第72話 - アテ
「あのサイクスは何やったんやろうな」
拠点に戻った近藤は、部下たちが捕らえたイルカを専用の水槽に入れている様子を眺めながら呟く。イルカのギフテッドのみ別の水槽に入れられ、より厳重に管理される。
「あんなサイクスを持ってる奴、今までおらんかったよね」
椅子に座って考えている近藤の背後から190センチほどのガタイの良い金髪の大男、幹部の
「あんな超能力者おったら俺らみたいな新しい集団なんてもっと前に消されとるよ」
「じゃあ、福岡県警や海洋調査団が別の県から応援要請したんかな?」
他の部下たちも2人の話に加わって意見を交わす。
「なぁ、
近藤が部下の1人に尋ねる。
「いえ、いないっす。多分海にでも行って目星い女でも探しとるんじゃないすか?」
「あーね。正直、今は店の女も増え過ぎとるけん、いらんのやけどなー。ナンパならまた違うんやろうけど」
別の部下が近藤に尋ねる。
「
近藤は椅子を回転させながら答える。
「他のとこの連中、特に指定暴力団で最近潰されたとこはあるんかなってな。お前ら何か聞いてるか?」
頷くものは誰1人としていない。その様子を見て近藤は少し考え込む。
「何か気なることでもあると?」
皆藤が首を掻きながら近藤に尋ねた。
「……いや、もし本当に応援を要請してあれほどの超能力者を連れて来たなら最初に俺らみたいな小さいグループから狩るかいな? 4大勢力の方が優先度高くねぇか?」
「見せしめじゃねーのか? わざわざあんな巨大なサイクス見せ付けてよ」
近藤は一瞬沈黙し、再び話を始める。
「それなんよ。それも不可解なんよ。わざわざあんなサイクス放出する必要なくね? 見せしめにしても狩りに来なかったけんな。他の組も警戒しだしてより見つけにくくなるぜ? もっと静かに行動に移した方が有利やん?」
「確かに……」と皆藤や他のメンバーも近藤の意見に頷いた。
「しかも非超能力者までビビらかすような量やったよな」
1人の部下の呟きに近藤が「ナイス」と呟き反応する。
「確かに強いサイクスを放出するにしてもあんなに見せる必要はなかったやろ? これは確定はして欲しくはないんやけど……」
少し間を置いてから近藤は話し始める。
「警察とかの応援要請ではないと思う。そして今思えばあんだけのサイクスを持ってるのに不安定やった。まだサイクスの扱いに長けていない、つまりはガキの可能性が高いと思うっちゃん」
皆藤が信じられないという表情で話し始める。
「待て待て。あんなサイクスを持ってるガキがおるってのか!?」
「可能性はあるやろ。東京から帰省に来てたり、旅行しに来てたりなんてことはよくあるやろ? 特にまだ夏休み中やろ?」
グループの中に沈黙が流れる。
「まぁ、警戒は必要やけど、警戒し過ぎる必要もないってことたい」
近藤は立ち上がり、イルカのギフテッドが入っている水槽の前まで歩く。
「……ってことで、もう1匹のギフテッドも捕まえに行くけん」
「でもよー、どうやって見つけるんだ。他のイルカも含めてめちゃくちゃ警戒してると思うぜ」
皆藤の言葉に近藤は「フム」と考え込む。
「サイクスがあるんだし、言葉くらい喋れってんだよなぁ」
皆藤はそう呟くと頭を抱え込む。すると奥から右目に眼帯をしている細身の男がやって来て近藤たちに話しかける。
「勇樹、それならちょっとアテがあるぜ」
声のした方に近藤は目をやり、ニヤリとして近藤が告げる。
「聞かせろや」
#####
近藤組たちが拠点で話し合いを始める少し前、幹部である中本秋人は夜の百道浜を歩いていた。中本は自身の超能力、〝
中本は浜辺に出ている女性たちの警戒を緩めるために片手にはゴミ袋を、もう片方には火バサミを持ってゴミ集めをするボランティアに扮している。
(今日は良さそうな女は出歩いてねーなぁ。まぁ勇樹の奴も最近は少し飽和気味とは言ってたから無理して探す必要もないんやが……)
中本は、学生と思われる男女の若い集団が花火をしてはしゃいでいる姿を視界に捉えながら奥へと進む。少し離れた場所で少女2人が海に入って何かをしている様子を微かに見つける。
(あいつら何やってんだ? 様子見に行ってみるか……)
瞬間、中本はその少女たちの側にある影を捉える。
(なっ! あれは!?)
中本はその影からサイクスを感知し、確信する。
(間違いねぇ! 昼間に勇樹たちが逃がしたっていうイルカだ! サイクスも感じる!)
すぐに駆け寄りたい気持ちを抑えて中本は思考する。
(落ち着け。イルカのギフテッドは賢い。落ち着いて行かなきゃ悟られてしまうかもしれん)
中本は近付こうと試みるが、丁度イルカが海の深い方へと泳いで行ってしまった。
(クソ! 俺の超能力の範囲外! これじゃあ追えねぇ)
中本がその場で立ち尽くしていると2人の少女が砂浜へと戻って来て中本に声をかけてきた。
「どうしたんですか?」
中本は声をかけてきた身長が低い方の少女の方を見る。
(ガキか……けど胸結構でけぇな。そっちの背高い方も含めてどっちも容姿はいけとる。店で働かせるのはリスクが高いが、とっ捕まえて今のうちから教育したら将来有望だろうな……。いや一層のこと〝派遣〟の連中に売っちまうか?)
下衆な思惑を隠しながら中本は答える。
「いや、ゴミ拾いをしていたら君たちがこんな時間に海の中にいるのを見つけたから声をかけに行くところだったんだ。ダメじゃないか」
中本はそれらしい理由を付けて話す。
「ごめんなさい」
謝った後、背の高い方の少女が「ほら、だから言ったじゃん」と話している。
「だってキューちゃんが困ってたし」
「キューちゃん?」
聞き覚えのない単語に中本が聞き返す。
「あ、さっきそこにイルカがいたんです。お母さんがいなくなっちゃったて言ってて」
まだまだあどけ無さが残る少女が笑顔で話す。
「あんな所に珍しいね。それに……よくそんなこと分かったね」
「あ、私、動物とお話できるんです」
無邪気に少女は答える。
(これはもしかしたら……役に立つかもしれんな)
「そうなんだ! 凄いね……! 痛っ」
中本はそう言いながら右目の眼帯を外した。
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