番外編②-14 – GOLEM

––––〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス


 瀧とGOLEMゴーレムが激突したその瞬間に花はGOLEMゴーレムとの視線を合わせて跳躍、視界から消えてGOLEMゴーレムの背後に回ると自身のハンカチと共にGOLEMゴーレムの背に触れる。それと同時に花に衝撃が走る。


(〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟が発動しない!?)


 GOLEMゴーレムは花から背に触れられた瞬間に瀧に向けていた拳を一度離して花への攻撃を優先した。背後に向けて振り向くことで勢いをつけて手の甲で攻撃する拳撃を見舞う。花は〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟が発動しなかったことによる動揺で反応が遅れ、GOLEMゴーレムの裏拳を右頬に食らって扉の方へと弾き飛ばされる。


「徳田!!」


 瀧は咆哮と共にGOLEMゴーレムとの距離を詰めて強烈な右拳を見舞う。


––––〝俺の血となり肉となれマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン


 GOLEMゴーレムは瀧が詰めてくる直前に自身の超能力を発動した。GOLEMゴーレムの肉体がうねり、筋肉が巨大化して血のように真紅に染まる。さらに彼の赤い身体刺激型サイクスが実体を持って身体全体を覆い、堅固な鎧を創り出した。その鎧は顔をも覆っており、仮面と同じ表情をかたどっている。


(硬い……!!)

 

 瀧の右拳はGOLEMゴーレムの左顔面を直撃するもGOLEMゴーレムの身体はビクともせず、瀧の拳を受けきる。GOLEMゴーレムは右手の平の手首に近い部分を使う、掌底打ちの形で瀧の鳩尾みぞおちを強襲して弾き飛ばす。瀧はそのまま壁を突き破って隣の部屋まで吹き飛ばされた。


「ぐっ……」


 GOLEMゴーレムは瀧を吹き飛ばした後、すぐに後ろを振り向いて花を確認するものの、既に花の姿は無い。


(……徳田はどこへ行った?)


 GOLEMゴーレムが花の行方を追ったその瞬間、瀧を吹き飛ばした方向から圧倒的なサイクスが放出される。


(何だ、このサイクス量……!?)


 GOLEMゴーレムが振り向いた瞬間、彼が辛うじて捉えたのは人影。


「ゴフッ……!」


 気付いた時にはGOLEMゴーレムは顔面に鈍い痛みを感じ、今度は自身が壁まで吹き飛ばされていた。


(疾い、そして重い……! 俺のこの身体と鎧を持ってしてもここまで吹き飛ばされ、鎧が破壊された……だが、裏を返せば鎧を破壊するまでが奴の限界……!)


 瀧は身体に付着した粉塵を払った後に右手に装着された紅く輝く籠手、〝血と汗の結晶レッド・ドラゴン〟をGOLEMゴーレムに向けながら告げる。


「オメーの相手はこの俺だ。つーか……」


 瀧はその強烈に纏うサイクスを滑らかに変化させ、洗練された〝アウター・サイクス〟をGOLEMゴーレムに見せつけながら言葉を付け加える。


「無視できねーだろ?」


 ゾゾゾっとおぞましい音を立てながらGOLEM《ゴーレム》の仮面の上を鎧が再び覆う。その間にGOLEMゴーレムは「フッ」と笑いながら答える。


「お前は強いな。JOKERジョーカーのお気に入りなだけはある。全力でお前を始末する」


 瀧は「来いよ」と言いながら挑発するように右手をGOLEMゴーレムに対してクイクイッと自分に向けて動かす。


(こいつ、まだまだ余裕がある。今の俺への一撃もまだまだ出力を上げられるな。クソッ……徳田を優先的に始末したいのだが……。奴が最も俺の正体に近い……!)

 

#####

 

 瀧がGOLEMゴーレムの注意を引いている間に花はD–2ビルの1階を離脱していた。階段を使って2階へと到着し、壁に張り付いて様子を窺う。


(さすがにあれだけのサイクスを纏った2人の戦闘に巻き込まれるのは得策じゃない。何より〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟が通じない相手に対する私のサポートなど寧ろ瀧の邪魔をしかねない)


 花は2階へ到着してすぐに〝第六感シックス〟を発動した。


 花の〝第六感シックス〟の最大距離は約35メートルで最小距離は5メートル程度である。〝第六感シックス〟の最大距離はその超能力者のサイクス量や出力量が大きく左右する。対して最小距離はサイクスのコントロールが大きく影響する。一般的に最長距離30メートル以上の〝第六感シックス〟を持つ超能力者が10メートル以下に抑えられる場合、一流のサイクス使いだとされる。

 花はサイクスの消費を抑えるために7メートルで開始する。花が〝第六感シックス〟を発動した理由は瀧とGOLEMゴーレムの戦況を把握すること。しかし、この7メートルの〝第六感シックス〟がたまたま数名の人間を捉える。


(残党!? 捕えそこねていた? いや、制圧前に〝第六感シックス〟で確認したはず。ということはこの短時間に現れた!?)


 花は割れた眼鏡をその場に捨て、胸に手を当てて自分を落ち着かせる。


(落ち着け。まず1つ1つ整理する。突然現れた連中は大した使い手じゃない。中には非超能力者もいる。焦る必要はない。まずはGOLEMゴーレムね)


 花はまず、GOLEMゴーレムに対して〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟が発動しなかったことに大きな疑問を抱く。


(〝私とあなたの秘密シークレット・フェイス〟が発動しなかったということは私はあの男を知っているということ。しかも向こうが私の顔をしっかりと認識しているということだからそんなに薄い関係性ではない。一体……)


 花は目を閉じて先ほどのやり取りを思い返す。


(サイクス量からして私よりも瀧の方が脅威のはず。それなのに奴は私を優先した。しかも私が奴に触れた瞬間に)


 花はその超能力の特性上、一部の人間にしか明かしていない。基本的には警視庁の同僚が知る超能力である。


GOLEMゴーレムは警察関係者……? それならDEEDが一般人、子供を巻き込んでいたことを知ってにいかったことにも合点がいく?)


 花が携帯を手に持った瞬間、もう1つの可能性を見出す。


(いや、もう1つある!)


––––第三地区高等学校就任時


「初めまして、警視庁捜査一課の徳田花と申します。特別教育機関出身の月島瑞希と上野菜々美、特に前者の監視のため内務省よりめいを受けて着任しました。彼女に関すること、例えば授業の様子などはなるべく私に情報を共有して下さい」


 その後、花は全教師に向けて自身の超能力について軽く説明を施す。


「詳細は明かせませんが、私の超能力は触れた相手に対して私の姿を誤認させるものです。月島さんに対して既に発動していますので彼女の私に対する容姿の発言に違和感があると思いますが、お気になさらないよう」


––––現在、D–2ビル2階 


(第三地区高校の職員……! そもそも警察関係者は全員政府に超能力の詳細を提出しているはず。ごまかすのは至難の技……!)


 花は携帯を取り出して連絡先の中から警視庁にいる愛香を選択した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る