空中遊人

中村 眞澄

第1話 彷徨1

「まったく困ったものです。」

天司たちは集まって話をしていた。その時集まった天司たちは合計6名。いずれも実力にひけをとらないものたちではあったが、何か問題があると集められる者たちでもある。

天庭には柔らかな明るい陽射しが降り注いでいた。そこには白くて華奢な机が一基置かれており、天司たちはそれを取り囲むようにして立っていた。

天司たちの中で最も背の高い一人が言った。

「おそらく周波に負けたのでしょう。彼らはもともと周波に弱い。よりにもよってこの時期に周波がきたので、耐えられていないのではないかと思いますが。」

周波とは光と風の波のことで、普く世界の中をゆっくりと循環している者である。それは穏やかな時もあれば激しく波立つときもあり、上がっているときもあれば下がる場合もあった。

「それはそれでよい。この世界にいる以上、周波の中にいるしかないのだからな。」

天司の中でも比較的背が低い、ずんぐりとした官吏が唸るように言った。

「だが、『あれ』は弱りすぎている。せっかく能力と強度を与えてやっているのに、それを使い切れていない。我々が放った者たちは千程いるが、中でも『あれ』はすでに消え入りそうではないか。」

「まあまあ五の君、そうおっしゃらず、お茶でも飲んだらいかがですか?」

五の君と呼ばれた天司よりさらに背が低い天司は、おずおずとお茶を差し出した。五の君は不機嫌そうに答えた。

「お茶など飲んでいる場合か。あれにはもうかなりの年月の時間を費やしている。それなのに、我々の役に立ったと言えるのか。」

最も背の高い天司が答えた。

「もう少し様子を見守りましょう。もし『あれ』が耐えられないようであれば、ここに戻せばよい。」

天庭には穏やかな沈黙が流れ、相変わらず白い光が降り注いでいた。




天司たちに『あれ』呼ばわりされていたものは、地球にいた。

その時代、地球には人類と呼ばれる種が地上を覆いつくさんばかりにはびこっていた。

『あれ』はそんな人類の形に似せて作られたものだった。

『あれ』は自分のねぐらの中で目を覚ました。ぼんやりとした目で周囲を見回す。いつもどおり記憶が飛んでいて、今がいつなのか感覚がなくなっている。

『あれ』の地球上での名前は木村といった。地球における仮称である。

木村はため息をついた。数時間眠ったおかげで気分はよくなっているが、ここ数か月というもの、体調は最悪である。いままで人類に紛れ込むために何とかできていたことが、できなくなってきていた。ずるずると身体を引きずるようにして寝床から這い出る。

木村は地球で派生した人類とは異なり、天司がヒトの姿を模して作った『モノ』だった。外見はよく似ているが、思考方法が人類とは異なっている。それは遠く空の彼方から来た思考の性質の違いによるものだった。

ねぐらにあったものを少し食べたが力尽き、その場に倒れこんでしまった。



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