第5話最初の晩餐
渚が夕食を作っていると紗良がキッチンへやってきた。
「お兄ちゃん、何か手伝うことある?」
料理してる渚を正面から覗き込みながら紗良は聞いた。
「それじゃあお風呂を洗ってもらえる?それと危ないからその格好はやめて。」
キッチンの正面から身を乗り出して聞いてくる紗良に答える。そうすると彼女は、はぁいと答えてお風呂場に向かっていった。
久里山家のキッチンは対面キッチンである。そのためキッチンからリビングを見通せる作りとなっている。そしてその窓は主に料理の受け渡しの場として使用されている。
紗良はその見通すための窓に身を乗り出した状態で聞いてきているのだ。
それに加え、その時渚は包丁を持っていたのだ。
正直とても危ない。
体勢を崩して包丁が顔に刺さったらどうしてくれるのか。
渚は手元の玉ねぎを刻みながらそう考えていた。
今日の夕食はハンバーグにする予定である。渚の作るハンバーグはいつも煮込みハンバーグだ。
まずは玉ねぎを細かく微塵切りにしていく。
玉ねぎを切り終えるとボウルに入れ、合挽き肉、木綿豆腐、片栗粉、すりおろした生姜。そして塩胡椒を少々。
それらを手で混ぜ残しがないように混ぜていく。
ある程度混ざったらそれらをハンバーグの形に成型する。大きさは大体握り拳サイズだ。
煮込みハンバーグなので同時進行で煮込むソースを作っていく。
トマトの缶詰を3つほど開け、フライパンに入れる。それと同量の水もフライパンに入れる。
フライパンといっても鍋底が深いフライパンなので煮込むのも余裕だ。
フライパンに火をかける。そしてしめじ、細く切った玉ねぎ、スライスしたにんにくを投入し煮込む。
ある程度火が通ったらそこにコンソメキューブを入れる。個数は好みだが、渚はいつも3つほど入れている。味付けが足りない場合は塩胡椒で調節する。
だがこれはあくまでハンバーグのソースなのだ。ハンバーグ自体の味つけも兼ねているため味は濃いめに。
これで煮込み用のトマトソースは完成だ。そしてこれは火にかけたままにしておくのだ。
さぁ、ここからが本番だ。
別のフライパンに油をひくとそのまま火にかけていく。フライパンが温まったらハンバーグ投入!片面に焼き目がつくとひっくり返しもう一方にも焼き目をつける。
両面に焼き目がついたハンバーグは取り出し、火にかけているトマトソースの中にそのまま投入する。
全てのハンバーグがトマトソースの中に入ると、渚はフライパンに蓋をする。そうしたらハンバーグに火が通るまで煮込む。
とりあえずハンバーグは終わった。他にもおかずを作らなきゃ。
・・・・数秒ほど悩み、コールスローを作ることに決めた。
キャベツを千切りにしていく。せっかくだから一玉分切ってしまおう。
全部コールスローで使うわけではないため、使わない分はジップロックにでも入れて明日以降も使えるようにしておこう。
ちなみにキャベツの千切りは上手な方だ。とんかつのお店で出せるほどだと思う。自己評価だけどね。
千切りが終わったらにんじんも細かい細切りにしていく。
そして切ったキャベツとにんじんにボウルに入れる。そして全体的に塩をかけラップをかけ放置する。
こうすることで余計な水分を落とすことができるため、時間経過で皿の下部分に水が溜まることがなくなるのだそうだ。
待っている間に味付けの準備をする。マヨネーズ、酢、塩、胡椒を混ぜ合わせる。
ほい、完成。
数分待つとキャベツもにんじんもしなしなになったので、水洗いをして再度ボウルに入れた。
そこにコーンと先ほど作った調味料を入れ、さっと混ぜ合わせる。これで完成。
・・・そろそろハンバーグに火が通っているはずだ。フライパンの蓋を開けるとホカホカとした湯気が立ち上る。とても食欲をそそる香りがキッチンに広がった。
渚はハンバーグとコールスローをそれぞれお皿に取りわけテーブルへ運ぶ。
