第3話スキル①



「おい、あの娘見ろよ...」


「おぉ、めっちゃ可愛い...」


「あんなに可愛い子がこの世に存在していたとは...」


「ムフフ..可愛い子はみんな俺らのギルドに入ってもらって...ウェヘヘへへ」


「一人かな?誘ってみようかな...」


プレイヤーの視線が街中のたった一人の少女へと集まる。

誰もが二度見をし、ポーっと見惚れるショートボブの銀髪の少女。

彼女の容姿に男女問わずそこにいる誰もが視線を送っているものの、それには全く気づかず周囲をキョロキョロと見渡しながら街中を歩いている少女がいた。


もちろん、ナギである。


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「なにこれぇ!!?」


自分の性別が女性となっていることに驚愕した彼女は大声を出してしまい、慌てて口をつぐんだ。


予想していなかったわけじゃない。


現実では幾度となく間違われたことはあるわけだし、朝に紗良からも言われていたから。




・・・でも本当にそうなるなんて思わないじゃない!?


まさか本当に機械にすら間違われる日が来るなんて思ってもいないわけで。



「GMに問い合わせしなくちゃ!」


GM(ゲームマスター)に問い合わせメールを送信したところ、返信は

『生体スキャンによって決定された性別のため変更することはできません。』

という返信がきた。


なんでやねん!!


僕、男やぞ!お!と!こ!


というかキャラメイクで髪の長さをこれ以上短くできなかったのは女性として認識されていたからなのか。


.......................。




.....うん、だめだこりゃ。諦めよう。


ナギは考えることをやめた。


どんなに考えたってゲーム初心者の僕には対処法が思いつかない。どうせ現実でも間違われることばっかりだし、むしろ現実を忠実に再現しているといってもいいのかもしれない。本当は僕の性別は女だったりして、はははははは!


なってしまったものは仕方がない。今はとりあえずこの世界を体験してみよう!


そう考えてナギは歩き始めたのだった。



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「ふーん、色々なお店があるんだなぁ」


ナギは露店の商品を眺めながら呟いた。串焼き肉を売っているお店もあれば、短剣やポーションを売っているお店もある。全員がNPCだが、プレイヤーも店を出すことができるらしい。


[商売]スキルを上げていくと店を持つこともできるようだ。


ただし今はそんなことどうでもいい。


露店で購入した串焼きを頬張りながらナギは考えていた。


とりあえずナギは一度モンスターと戦ってみたかった。


VRMMOの醍醐味であるモンスターとの戦闘をナギは一番楽しみにしていた。


彼は決してバトルジャンキーという訳ではない。

だが初めて体験したこの世界はとてもゲームの中とは思えないほど美しかった。


この世界を最も深く感じられるのはモンスターとの戦いなのではないかと思っていた。


そして魔法という未知なるものはどのような感覚で出しているのかを彼はとても気になっていた。


現実を限りなく忠実に再現しているこのゲーム。であれば現実の感覚でできないことがどうしてゲーム内だとできるんだろう?と。



それに取得したたくさんのスキルを試してみたかったのだ。龍種として得た固有のスキルも使ってみたい!


というわけでモンスターのいる場所に行ってきます。


街の外に出ないとモンスターとは戦えないらしい。いきます!街の外!もちろんダッシュで!


そういうが早いかナギはダッシュで街の外へと向かったのであった。


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というわけでモンスターのいる場所に来てみました。


街から外に出るとそこには広大な草原が広がっていた。寝転がると気持ちよさそうな草原。太陽がポカポカしており、良いピクニック日和だ。



そしてその自然に溶け込むように角が生えたウサギがそこら中にいた。


この草原内でウサギの数は常に一定に保たれているらしく、討伐されたらその分補充されるらしい。


通称角ウサギと呼ばれる彼らは決して隠れていたわけではない。景色として違和感がなさすぎて気がつかなかっただけだ。


てなわけでスキルの試しうちにはちょうどいいのである。



視界にモンスターの名前が表示された。


ホーンラビット(E)


