第74話 - 皆んなやっとるけん
「ほう、動物と話せるっていうのは役に立ちそうやな」
近藤は中本の話を聞いて頷き、中本はニヤリと笑みを浮かべる。そこに皆藤が口を挟む。
「近藤、ガキで旅行客ってお前が言ってた条件に合致しねーか?」
「何の話だ?」
皆藤は中本に先ほどの話について順を追って説明した。
「なるほどな。そういうとんでもないサイクス量は2人から感じなかったけどな。あともう一つ面白い話があってよ」
「もったいぶってねーで最初に全部話せよ」
「お前が話を遮ってきたんだろうがよ」
中本は皆藤の一言に対して軽く悪態をついた後に近藤の方に向き直る。
「よく分からんジジィが2人から離れた後に少し様子を見てたんだが、あいつらホテルオーキの方に戻って行ったんだ。あのホテルまだオープンしてねーよな?」
周りの部下たちが「確か10月にオープンっすね」と話している。
「……ってことはホテルオーキの関係者ってわけだ。誘拐したらついでに金だって要求できるはずだぜ」
それを聞いて後ろの部下たちも「おぉ!」「ラッキー!」と歓声を上げている。それを右手で制しながら近藤が話し始める。
「ホテルオーキは本拠地東京のはずだ。ってことはそのガキ共は東京から来た可能性が高い。そいつらの会話からしてまだ何人かいそうなんよな?」
中本が頷いたのを確認して近藤は再び話し始める。
「その中に昼間のサイクスの持ち主がいるかもしれねーってことだ。まぁ、俺の見立てではまだまだ未熟な超能力者のはずやから警戒を怠らなければ問題ないだろうがな」
近藤の冷静さに部下たちは感嘆の声を上げている。
「それじゃあ、まずはその動物と話せるっていう巨乳の
近藤の言葉に対して中本が反応する。
「もう1人捕まえんのか? 用心するんじゃねーのかよ」
近藤はイルカのギフテッドが入れられている水槽の前まで歩き、片手をつきながら話し始める。
「その動物と話せる超能力者、動物との会話内容は他人と共有できると?」
近藤の問いかけに対して答えられる者はいない。
「答えは〝分からない〟や。できるにしても誘拐した俺たちに共有すると思うか? 答えはノーやろ? その間にこのイルカとそのガキが何か企んで罠に誘導されたらどうする? そんなの確認しようがないやろ?」
周りの者たちも「そうか……」と考え込む。
「そこでもう1人誘拐してそいつを痛めつけるとその巨乳ちゃんはどう思うんやろうなぁ? お友達が傷付いてても放っておけるほどの精神力がガキに備わってると思うか?」
中本は近藤の狡猾さにゴクリと唾を飲み込む。
「たださっき言ったように、あの大きなサイクスを持ってる奴を捕まえることは避けよう。サイクスを持ってる連中は注意して見らんとよ? 非超能力者は絶対に指示に従って勝手に行動を起こさないことやんね。誘拐後はホテルオーキもすぐに対応してくると思うけん、俺たちも急がんとやね。拠点を百道浜の近くに移さんとやね。明日から早速動くけん、皆んなよろしく」
近藤はそう言うと部屋から出て行く。その後を皆藤と中本が追って声をかける。
「近藤、やっぱ賢いなーお前」
皆藤が感心している。
「最近、一目置かれるようになったとはいえ、俺たちはまだまだ小さい。それに今後は別の勢力や警察からも狙われる。賢く立ち回っていかなきゃ生き残っていけんよ?」
「それにしても高校生くらいのガキに対してエグいな〜」
中本はニヤつきながら近藤に話しかける。
「言うてね、皆んなやっとるけん」
近藤の一言に対して皆藤と中本は下衆な笑い声を上げ、それに近藤も追随して大声で笑う。3人の笑い声は壁を反響し不気味に深夜の街を包み込んだ。
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「……それで何で私が福岡に朝から駆り出されてるのよ!」
翌日8月18日午前9時を回った頃、サマーベレー帽を被りって白いカットソーにえんじ色のパンツを履いた徳田花が1人の少年を同行させている。少年はキャップを被り、黒い無地のTシャツにダメージジーンズを履いた霧島和人である。2人は福岡県第2地区FDGAから
「妹が少し心配なもので」
愛香が申し訳なさそうに返す。花はその様子を見て少し溜め息をつく。
「大丈夫よ、愛香。花さん、みずのこと大好きなんだから。仕事が忙しい中、瑞希ちゃんのサイクスや体術の訓練に付きっきりだし」
隣で玲奈が首を突っ込む。
「あんたは何で来ないのよ」
「私は愛香が超能力で得た情報を皆んなに共有しないといけないので」
玲奈は冷静に返答する。
前日に瑞希のサイクスの暴発したという知らせを受けて花は内務省から見守り役兼監視として福岡へと向かうよう命じられた。花は進行中の任務が前日に落ち着いたこともあってそれを切り上げて休む間もなく行動している。また、福岡県警からここ最近、海洋生物を違法に捕獲する集団についての報告を受けており、その取り締まりの協力目的でも派遣された。
一方で、TRACKERSへの加入が内定している和人は、夏休みに入ってからより積極的に警視庁の捜査に参加しており、花のサポート役として派遣された。
「ホテルオーキにも話を通して最高VIP部屋にしたんだから良いだろ」
捜査一課長の藤村がタバコに火を点けながら話す。
「課長が行けば少なくとも問題になってる集団は数時間もあれば壊滅でしょうに」
「バーカ、俺はそう簡単に離れられないの」
現実世界で藤村は口からタバコの煙を吐き出す。東京は朝から風がほとんどない真夏日。吐き出された煙は真っ直ぐに上に立ち上り、陽射しの中で細かな粒となって広がっていく。
「まぁとにかく頼んだぜ。お前のことは信頼してんだからよ」
藤村はそう言い残すと灰皿にタバコを押し付けて火を消し、通信を断った。
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10時が過ぎ、花と和人はそれぞれ42階と41階に荷物を置いた後にロビーで合流する。ホテルはオープンする前であるため、人は少なく数人のアンドロイドと数体のロボットが稼働しているのみである。数人の招待客が朝食ビュッフェが用意されているレストランへ向かい、談笑している声が聞こえてくる。その中から特に明るい少女たちの声が聞こえてくる。花はその声を聞きつけて少し呆れた様子で腰に手を当てながら和人に合図を送り、レストランを指差す。和人は頷き、2人はレストランへと向かった。
テレビでも何度か見たことがある実業家や高級ブランドを身に付けた企業の重役たちが各テーブルでコーヒーや綺麗に盛り付けた朝食を摂る中で明らかに場違いな少女たちが騒いでいる。その中で萌がいち早く花と和人に気付く。
「あれ!? 徳田先生!?」
と驚きの声を上げ、瑞希も2人に視線を向けて同じく驚きの声を上げる。
「和人君もいる!」
その音量に驚いた周囲の者たちはその声が女子高生たちから発せられたものだと気付くと少し微笑み、花と和人は少し恥ずかしそうに周囲に頭を下げるのだった。
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