて答える。


「話は戻るが、ギルドを結成するには拠点を設定しなくちゃいけないんだ。街の中には拠点にできる建物がいくつか存在するから、その拠点をギルドハウスとして登録する必要があるんだが...」


「「だが?」」


「....新エリアのおつかいクエストの報酬がギルドハウス登録のために必要なものらしいんだ。」


「あぁ、なるほど」


達也の言葉に次の言葉を察した渚と香織。


「おつかいクエストに付き合って欲しいってことだよね?いいよ」


「助かる。クエストの難易度が変動するみたいで、パーティ内のレベル一番高いプレイヤーに難易度を合わせるらしいんだ。流石に俺一人だと不安だと思ってな。」


この中で一番レベルの高い達也に難易度が合わせられることに香織がやや引き攣った笑みを浮かべる。


「....ギルドのためだものね。しょうがないわね。」


「それじゃあ早く帰ろうか。」


そうして渚たちは帰路を急ぐのだった。




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