あらかじめ炊いておいた白米と作っておいた味噌汁をそれぞれ茶碗とお椀へよそっていると、紗良がお風呂から出てきた。渚が料理している間に入浴も済ませてきたらしい。
紗良はタオルを首にかけ、髪の毛を拭きながらキッチンへ入ってきた。
「これ運ぶよー?」
そういうと紗良はテーブルとキッチンを往復しお米の入った茶碗と味噌汁を運んでいった。
テーブルの上に夕食の用意が整ったが達也と香織、そして皐月はまだログイン中のようだ。
夕食の時間だから戻ってきてもらわなくちゃ。
そう考えると渚は達也へメッセージを送る。現実で送信したメッセージはゲーム内でも確認できるため、すぐに来るだろう。
メッセージを送って数分待つと3人がリビングへきた。
「おっ!夜ご飯は渚のハンバーグか!」
達也がテーブルを見ながら嬉しそうにして言った。
「ごめんね!明日は手伝うから。」
「あたしも!」
香織と皐月は手を顔の前で合わせながら謝るようにいった。
「大丈夫だよ。早く食べよ?」
渚は全員分のお茶をグラスに注ぎながらそういうと自分も席につく。
みんなが席につく。
「「「「「いただきます」」」」」
みんなでご飯を食べ始めた。食事時の会話はおのずとあの話題になる。
「そういや渚!どうだったよ!?『Liberal Online』は!?」
直前までプレイしていたため記憶が新しいようだ。。達也はとても興奮している。ハンバーグを頬張りながら食い気味に聞いてきた。香織も手に持ったお椀を傾けて味噌汁を飲みながら渚の言葉を待っている。
「うん、めっちゃ楽しかったよ。初めてああいうゲームやるけどあそこまでリアルなんだね。」
先程の景色を思い浮かべながら渚は答えた。街並みも自然も現実と遜色なく再現されているのはやはり凄いのだ。
「本当にありがとうね。あんな高いのもらっちゃって」
「気にしないで。私たちが一緒にやりたくてあげたものなんだから。」
渚がお礼を言うと香織がそう答えた。
いい幼馴染を持ったなぁ、、、涙が溢れそうだ。
「そんでもって、どんなキャラにしたんだ?」
達也がなんでもないように聞いてきた。
渚はビクッと肩を震わせる。出かけていた涙が完全に引っ込み、代わりに額に汗がどっと流れる。
「っっっっっ!?いや!?ふっ、普通だけど!?ふふふふ普通のキャラだったよ!!???」
キャラメイクで女の子になってしまったことを言ったら絶対に笑われる・・・・!!!
突然変な反応で慌てだした渚を見てみんなが怪訝な顔をする。
「いや、どうしたんだよ。そんなに慌てちゃって。」
「珍しいね?渚くんがそんな反応するなんて。」
「渚にいちゃん変なの。」
「どしたのお兄ちゃん?」
達也、香織、皐月、紗良の順番でそれぞれ聞いてくる。
「・・・いや?・・・なんでも・・・ないよ・・?」
誤魔化すのが絶望的に下手な渚、顔を逸らしながら答える。
そんな渚の反応にテーブルにいた4人は顔を見合わせ、よくわからないといった顔をしている。
この流れはまずい。なんとか話を変えなくては。
「そっそれよりも!後で合流するのって最初の街でいいんだよね?」
渚はとっさに思いついた予定を思い浮かべながら達也に聞いた。
「おう!噴水の前に集まってくれ。フレンド登録をしておきたいからな。っじゃあ俺はもっかいログインしてくるわ」
ご飯を食べ終わった途端にそそくさと席を立ち、再度ログインのため自分の部屋へ向かうところに渚は声をかけた。
「あっちょっと待って!後が詰まるから先にお風呂入って!」
おぉ、わかったーと声が聞こえると達也がタタタッ...とお風呂場へ駆けていった。
「ところでみんなはどんなスキル構成にしたの?」
香織が思い出したように声をかけたところに皐月が答えた。