隣のアルファベットはモンスターのランクを表しているらしい。Eは最低ランクだ。


ホーンラビット、、、めんどくさいから角ウサギでいいや。



そこで一匹の角ウサギが自分に向かって自慢の角を尖らせて突き刺さんばかりに走ってきた。



「じゃあ最初は普通に戦おう。」


ナギはそういって拳を構え[格闘術]スキルを発動させる。

ぶっちゃけスキル使わなくても戦えそうな気がする。だが近接戦闘の武器スキルは構えると自動で発動するようだ。


角ウサギがジャンプして角を刺そうとしてきたところを上段で蹴り飛ばす。


しかしここで予想だにしないことが起こる。


本来であれば角ウサギは吹っ飛ぶだけで済んだところである。


だが渚は伊達に護身用に道場に通っていたわけではない。力の扱いをよくわかっていたため、全身に効率よく力を回すことができる。そのため渚は現実で体が小さくても一般人では骨が折れるほどのパワーが出る。


しかしこのゲームの中では、ナギ自身の技量による力の他に[格闘術]のスキルによる素手の攻撃力の上昇、さらには種族特性龍の鱗により物理攻撃力が増している。


そんなナギの蹴りに角ウサギの肉体は耐えられなかった。



ベシャ!!!



角ウサギが破裂した。




「...え?」




ナギは唖然とする。



周囲に角ウサギの肉と血が飛び散った。


地上波のテレビであれば絶対にモザイクが入るであろうその角ウサギの残骸はゲーム特有の光の粒子となって消えていった。


「うわぁ...」



とにかくグロい。



残骸が残らないのはいいのだが。

本来であればここでアイテムがドロップするようなのだが、今回は何にもドロップしなかった。



爆発四散したせいでドロップするものがなかったのかな・・・?



「いや、おそらく角ウサギは何にもドロップしないやつなんだ。」



ナギはそう思うことにした。



「次は[龍の爪]を使ってみよう。」


そうしてスキルを発動させるとナギの指の付け根から指に沿って30cmほど黒い爪が伸びた。



伸びた爪によって手の動きが制限されることはなく、長く鋭く尖ったナギの爪は斬ることも刺すことも可能なようだ。



手をグーパーさせ動かすと爪同士が触れ合いかちゃかちゃと音が鳴る。



持ち歩かなくてもいい短剣のようだ。思うように操作できるこの爪は殺傷能力はとても高い上に荷物が増えないからとてもいいな。



てなわけで角ウサギで試してみます。



先程と同じようにジャンプして襲いかかってくるウサギちゃん。



刺すのは試す必要ないな。多分プスッと刺さって終わり。


であれば引っ掻く方向でいきます。いや、この長さだと「斬る」の方が妥当かもしれない。



今度はこちらから攻めてみよう。



爪の攻撃は振り下ろすのが一番様になりそうな気がする。

熊とか振り下ろして攻撃してそうだし。


「あのウサギにしよう。」


一匹の角ウサギに狙いを定めた。


ナギは勢いよく踏み込み、角ウサギに向かって右手の爪を斜めに振り下ろした。


スッとナギの爪が通り過ぎる。次の瞬間ウサギの輪郭がずれ、爪が通り過ぎたところにいたウサギは三つに分かれた。



・・・・目が点になるが、驚くのはまだ早い気がする。




次に飛びかかってきた角ウサギには爪を横なぎに一閃。首と胴が泣き別れになる。



・・・さすが龍の爪、切れ味が尋常じゃない。


例えるなら板前さんの使う包丁よりも切れ味が高い。



などと考えている間に二体のウサギの残骸は光の粒子となって消えていった。



このスキルはなかなか良いな。肉弾戦を得意とする僕としては、持ち歩く必要のなく戦闘のバリエーションが増える武器はとてもありがたい。


この戦闘スタイルに[身体強化]を組み合わせることでうまくやっていけそうだ。


ただ、角ウサギに対しては明らかなオーバーキルなのでまた別の機会にしよう。




そんなこと考えていると脳内にアナウンスが流れた。先程の戦闘でレベルが上がったようだ。


レベル2になり、ステータスポイントが10ポイント手に入る。先程倒した3体の角ウサギの分も3ポイントほど入っていた。


合計13ポイント。


これはSTRとAGI、そしてINTにそれぞれポイントを振っていく。他はまだいいや。



そしてドロップアイテムとして「角ウサギの肉」と「角ウサギの角」がドロップしていた。


モンスターからのドロップは一定確率で手に入る。

モンスターランクが高ければ高いほど強くなり素材も上質であるものの、ドロップする確率は低くなる。



ちなみにEランクモンスターの素材ドロップ率は100%らしい。



最初の一体のドロップが一切無かったのは、ナギの予想通りだった。蹴りでウサギを爆発四散させたからであった。


今後は倒し方に気をつけなければいけないな。



そう心に誓ったナギであった。



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