第84話 - 海中の殺戮
現在福岡では、『
––––8年前
百道浜海岸から沖合いに出た場所に1隻の船が漂う。
「何で俺たちが!!」
甲板で近藤、皆藤、中本が縛られている。
「お前ら調子乗り過ぎたんよ」
石森組若頭・
「第9地区の若松海岸辺りは鹿鳴組のシマだってことくらい知っとったやろ? 海荒らしただけじゃなく1人リンチにしよって。普通なら全面戦争もんよ?」
九条は落ち着いた声で3人に話を続ける。
「お前ら3人を始末して落とし前つけるって組長同士で決まったんよ。好き勝手やってたのも俺らんシマやったから大目に見とったけどなぁ。今回ばかりはそうはいかねぇ。ま、最後くらい組織のために役立ってくれや」
九条は部下4人に合図をすると、1人は証拠のために動画を撮影し、残りの3人は近藤たちを海から突き落とした。
身動きの取れないまま3人は海深くに沈んでいく。
その時、近藤と皆藤は覚醒し、サイクス量が跳ね上がる。近藤は固有の超能力・〝
––––数十分後
「お前ら俺を殺してその後どうなるか分かってんのか!?」
皆藤に首を掴まれ、持ち上げられながら九条が凄む。
「今ここで解放したところでやろ」
近藤がそう言い残すと皆藤はそのまま片腕で九条の首をへし折る。その後、近藤は徐々に仲間を集めていって4年の歳月をかけて石森組を1人残らず壊滅、彼らの縄張りを支配した。
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マッコウクジラに飲まれ、胃の筋肉の壁に押しつぶされながら石森組での皆藤、中本との生活や、その後3人で石森組を壊滅させた日々を思い返していた。〝衝撃魚雷〟ではギフテッドであるマッコウクジラの筋肉を傷付けることはできない。
「……」
近藤は同時に4年前、石森組を潰した後に突如現れた仮面の男を思い出していた。マスクは革製、目の部分は幅に沿って金属製の細長い長方形が複数横に伸び、その隙間から微かに見える瞳。口と顎を
3人は石森組の残党だと思い、攻撃するも動きを止められてしまう。その男は当時30歳の近藤たちよりも明らかに若い声で語った。
「別に身体刺激型超能力者と物質刺激型超能力者に複雑な超能力は必要ないよ」
その真意を説明した後、さらに続けた。
「身体刺激型超能力者の君たちはサイクスを込めた攻撃をするだけでとんでもないダメージを与えられるよ。戦闘型じゃない君でもね」
中本を指差しながらその男は語った。
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近藤はマッコウクジラの胃の中でありったけのサイクスを身体に纏う。それによって自身の防御力を高める。その後、最大火力の〝爆撃魚雷〟を多数設置し、起爆した。
マッコウクジラは内部での爆発に大きなダメージを負った。それでもその筋肉の壁全てを破壊するまでには至らない。近藤は右拳にサイクスを込めて殴打すると遂にマッコウクジラの壁を破り、脱出に成功する。マッコウクジラが機能を完全に停止し、そのまま深海の闇へと消える。近藤はサイクスで防御力を上げたものの身体の一部が焦げている。
マッコウクジラの内部からの異常を察知していたシャチのギフテッドはその振り上げられた右腕を上腕から喰い千切る。
近藤は大口を開けて笑う。
その狂気に満ちた邪悪な笑いは海の殺し屋集団に恐怖を与えた。
「全員殺すばい」
––––そこからは近藤の一方的な海中での殺戮ショーが始まった。
近藤が百道コンテナターミナルに降り立った時、マッコウクジラ1匹、2匹のシャチのギフテッドを含むシャチ27匹、イルカ8匹を虐殺、海水で流せないほどの返り血を一身に浴びていた。
近藤は結衣の顔面を蹴り上げ、萌の
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結衣と萌が気を失った直後、瑞希、和人、綾子は花と合流して車に乗り込んだ。終始〝
(私が確認できた魚雷、機雷の種類は衝撃、爆破、捕縛の3つだった。そして浜で向けられた時には躱すことが可能で、追尾機能は無かったはず。あの死角の中で正確に結衣ちゃんに攻撃できたのはどうして?)
助手席に座る瑞希は何とか思考を巡らせる。花は3人の様子を見ながら話を始める。
「あの集団は近藤組って言って最近、福岡で頭角を現し始めた集団よ。主に海で密漁してそれを元手に金を稼いでる。他にも違法店を経営したり、詐欺を働いたり、殺しもしてる」
花の言葉を聞いて瑞希はある可能性に辿り着く。
(密漁……。貴重な、例えばイルカのような絶滅危惧種を捕らえるにはまず探すことが必要。生け捕りのための捕縛、実際に追い込むためや不測の事態での戦闘のための爆破と衝撃。そして……見つけるための探索。その可能性まで考えていなかった)
花は瑞希の顔を見て尋ねる。
「瑞希、どうして長野さんを全力で引き止めなかったの?」
瑞希は花の方を向く。答えられない様子を見て花は続ける。
「確かに長野さんは水中で力を発揮する超能力。だけど豊島さんを連れ去った男の危険性くらい分かったわよね? そして長野さんはサイクスの使い方もまだまだ未熟。例えあなたの指示があったとしても」
瑞希は花から視線を逸らして正面を向いた後に下に視線を落とす。
「結果的に2人を危険な目に遭わせただけでなく相手を激昂させた。考えられる目的からして2人がすぐに殺されるとは思わないけどそれも不確かよ」
横目で瑞希の方へと視線をやると沈んだ肩は小刻みに震え、垂れ下がった前髪で目は見えないものの白い頬は紅潮している。花は一度瞬きをして深く息を吸った後に静かに吐き、
「泣かない」
花は優しく瑞希の頭を撫でた後、
「まぁ、仲の良い友人が連れ去られた手前、何もするなって言うのは難しいけどね、長野さんも含めて。ここからは冷静に、ね? 私もいるから」
瑞希は静かにコクッと頷く。
「どこへ向かっているんですか?」
後頭部席から少し気まずそうにしていた和人は、2人の話が一段落ついたのを見て和人が尋ねる。
(こういう時に何か優しい言葉をかけてあげれば好感度上がるわよ)
花は余計な感情が湧いたことに苦笑いしながら和人の問いかけに答える。
「百道コンテナターミナル」
結衣が陸に上がった時、体力の消耗から地面を向いて手をついていることが多く、その後、すぐに意識を失ったために周囲の情報はほぼ無かった。それでも花の言葉にはある程度の確信があるような響きだった。
「面積も広くて、コンテナの中に違法物資を隠せる。船で逃走も図れるし、何より海が近くにあることで近藤が力を発揮し易い。他の場所にも県警に向かってもらってるけど最も可能性が高いわ。従業員は脅迫なり何なりすれば懐柔できるしね」
現在地から百道コンテナターミナル到着まで約15分。焦る気持ちを落ち着けながら瑞希はサイクスを静かに宿す。
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