第6話合流




お風呂から上がった渚はパジャマを着ると自分の部屋から再度ログインした。


ただ時間もそれなりに遅いので達也たちと合流するだけになってしまいそうだ。


夏休みになったのだから多少寝るのが遅くなっても支障は出ないが、早寝早起きは大事だと思う。




香織達とフレンド登録した後に少しだけモンスター倒したらログアウトしようかな。


そう考えるとナギは合流地点である始まりの街〈コメンザンド 〉へやってきた。


日はすっかり落ち、街灯の光が街を煌々と照らしている。


にも関わらず周囲は夜とは思えないほど人で溢れている。


最初にきた時にも思ったけどここは人が多い。


サービス初日だからしょうがないのかもしれないが。


明日以降はもうちょい減ることを祈っていよう。




達也へ到着したことをメッセージで伝えると返信があった。


どうやら達也たちはレベル上げしていたようだ。草原にいたがすぐくるらしい。


噴水のそばのベンチで座って待つことにする。




近くにあったベンチに腰掛け、周囲を見渡しながら待つことに決める。


足をぶらぶら揺らしながら達也を待っていると周囲からこちらを伺うような視線を感じる。


ナギを品定めしているのだろうか。結構ガン見してくる人もいる。


そして、気色悪い視線で見てくる人もいる。



「ねぇ、俺たちとパーティ組まない?色々教えてあげるよ?」


気色悪い視線を向けてくる男たちがナギの視界を塞ぐ。


こちらが初心者装備なのをみて親切心で言ってくれてるのかも知れない。


最初はそう思った。


だがナギの身体を舐め回すような視線を向けながらニヤニヤする男たちをみてそんな考えは空の彼方へ吹き飛んだ。



「人と待ち合わせしてるので大丈夫です。」



初対面なので最初は丁寧に言葉を返す。待ち合わせしているのは間違いないのでそのまま答えた。


そうすると彼らはさらに笑みを浮かべた。


「それじゃあその友達も一緒でいいから是非入ってよ!君の友達も初心者でしょ?女の子なら大歓迎だよ!」


「遠慮します。」


「友達の意見を聞いてからでも遅くないよ!」


「本当に大丈夫なんです。」


「絶対にパーティ組んだ方が楽しいって!!」



しつこい。


最初は全く気にしないでいたが、適当にあしらっても引き下がらずにずっと勧誘を続けてくる。


途中から相手にするのも面倒くさくなり返事をするのをやめた。


そうすると今度は隣に腰掛け手を握ろうとしてきた。握られないよう即座に避けた。


握れなかった手はそのままに腿に乗せようとしてきた。とても鳥肌が立ったのでそれはペシっと払った。


過激な人は無理矢理連れていこうとすることもあるそうだが、それをしないところはまだマシな方だろう。



だがしかし先ほどからの行動は、もはや不審者と言っても差し支えないレベルである。


いや、不審者というより変態か。ドがつくくらいの。


通報してもいいんじゃないだろうか。いいような気がする。いいよね?


いや、通報する前にこの場でぶちのめしてやろうか。



イライラしすぎて考えが物騒になってきた時、救いの声が聞こえてきた。


「おーい!お待たせ!」


顔を上げると金髪の達也と赤い髪の香織が小走りで近づいてくるのが見えた。ネコ耳皐月とエルフ紗良も後ろについてきている。


ほっとした表情に変わったナギはすぐに立ち上がり、正面の男たちを押しのけると香織たちに駆け寄った。


ナギの姿を見た瞬間、香織たち女性陣が目を輝かせダッシュで駆け寄ってきた。そしてナギを思い切り抱きしめた。


「うごっ!ちょ、ちょっと待って香織。苦しい....」


「おぉぉぉ....!渚くんがめっちゃ可愛くなってる!リアルも美少女だけどこっちも超絶美少女だぁ!」


「いや、髪の色とかが変わっただけだろ。ほとんどリアルと変わらないじゃんか。あと渚が死にそうだから離してやれ。」


香織が感動したように声をあげ、頬や頭を手のひらでわさわさと撫でる。


キリキリと締められているナギの首。顔色がおかしくなってきたところで達也が助け舟を入れた。


はっと気が付いたように香織がナギを離す。


「ご、ごめんね。つい我を忘れて、、、」


危うく死に戻りするところだった、窒息死で。


「た、助かった。ありがとう達也。」


「おう、それよりも俺はここではロイって名前だから。香織はフレイヤ、皐月はメイ、紗良はシルだ。この中ではそう呼んでくれ。」


「あ、ごめん...」


ゲームをやる前に言われてたことを忘れていた。本名で呼ぶのはマナー違反ということを。


シュンとしたナギにロイは朗らかに言った。


「まぁ気にすんな。これから気をつけてくれ」


早速だけどフレンド登録しようぜ!といってロイはメニューを開いた。


ナギもメニューを開き、ロイ達とフレンド登録を済ませたところで、完全に存在を忘れられていた男が騒ぎ出した。


「おいクソガキ!この子は俺たちが先に声をかけたんだ。邪魔すんじゃねぇ!!」


無視されていたのがよほど苛立ったのかロイに詰め寄り恫喝する。周囲の男たちがそうだそうだと便乗してロイに文句を言ってきていた。



「....?ナギ、こいつら知り合いか?」


ロイはキョトンとしてナギに聞いた。


「いや?初対面でしつこく気持ち悪く絡んできた変態達だよ?」


こんな気持ち悪い変態たちと交友関係なんぞあるわけがない!


