第75話 - 強み
花と和人の2人は6人が座るテーブルの隣にある4人掛けのテーブルに座り、福岡へやってきた経緯を説明した。花が警視庁の人間であることを知らない萌、結衣、志乃、綾子は目をパチクリさせている。
「徳田先生って刑事さんだったんだ!」
「声が大きい」
萌に対して花は自分の口に人差し指を当てながら注意する。それを見て萌は慌てて両手を口で押さえる。志乃は、その様子を見ながら「もう遅いのでは?」と横目で見ながらツッコミを入れている。
「今から私たちは福岡県警の方々や海洋調査団の方々と近くで待ち合わせて現状の話をしてくるから。何かあったら言ってちょうだい。特に瑞希。良いわね?」
花は席を立ちながら6人に注意を促す。
(※海上保安庁は廃止され、海上の治安維持は各県警察と海上調査団の協力の下で維持されている)
「えっ、和人君は一緒に遊ばないの?」
瑞希がフォークでベーコンをツンツンと突きながら少し残念そうに尋ねる。瑞希の仕草を眺めている中で予想外に話を振られたことへの驚きと恥ずかしさで和人は少し反応が遅れてしまう。
「女の子6人の中に男の子1人で混ぜるなんて鬼か、あんたは。それに和人は色々と勉強中なのよ」
代わりに花が答え、それに対して「別に良いのに〜」と瑞希はベーコンを頬張りながら膨れる。その様子を見て結衣は「え、何それ可愛い」と呟いている。そんな瑞希を余所に花と和人は席を立ち、その場から離れていく。
「もしかして遊びたかった?」
レストランを出てホテルの出口へと向かっている最中に花が和人に尋ねる。
「いえ、遊びに来たわけではないので」
和人の無機質な答えに真意を図りかねつつも「そう、偉いわね」と一言だけ告げ、前を向く。すると後ろから花を呼ぶ声が聞こえ、瑞希が追いかけて来ていた。
「どうしたの?」
花の問いかけに対して瑞希は少し考え込みながら話し始めた。
「今朝、萌ちゃんを見て気付いたんですけど、赤色の残留サイクスが濃く残っていて……。綾子ちゃん、結衣ちゃんの身体刺激型のサイクスとは違くて。本人に聞いてみたら昨日の夜にお散歩したらしいんです。その時に私のお祖父ちゃんと眼帯を着けた男の人に会ったらしいです。お祖父ちゃんは自然科学型なのでその眼帯の人のサイクスかなって」
花は瑞希の話を落ち着いた声で聞き返す。
「どうしてそれが気になるの?」
瑞希は口に出す言葉で自分の考えを確認しているかのようにゆっくりと説明し始める。
「残留サイクスって普通に歩いててもサイクスを発してたら残るものなんですけど……。その……意図的に他人にサイクスを向けるとより色濃く残るんです。前になっちゃんの左腕に先生のサイクスが残ってた時みたいに……」
瑞希は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら最後の言葉を振り絞っていた。花は「なるほど」と呟き、床の一点を見つめながら思考を開始する。
(感覚的には理解できるわね。相手に何らかの超能力をかける時には込めるサイクス量が増えるでしょうし。観察眼に優れ、サイクスの感覚にも敏感なこの子が言うなら不自然な量の残留サイクスが付着しているのは事実……。そして接触の多い身体刺激型の子たちとも違うとなると確かに変ね)
「豊島さん、誰かに超能力をかけられている様には見えなかったけど」
「それが不思議なんです」
花の問いかけに対して眉をひそめながら瑞希は即答した。
(この子が言っていることが正しいとすれば環境依存型の超能力かしら)
環境依存型の超能力とは、対象者がある条件下において発動するタイプの超能力である。萌がかけられた〝
「分かった、豊島さんにその眼帯の男の詳しい特徴を聞いて後でメッセージを送っておいて。良いわね?」
瑞希は「はい」と返事すると、再びレストランへと戻っていった。
「瑞希ってよく人のことを見てますよね。おそろしいくらいに冷静に」
和人は、瑞希が戻っていく後ろ姿が見えなくなるまで見守った後に花に話しかける。
「えぇ。サイクス量も超能力もとてつもないものだけど、それ以上にあの子は冷静に状況を見定められる頭脳が最大の強みよ。それによって将来的には
花はそう言いながら和人の背中を軽く叩き、先を歩いていく。和人はその花のアクションを激励と捉え、力強く一歩を踏み出して花の後を追った。
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瑞希が5人の元へと戻った時、全員が心なしかニヤニヤしている。
「みずちゃん、もしかしてあのカッコ良い男の子、彼氏?」
萌が期待に満ちた顔で尋ねる。瑞希は一瞬で顔を真っ赤にし、両手を顔の前で左右に振りながら否定する。
「違うよ! 和人君は第一東京特別教育機関でお友達だっただけ! それに最近は訓練なんかでよく会ってたし!」
必死に否定している瑞希を見て萌は笑い、綾子は「可愛い」と呟く。
「萌ちゃん、昨日会ったっていう眼帯の人の特徴、もっと詳しく教えて!」
唯一の大学生で大人な雰囲気を醸す芽衣ですらも笑いを堪えながら「話すり替えた」と言い、結衣と笑っている。瑞希はなおも顔を赤くしながら萌に男の特徴を聞き出し、それを花の携帯へと送信した。
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福岡県第2地区5番街第1セクター23『百道コンテナターミナル』
近藤たちはホテルオーキのある第1セクター5から少し離れた所に保有するコンテナターミナルへと既に移動を終えていた。百道コンテナターミナルは福岡県の海上輸送と陸上輸送の接点となるコンテナターミナルの1つだ。自分たちの不正に手にした物資を隠す場所として目を付けた近藤は、数ヶ月前に職員らの汚職の証拠を握って脅迫、口外しないことを条件に拠点として自由に使用できるようにした。
「どうや? 秋人」
ホテルオーキの近くに潜伏している中本に連絡を入れる。
「まだ浜辺には出て来てないな。念の為にまだ200メートル圏内にはいないぜ」
「OK。それで良い」
まずは一緒に行動している人数の把握をする。その後、数人がナンパを装って集団を分断させ、中本が〝
「お、出て来たぜ。更衣室の様子から録りたかったぜ〜」
「慌てんな。捕らえて用が済んだら好きにして良いけん」
中本は数人の部下に合図を送り、行動を開始した。
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