番外編②-13 – 衝突

「よし、瀧、俺たちも第2地区に向かうぞ」


 藤村は腰ベルトに常時装着しているヒップホルスターから彼の超能力で創り出された装弾数6発のリボルバー式装飾銃・〝八方美人トランスフォーマー〟を取り出す。

 藤村の〝八方美人トランスフォーマー〟は装填する弾薬によってその形状を変化させる。普段、藤村が基本形状として持参するこのリボルバー式装飾銃は〝次元開通弾ディメンション・ドア〟を装填する。この弾薬は6つの次元の穴を開通させ、自由に出入りすることが可能となる。藤村は左手で触れた位置から任意の次元の穴へと移動することができて、また、弾丸が直撃した相手は藤村の指定した箇所へと強制的に移動させられる。


「それ使うんすか?」


 瀧が〝八方美人トランスフォーマー〟を指しながら藤村に尋ねる。


「あぁ。D–1ビル、D–2ビル、本部の全てに対して既に次元は繋げてある。移動できるぜ」


––––ズズズズ……


 藤村は椅子を離れて課長室の扉の隣の壁に左手で触れる。するとそこから藤村の黄色いサイクスが広がり、壁を覆い始める。


––––ズブッ……


 藤村の左手が徐々に壁に吸い込まれていく。同じように瀧もその壁の中へと向かって吸い込まれていく。


#####


「終わりだね」  


 SHADOWシャドウの影が花に向かって襲いかかる。


「お前がな」


––––ドンッ


 D–2へと繋がれた次元の穴から現れた藤村が背後からSHADOWシャドウの後頭部に向かって〝八方美人トランスフォーマー〟で発砲する。全ての〝八方美人トランスフォーマー〟の形態は共通してサイクスを込めて放つ強力なエネルギー弾を発射することが可能である。

 藤村の放ったサイクスの弾丸はSHADOWシャドウの頭部を破壊する。その瞬間、SHADOWシャドウの身体全体が黒い影に覆われ、そのまま地面に映る自分の影に吸い込まれるようにして姿が消える。


「!」


 オフィスデスクの影が先を尖らせて藤村を四方から突き刺そうと襲いかかる。藤村は跳躍して上へ回避、しかしSHADOWシャドウの影は藤村を追ってしなやかに曲がり、跳躍する藤村を追う。藤村は天井に左手で触れて姿を消し、追ってきた影は藤村を逃がしてそのまま天井を貫く。

 SHADOWシャドウの影は藤村を見失ったものの、再び次元の穴から現れた藤村がSHADOWシャドウに銃口を向けている間に、花を退避させていた瀧に標的を変えて襲いかかる。


––––ゴゴゴゴ……


 瀧はそれを見て強力なサイクスを一瞬で身体に纏って防御態勢に入る。さらに瀧はこの〝アウター・サイクス〟の状態で纏っている身体周辺のサイクスの範囲を広げ、後ろで負傷している花への攻撃も防ぐ。


――〝アウトライング〟 


 この〝アウトライング・サイクス〟は〝アウター・サイクス〟の応用でサイクスの消費を最小限に抑えつつ身体周辺に纏ったサイクスの範囲を広げて広範囲に渡る攻撃を防ぐ技術である。瀧の〝アウトライング・サイクス〟は瀧の肉体同様、壁を貫くSHADOWシャドウの影を物ともせずに弾き返すほどの強度を誇る。


「相変わらずデタラメなサイクス量ね」


 花は負傷した左肩の処置を手早く終え、瀧のサイクス量を見て半分呆れながら呟く。


「素直に褒められね―のか、お前は。それ、大丈夫か?」


 瀧は悪態を突きながら花の左肩の負傷具合を尋ねる。花は「えぇ」と短く答えて左手で問題ないというジェスチャーを瀧に向ける。


「!!」


 瀧、花、そしてD–2に開通させていた次元の穴から姿を現した藤村の間に広がるオフィスデスクの数々。その影から8体のSHADOWシャドウが出現する。それらSHADOWシャドウの身体から多数の影が伸びて3人に襲いかかる。瀧は再び〝アウトライング・サイクス〟を使って襲いくる影を防御、花はそれを遮蔽に使いながら拳銃で正確にSHADOWシャドウたちを撃ち抜く。


「実体がない……!」


 花の言葉通り、撃ち抜かれたSHADOWシャドウたちは身体に命中している手応えがなく、撃ち抜かれた箇所から影が覆って元の状態に戻っている。


「……」


 一方で藤村は襲いかかるSHADOWシャドウの影を余裕の表情で回避しつつ8体のSHADOWシャドウを観察する。


(あいつか)


 藤村は8体のうちの1体のSHADOWシャドウの背後を取って〝八方美人トランスフォーマー〟を向ける。


「影分身のつもりか?」


 藤村の言葉に対してSHADOWシャドウが答える。


「ほう、どうして分かった?」

「お前だけ身体から影の攻撃を仕掛けてなかったんだよ。上手いこと他の7体を囮にして隠れていたが、他の分身たちとは違ってお前だけ足元の影を利用して攻撃していた」

「ご名答」


 SHADOWシャドウはそう短く答えると他7体の分身を消滅させる。そして藤村を最も危険な存在として認識し、全力を注ぐことを決めた。


(藤村洸哉……噂通り厄介な存在だな……)


––––ズズズズ……


 SHADOWシャドウの足元の影が広がる。


――〝深淵の入り口ブラック・フォレスト


 藤村は異常を察知し、離れようとするもそのままSHADOWシャドウと共に影に飲み込まれ始める。


「課長!」


 瀧の言葉に対して藤村は不敵な笑みを浮かべながら告げる。


「そっちは任せた」


 藤村は瀧に一言だけ告げるとSHADOWシャドウと共にそのまま影に飲み込まれて忽然と姿を消した。


――ドンッ


 2人の姿が消えた直後、D–2の壁を破壊し、そこから膨大なサイクスを纏った巨体が現れる。


GOLEMゴーレムか」


 瀧が言い終わるか言い終わらないかのうちにGOLEMゴーレムは瀧に向けて拳を向ける。瀧はその拳を防御して受け止めるものの、GOLEMゴーレムはさらなるサイクスで押し切ろうと図る。瀧はジリジリと後ろに押されるもGOLEM《ゴーレム》の強力な一撃を止める。


「やるな」


 GOLEMゴーレムは瀧のタフさに感心する。


「お前みたいなのは頭使わないで相手できそうで安心するぜ」


 瀧はそう言うとサイクスの出力を上げ、瀧とGOLEMゴーレムの身体から発する赤く輝く身体刺激型サイクスが共鳴する。




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