「これほどの変態まで引き寄せるナギくん、...いや、ちゃんの方がいいかな?とんでもない美少女に仕上げてきたんだね」


フレイヤはナギを横目で見ながらつぶやいた。


ロイははぁ、と息を吐いた。


「ナギの見た目は超絶美少女なのは今更だからまぁしょうがない。絡まれることは予想はしてた。しかし初対面でしつこくて気持ち悪く絡んできた変態って...」


どうしようもねぇな…とロイも呆れたようにそうこぼした。


一方のナギは美少女と言われていることにも気付かず香織の後ろに隠れている。よほど気持ち悪かったのか誰が見てもわかるほどの鳥肌が立っていた。



しかし変態男たちはそんなことには気がつかない。


それどころかフレイヤ達美少女が増えたことによりさらに笑みが深まった。


そんな美少女達を侍らせているように見えるロイのことが気に入らない。


「おいクソガキ、痛い目を見たくなかったらこの子達を置いてどっかいけ!」


「俺たちが可愛がってやるからヨォ!ヒャハハハ!!」


途端に調子に乗り始めた変態男達。



その声を聞いてナギの動きがピタッと止まった。表情も完全に消え去り真顔になった。鳥肌も治った。



そんなナギの様子に気づかず、男達を見てフレイヤがつぶやいた。


「はぁ、どこにでも湧いてくるのね。女の子への一方的で過剰な接触は問題行動と何度も取り沙汰されてたんだけど...こういうあからさまなのは初見だわ。」


こういうことするからモテないのよ、とフレイヤが呟くとそれを聞いてネコ耳をピコンとさせたメイも続けて言った。


「このゲームでネカマはできないからね!見た目が超絶美少女のナギくんにはこれからも付き纏う問題でもある!」


にっこりして微笑んでくるメイ。ナギには聞こえていなかった。


「じゃあ、ナギちゃん。俺たちのパーティとお前達のパーティで決闘しろ。俺が勝ったら君には俺たちとパーティを組んでもらう。俺たちが負けたら二度と関わらないし持ってる金を全部くれてやる。」


勝手に名前を呼び、これでどうだ?と自慢げに話す変態男にナギ以外全員して「はぁ?」といった表情で顔をしかめた。


このゲームはモンスターと戦うことが多いが、プレイヤー同士が戦うPvPも推奨されている。勝敗に応じて相手の所持品を譲り受けることも可能だ。


あくまで両者の同意が必要ではあるのだが。


そこをついて強引にPvPを仕掛け、所持金を奪っていく悪質なプレイヤーが多かったのもまた事実。


実際に彼らはその手段で金品を巻き上げていたβテスターなのだろう。慣れている手つきだった。


しかしプレイ初日の新人プレイヤーに対して持ちかける勝負ではない。


ナギが圧倒的に不利なのだ。ロイたちもそう考えた。


しかしナギは違った。


「そんな勝負受けられるわけな「いいよ」...えっ?」


途中に割り込んだナギの返事にロイが驚いたように声をあげた。そして横を見ると冷め切った視線を変態男達に向けるナギがいた。



ナギはイライラしていた。


こちらのことを全く考えない、自分のことしか考えていない言動の数々。


過度なボディータッチはもちろんのこと、ロイに対する暴言。

フレイヤ達に向ける欲望に塗れた視線。



経験者であるロイやフレイヤ、メイにシルは慣れているが、ゲームを初めて体験したナギにとっては到底許せるものではない。


とりあえず徹底的にぶちのめしたかったというのが承諾した理由だ。


現実の恐ろしさというものを教えてやろう。




「な、ナギくん。ちょっと落ち着こう?」


「とりあえず一回深呼吸を、、、」


「何いってるのフレイヤ。シルも安心して。僕はすこぶる落ち着いているよ。ただ奴らを合法的にぶちのめすだけだから」


ナギが静かに怒っているのを察したフレイヤとシルはナギの怒りを鎮めようとするが、無駄だった。


ナギの怒りは限界突破していた。



もう止めるのは無理だと判断したロイは深く息を吐くとナギに声をかけた。


「気が済むまでやれ。」


「「「ロイ!?」」」


フレイヤたちはロイが発した言葉を聞くと同時に声をあげた。


ロイは苦笑いを浮かべながらフレイヤにこう囁いた。


「ナギをあんなに怒らせたあいつらが悪い。」



渚は現実での戦闘力を思い出しながらロイは答えた。


単純な格闘戦であれば強いのだからきっとゲームでもそれなりに強いはず。


そう考えてナギの好きにさせたロイだった。


しかしロイは正確には知らない。


ナギの取ったスキルを、種族を、そして現実で化け物レベルと言われる渚の戦闘能力の高さがゲーム内でどれほど昇華されているかを。






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