「あたしは忍者みたいなことやりたいからAGIを高くして短剣を主武器にした、スキルは[隠れ身]と[早足]、[アクロバティック]とかをとったよ!」
いわゆるシーフ?ってやつだね!っとにこりとしながらいうと紗良がさらに聞いた。
「さささっと動いて背後から短剣でザクッとか!?木の上をシュンシュンっと飛び回ったりとか!!?」
「そうそう!そんな感じ!」
皐月のスキル構成に紗良が興奮して問いかけると皐月も興奮して話す。皐月は小さい頃から足がとても早い。ちなみにパルクールの動画を見るのが大好きなため、少なからず影響は受けているらしい。
紗良は何にしたの?と皐月が聞くと紗良は答えた。
「あたしは遠距離攻撃が強い魔法使いがやりたいから魔法スキルを全属性と[魔力精密操作]を取ったかな。念のため魔法の杖でも戦えるように[杖術]も取ったよ。」
渚と同じくゲーム初心者の紗良は初めてみる魔法に興味を惹かれたようだ。The.魔法使いというスキル構成にしたようだ。
紗良は自分のスキル構成を自慢げに話している。遠距離攻撃を主体として[杖術]で近距離戦闘も可能にする。なかなかバランスが取れているのではないだろうか?
「私は刀スキルを取ってるわ。魔法も全属性ではないけれど少々使う感じね。」
香織は食べ終わった茶碗を重ねながら自身のキャラについて話した。彼女は体を動かすことが得意のため、ゲーム内でも体を動かして戦うスタイルでいっているらしい。
あと小説を読む中で刀を持つ女の子キャラが大好きだ。
おそらく好きな小説の影響を受けている。そのキャラに近づこうとしているのだ。
微笑ましい限りである。
「渚お兄ちゃんはどんな感じにしたの?」
皐月が渚にキャラのスキル構成を聞いてきたので渚は答えた。
「僕は[格闘術]を取ったよ。実際習ってるから戦いやすい。攻撃力を補うために[身体強化]も取ったかな」
【龍種】としての種族固有スキルは言わないでおいた。あそこまで強いスキルをやたら話していいものかわからなかったからだ。
ゲームに関して圧倒的上級者である達也と香織の意見を聞いてからにしよう。
皐月は渚のスキルを聞くと多少顔を引き攣らせていた。
「うわぁ....渚お兄ちゃんの体術はあっちの世界でも健在なのか。あたしタイマンで戦っても絶対勝てない気がする。」
そんなこと話しているうちに達也がお風呂から上がってきた。そのままログインのため部屋へ行ってしまう。
お風呂は空いたので順番に入ってもらう。
その間に渚は夕食の食器を洗い始める。5人分となるとそれなりの量となるのでちゃっちゃと片付ける。そして明日の朝ご飯用のお米をセットしておけば終了だ。
時刻は21時15分。お風呂が空くまで洗濯物をたたみ始める。明日以降は達也たちの分の洗濯物が追加される。
量が増えるため大変になりそうだ。頑張ろう。
洗濯物を全てたたみ終えお茶でひと休みしていると、香織がお風呂から出てきた。香織はお茶を飲んでる渚を見つけるとこちらに寄ってきた。そして隣に座ると一緒にお茶を飲み始めた。
「香織はログインしないの?」
そそくさとログインしていったもう一人の幼馴染を思い浮かべながら渚は香織にきいた。
「ん、後で行くよ。でもすぐじゃなくてもいいと思うし。」
「そっか、じゃあ僕はお風呂行ってくるよ。」
「あ、ちょっと待って渚くん!」
「うん?」
呼び止められた渚は振り返り香織を見つめる。
香織は何か言いたそうに渚の顔を一途見つめていたが、そっと視線を外した。
「ううん、なんでもない」
「?そう?じゃあまた後でね。」
軽く言葉を交わすと渚は浴室へ向かっていった。
「・・・・まだ初日なんだし、ゆっくり話す時間はあるよね。」
夏休み中にさらに渚との距離を縮めたいと思っている香織の発言に渚が気づくことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます