第7話初対人戦闘(PVP)
PvPにおいて決闘を行う際には相手に決闘の申請を送り、受理されれば専用のバトルフィールドへ転送される。
舞台はランダム。草原や岩場、森に海などなど。
バトルフィールドの環境的要因と取得スキルによっては有利不利が分かれるかもしれないが、それもプレイヤーのレベルによるものなので特に問題はない。
そしてここにもまたPvPを始めるプレイヤーの姿があった。
一方は鎧やローブに身を包んだニヤリと口の端を釣り上げた男達6人。
もう一方は初心者装備であるノーマルなシャツとズボンに身を包む女の子。
正確には男の子なのだが、その容姿から初見で男の子と認識されたことは未だかつてない。
いつもであればニコニコと笑顔を浮かべている彼だが、今は真顔。感情の起伏が見られない冷ややかな視線を男達へ送っている。
そう、ナギである。
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「は?一人で戦いたい?」
ナギの発言に対してロイが聞き返した。
変態男との決闘で誰が参加するかを決めているところであった。
人数を鑑みて全員参加かと思われたが、ナギがそれにストップをかけた。
その際にナギは一人で戦うことを伝えたのである。
「これはもともと僕が絡まれたことで起こったことだからね。当事者である僕がケリをつけた方がいいんだよ。」
それと、とナギは続けると
「無関係なロイやフレイヤ達に言った言葉は許せなかったから」
あんな態度を取ったことを後悔させてやる、というナギがボソッと呟いたその言葉に全員顔を引き攣らせた。
「しかし相手のレベルもわからない状態で初心者のナギを一人だけ戦わせるなんてことはできない。負けたらお前はあいつらのパーティに入らなきゃいけないんだぞ?」
ロイは心配そうな、それでもって真剣な顔をしてナギを見る。
「うん、だから一人だけ慣れてる人に参加してもらおうかな。」
もちろん僕の気がすむまでは後方で待機ね!とナギが朗らかに言った。
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そうしてナギの共闘相手として参戦したのはロイであった。
消去法としてナギと同時に始めたメイとシルは実力不足のため除外。
残るはロイとフレイヤだが、ここでロイが
「奴らに見境なさそうだからうっかり、、、とか言って身体に触ってくるぞ」
それにナギが負けたとしても俺なら奴ら全員薙ぎ倒せるから問題ない、と。
そういうとフレイヤはそそくさと観客席へと移動していった。
「初心者だからって手加減しねぇからな!」
変態達のリーダーらしき男が声を張り上げた。後ろの男達もそれぞれが気合を入れている。
互いの準備ができたところで正面に『開始してもよろしいですか?』と表示されたため、「YES」を押す。そしてナギは片足を後ろに下げ即座に動けるように構えた。
相手も「YES」を押したところでアナウンスが流れた。
『Ready.......Fight!!!』
そうしてナギの初PvPが開始したのであった。
開始の瞬間、ナギは拳を構え勢いよく前方へ踏み出し大斧を持つ男に切迫する。初心者相手だからと油断していたその男は予想外な速さのナギに全く反応できていなかった.
その勢いのまま、ナギはその男の腹部を目掛けて思い切り拳を振り抜いた。ナギの独特な気合いの声が周囲へ響く。
「よっこいしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおらぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!!」
「えっ?....ぐほぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!??」
突然目の前に現れたナギのスピードに対応できるわけもなく、その男はナギに吹き飛ばされる。
口から血を吐き、体を綺麗な直角に曲げてその男は白眼をむいて飛んでいく。
一方ナギは振り抜いた拳を数回ぐっぱぐっぱさせ、自身の拳に問題がないことを確認する。
「軽かったな。大きい人だったからもうちょっと重いと思ってた。」
その間も男の飛んでいく勢いは止まることを知らず、そのまま数メートル後ろにあった車ほどの大きさの岩に突撃した。男の勢いに今度は岩の耐久度が負け、岩は砕け散った。
「「「「「「.....は?」」」」」」
フィールド中から声が聞こえた。
その様子を見ていた全てのプレイヤーが驚愕していた。
βテスターの中でも真面目にキャラ育成をしていたものとそうでないものの間にはプレイ時間がどうであれ差が生じるのは当たり前である。
しかしβテスターとそうでないものの間は、ゲーム開始の期間の違いから覆すのが難しい壁が存在する。
そのためβテスターがステータスに絶対的なアドバンテージを持つ。
変態男たちはβテスターであった。
真面目にレベル上げをしていなかった彼らは、本サービス開始の時に女の子を勧誘するためにより強く見せるための自分磨きに勤しんでいた。
しかしそれでもナギとのレベル差はかなりあったのだ。
そんな彼らのパーティ内において、特に攻撃と防御に秀でた彼が一撃で撃沈するほどの攻撃力。
彼女は一体.....??
そんなことを考えている間にもナギの攻撃は容赦なく彼らに襲いかかる。
彼らは気を取り直して正面に迫るナギに集中した。
次々に発射される魔法が地面を抉り、振り下ろされる剣が地面にあたり砂塵を巻き上げる。
しかしナギは自分に向けられたものだけを確認すると最小限の動きで避け、一歩一歩前へ進んでいく。
魔法が一向に当たらない上に徐々に接近してくるナギに魔法使いの男は額に汗を浮かべ焦り始める。魔法を主に使っているプレイヤーだったため、接近されると途端に弱くなるのだ。
助けを求めようと近接主体の仲間に視線を向けた瞬間、ナギは魔法使いに急接近した。
目の前までくるとナギは彼の顔に向かって飛び上がり、頭を両手で掴むと顔面に容赦なく膝蹴りを叩き込む。
ゲームなので痛みは感じないものの衝撃は感じるので、彼は一瞬頭に星がまわった。
崩れ落ちそうになる男に向かってナギは回転によって勢いを最大限つけた回し蹴りを彼の頬にお見舞いした。
本来であれば首が吹っ飛ぶか、あらぬ方向に曲がっているのは間違いない。
しかしここは現実に限りなく近づけたゲームのなか。首より上が水風船のように弾け飛んだ。
彼の身体はザザザザ...と地面に跡を残しながら転がっていく。そしてそのまま光の粒子となって消えていった。
格下の女の子相手にまた一人倒されたことに対して、彼らは平常心ではいられなくなった。
「!テメェ!!ぶっころしてやる!!!」
激昂した男がナギの頭めがけて大剣を振り下ろす。彼のSTRと落下の勢いも合わせてかなりのパワーとなってナギへ迫る。当たれば一発で全HPを削り取られるだろう。
ただし、当たればの話である。
ナギは振り下ろされる大剣を一瞥すると一歩横へずれ、ギリギリのところで剣を避けた。そして振り下ろした剣が地面へ当たり、剣の勢いがなくなったところで動き出す。
振り下ろした剣の動きは止まっていたものの、彼の身体は剣の勢いが止まらず前のめりになっていた。
彼の剣を持った腕と襟を掴み、柔道の背負い投げみたく空中へ放り投げる。地面へ叩きつけるのではなく、放り投げたのである。
長年道場に通い培ってきた技術にその勢いを利用し、比較的少ない力で放り投げるに至ったのである。
空中に数メートルほど投げられた男は咄嗟に体を回転させ受け身を取ろうとするが、空中では思うように身体は動かない。ジタバタしながら地面へ落ちていく。
そしてその瞬間を見逃すほどナギは甘くない。
ぶん投げたその男に向かって即座に飛び出す。目の前までくると即座に両手の爪を展開し、彼の胴を左右両側から切り裂いた。
男のHPが目に見えて減少する。意識が一瞬飛びかけるものの、すぐに持ち直した。
ナギは男を切り裂いた後、彼の横を通り過ぎる。数メートル離れたのちに振り返るとちょうど地面に膝をついているところだった。
地面に落ちた男はよろけながらも立ち上がる。空中で回転させられたことで目が回った上に、着地直前の攻撃でHPがそれなりに削られたことが気に入らないのか、憎々しげに顔を歪めている。
流石に鎧の上から斬っただけではHPを全損するには至らなかったらしい。
しかしナギの猛攻はそんなものでは終わらない。ナギはすぐさま男に向かって走り始める。
ナギに向かって背を向けている状態の男はそれに気づくのが少し遅かった。
振り返った男の喉元にナギの爪が突き刺さる。
「あがっっっ!!!...て、テメェ..!!」
男は正面に立つナギを睨みつけ咄嗟に拳で殴ろうとしたが、それよりも早くナギの爪が彼の首を横薙ぎに一閃。
首が飛んでいった.
「バイバイ」
ナギの言葉が聞こえたかどうかはわからないが、男は今度こそHPを全損し光の粒子となって消えていった。
残りは3人。
前衛がことごとくやられているため、魔法での攻撃に切り替えていた。
すぐさまナギに向けて攻撃魔法を発射してきた。
土属性魔法のようだ。大きな岩が飛んでくる。
僕も魔法を使おう。
ここまで近接戦闘やってきたから。魔法使いたい。
周囲の人たちは多分僕が近接戦闘が得意なんだと思ってるはず。さっきから格闘術や爪で攻撃しているから。
まぁ格闘術が得意なのは間違い無いんだけど。
てなわけで口から〔龍魔法〕を発動する。
属性は炎。以前モンスターに向けて放ったことのあるアレだ。
口から放出した炎は渦を描くように放出され、彼らの魔法とぶつかった。魔法で生成された岩は即座にかき消され、前方の3人に向かっていく。
「な!なにっ!!!!!???」
自分たちの魔法がかき消されたことと、目の前に迫る炎に対応できず、彼らはそのまま全身が炎に包まれる。
ナギの魔法が着弾した瞬間大爆発が起こり、周囲に爆風と煙が広がった。後方にいるロイは煙にむせてゲホゲホと咳き込んでいる。
煙が収まり着弾点を確認すると、そこにはもはや燃えカスすら残っていなかった。
『プレイヤー名:ナギ Winner!!!!!!!』
焼き尽くされた野原の痕跡が残るバトルフィールドで勝利のアナウンスが響き渡る。
ナギの完全勝利であった。
〜ログアウト後〜
ふとヘッドセットの内部で渚の目がぱちっと開く。
ベットに寝転がった状態でログインしていたため寝ようと思えばこのまま寝れるわけだが、一度トイレに行こうと立ち上がる。
そこで渚は異変を感じ取った。
なんというか、身体が張っている気がするのだ。
・・・筋肉痛かな?
特に筋肉を酷使するような動きはしなかったはずだけれど...?
多分気のせいだろうと特に気にもせずに渚はトイレへ向かっていった。
これがのちに彼の人生を左右する出来事の前触れだとは全く気が付かなかった渚なのであった。
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