第2話 彷徨2

 木村はのろのろとねぐらから起き上がった。日はすでに高く上り、人間の歩き回る音が響いていた。

 木村が外に出ると、湿ったような空気が肺に入ってきた。おそらくしばらくすると雨が降るのだろう。

 木村は鬱々とした気分で歩き始めた。漠然とした不安を抱えながら、次の指定場所に移動することにする。

 

 しばらく歩くと、木村は山の中に聳える白い建物にたどり着いた。それは頑健な山の側面にへばりつくように聳えているが、数十メートルの及ぶ白い柱は美しく、太古の神殿を思わせた。

 木村はゆっくりとその白い建物の中に入っていった。

 中も一面白い壁に多い尽くされていたが、窓辺から差し込む光で青白く照らし出されていた。

 そこには一人の人物が立っていた。

「やあ。こんにちは。」

 その人は礼儀正しくあいさつした。

「こんにちは。」

 木村も礼儀正しくあいさつを返す。

「久しぶりですね。お元気でしたか?」

 木村はこの人物を知っていた。先生と呼ばれる人のうちの一人で、初老だが身ぎれいな紳士だった。

「はあ。まあ。」

 木村はあいまいな返事をした。はっきり言って、彼はあまりいい状態とは言えなかったのだ。先生はそれには気づかなかったように、先を続けた。

「今回の迷宮はそこまで難しいものではありません。あなたなら簡単にできるものでしょう。」

「そうですか。」

「ただ最後の難関があるだけです。」

 木村は押し黙った。この先生が関係するといつもこれだ。課題は簡単そうに見えて、最後の最後のクリアにたどり着くのが至難の業なのだ。

「それでは説明しますね。まずあなたはこれを見てください。」

 そこには1枚の紙があった。一日が1つの長方形の枠線に囲まれていて、上から順に時間がふられ、その横に細かくびっしりと何か書き込まれている。

「あなたはここにある通りの内容を、この時間通りにこなしていけばいいだけす。」

「それだけ?」

 これまでに様々な課題に取り組んできた木村にとって、それはひどく退屈なもののように思えた。

「それだけです。明日また様子を見に来ますから、まずは実践してくださいね。」

 それだけ言い残すと、先生の姿はゆっくりと薄れて消えてしまった。


 木村は先生が言い残していった課題を実行していた。先生の言った課題は難しいものは無かった。神殿の一角には雑然した空間があり、その場所を整えること、汚れている部分を掃除することなどだった。そして彼自身の道具などをきれいに整えさせることなどだった。

 そしてそれが簡単に見えて、実は非常に困難であることがわかった。

 その白い神殿の中では、様々なモノが住んでいたのだ。それは先生と同じように実態が無かった。

 まず第1のモノは蝶の形をしていた。それは木村がそれを実行しようとするとヒラヒラと目の前を行き交い、行動を阻んだ。

 次に現れたモノは、幼くてかわいらしい少女の形をしていた。それは彼が疲労により一瞬でも手を停めた瞬間に彼の目の前に現れ、本や景色を眺めることを勧めてくるのだった。

 最後に現れたものは最も厄介だった。それは美しく厳然とした美女の形をしていた。それは彼にこう問いかけるのだった。

「あなたはいったい何故そんなことをしているの?」

 彼はいつも返答に困ってしまった。彼自身にもなぜこんなことをしているか、わからなかったのだ。

「先生から言われたから……。」

 やっとのことで答えたが、美女は厳然と微笑んだ。

「あなた他人からそう言われたらその通りやるの?」

 彼は悄然と首を横に振り、目をそらせることしかできなかった。美女の言っていることは正しい。

 彼が先生からの課題を続けようとしたその時だった。頭上から大きな音が響き渡り、彼の目の前が真っ暗になった。


 















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