第110話 - 東京都第10地区
仁は落ち着いた口調で
「長く生きておるが、今まで覚醒維持を見かけたのは2回。しかも娘と孫」
「へぇ〜。偶然も重なるもんだね。優秀なのかな?」
「そもそも覚醒自体が頻繁に起こるものじゃあない。そして覚醒維持はあまりにもサイクス量が多いために身体がブレーキとして引き起こす。第一・第二覚醒を終えてもなおそのサイクスの
仁はここで一呼吸入れる。
「不協の十二音じゃったか?
「……何が?」
黙って聞いていた
「娘はサイクス遺伝学、その夫・
「……」
「昔、超能力者の覚醒を人工的に引き起こすための研究が行われていた。それができるようになれば国内問題の解決だけでなく、国際情勢的にも有利に働く。34年前のテロ事件をキッカケにその動きは具体化し、その先頭に立ったのは日陽党の若き日の白井康介。しかし覚醒に関するメカニズムすらも解明できずに計画は頓挫し、中止となった。だが、以来ある噂がまことしやかに囁かれるようになった」
「噂って?」
「東京都第10地区」
仁の一言に
––––東京都第10地区
10地区に区分された東京都において最西端に位置する地区である。この地域は『旧・青梅市』、『旧・檜原村』、『旧・奥多摩町』で構成されており、環境保全団体や一部地域住民の運動が功を奏し、大規模都市化が進む
「東京都第10地区のような豊かな自然を維持し続けている地域を『環境保全特別指定区域』と名付けて全国各所に存在している。ここ福岡県第3地区第2セクター・能古島もそう区分されている」
ここで仁は一度言葉を切ると、その声に一層力が込める。
「先に述べた研究が頓挫して以降、まもなくしてそうした地域から行方不明者が毎年数名ずつ見られるようになった。このご時世にじゃ。また、環境保全特別指定地域から便利さを求めて移住し、不自然に裕福な暮らしを始めた者たちも現れるようになった。そして覚醒者を生み出すための研究、つまりは非人道的な人体実験が行われているという黒い噂が聞かれるようになった」
「その結果がボクらだと?」
「可能性の話じゃよ」
仁は即答し、さらに続ける。
「サイクス第一研究所はサイクスと人体に関する研究として世界最先端を走っておった。それは瞳のサイクス遺伝学、蒼生の脳科学の研究拠点でもあった。先天性超能力者と後天性超能力者の遺伝的関連性、覚醒の仕組みや遺伝学からの視点。初めは人体実験の怨みからの犯行と思っておったが、研究資料が目的だったんじゃろ?」
「さっきの解体した若造の回収箇所といい、みずへのちょっかいの出し方といい、お主ら覚醒者を人工的に作り出したいのか?」
––––悟られてはいけない
「ククク。覚醒ももちろんだけどもうさ、非超能力者っていらなくない?」
「そっちの方が面白くない? 強い人たちが増えるだろうしね。退屈しなくなるよ」
「人にはそれぞれ幸せの形があるんじゃよ。それを貴様らの都合で脅かすことは許さん。襲撃で得た研究資料、返してもらうぞ」
仁は慎重に言葉を選択して不協の十二音の目的を探っていた。
(こちらが研究の情報を持っていることを悟られてはいけない。それは愛香の危険を意味する……!)
––––〝
––––〝
––––〝
仁はコンクリートを躱すと両手で空気を鮫型に切り取り、サイクスを込めて
「!?」
仁が飛ばした〝
––––〝
仁は
(そっちがメインか)
「ぐっ」
その時、仁の背後から左肩付近にナイフが刺さる。
「アハハハハハハハハハ!!!」
「まだまだ」
––––ドオォォン!!!
仁の側には右腕を失った柳と左肩を負傷しながらもショットガンを構えている鈴村が揃う。
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