第71話 - 嘘はついてないだろ?
「んっ……」
20分ほどして瑞希が目を覚ます。
「瑞希、気付いた? 大丈夫そう?」
すぐ側で心配そうな顔をした綾子が覗き込む。
「私……部屋に帰ってから疲れちゃって……倒れちゃったみたい。暑かったからかな?」
瑞希は額に腕を当てながら話している。
(もしかして覚えてないの?)
綾子は言葉を押し殺して瑞希の頬を両手で触り、その後額に手をやる。
「熱はないみたいだけど……身体が火照ってるね。今日は日差しが強いから身体が少しビックリしちゃったのかも」
綾子は今しがた目撃した光景をあえて話さなかった。瑞希の様子から先ほどの出来事を覚えていないことが窺え、これ以上不安がらせて彼女に負担を増やすことを嫌ったからだ。瑞希が身体を起こす。綾子は背中に手をやりながら支える。
「そうだ! 瑞希、マッサージしてあげるよ」
提案を聞き、瑞希は少し微笑んで「お願い」と一言発する。
––––〝
綾子は自身の超能力を発動して瑞希の身体に触れ、肩をほぐす。瑞希は気持ち良さそうな表情をしてその身を委ねる。
「綾子ちゃん、自分でいつでもできるの羨ましいな〜」
瑞希は羨望の眼差しで綾子を見る。そんな瑞希に綾子は肩をすくめながら答える。
「実はこれ自分にはできないんだ。まぁエステティシャンさんやアンドロイドさんのマッサージも気持ち良いから良いんだけどね〜」
「本当に!? もったいないなぁ〜」
瑞希は少し考えた後、綾子に告げる。
「綾子ちゃんにお礼したいんだけど……。その超能力、
「瑞希が私にマッサージしてくれるの?」
「うん」
「お願い!」
綾子は即答する。瑞希は〝
––––
「え!?」
瑞希が思わず声を上げる。
「どうしたの?」
「綾子ちゃんの超能力、
瑞希は何度か試したが結果は変わらない。瑞希はピボットに話しかける。
「ピボちゃん、どうして?」
「さぁ?」
ピボットのやる気のない素振りに少し頬を膨らませた瑞希は考える。
(どうして? 手順は正しいはずなのに……)
瑞希は綾子の両手のサイクスを眺めながら何かに気付いたのか綾子に尋ねる。
「綾子ちゃん、それもしかて逆のことできる?」
「逆って?」
「つまり、相手のサイクスの流れを悪くしたり、血行を悪くしたりすること」
「そんなの試したことないよ」
「やってみて」
綾子は少し躊躇しながら瑞希に触れる。
(瑞希のサイクスの流れを悪くして!)
瑞希はすぐに自分の身体の異変に気付く。
(身体が重い……! それに怠さも!)
様子に気付いた綾子はすぐに切り替え、瑞希を回復させる。
*****
「でも気を付けてね。キミが把握している部分しか
「なるほど。正確に超能力を把握した部分だけ
※第13話 - 代償 参照
*****
(正確に超能力を把握していなかったから? でもピボちゃんが言っていたことを考えると綾子ちゃんのサイクスの流れを良くしたり、血行を良くしたりするっていう部分だけが
「ははっ! 瑞希、困ってるみたいだね」
ピボットが瑞希に声をかける。
「どうして?」
「菜々美の場合、〝行動〟が違うだろ? 『自分に注射器を刺す行動』と『他人に注射器を刺す行動』のようにね。それぞれ瑞希は正確に把握した。けど今回は……?」
「『綾子ちゃんが他人に触れる行動』によってできることが2通りあるからそれをどちらも把握する必要がある。そういうこと?」
「その通り。ま、その辺はサイクスの裁量に委ねられるんだけどね」
瑞希が大きく溜め息をつき、ピボットをジト目で見る。
「何で言わなかったの?」
「でも嘘はついてないだろ?」
瑞希はもう一度溜め息をついて〝
「めっちゃ気持ち良い!」
綾子は瑞希のマッサージを受けながら歓喜の声を上げる。瑞希は満足そうにその様子を眺める。2人はその後もお互いにお互いの疲労を癒していった。
#####
夕方となり、萌、結衣、志乃、芽衣の4人は部屋に帰ってくる。
「さっき心配ないって連絡あったけど何だったの!?」
志乃が部屋に入るなり尋ねると、綾子は人差し指を自分の口に当てて「シーッ」と志乃を制す。瑞希はすっかりベッドの中で眠っている。志乃はそれを見て頷くと小声で詳細を尋ねる。綾子は4人に事情を話す。
「聞いたことある。サイクス量が多すぎると身体に変化が起こるってやつ」
聞き終わった後に芽衣が話し始める。
「でも元に戻ったって話は聞いたことないわよ。大丈夫なの?」
「本人は大丈夫って言ってはいます。まぁ何があったかは伝えていないんですけど……」
5人の中で沈黙が流れる。
「まぁ今のところ大丈夫そうだし……みずちゃん今回のすっごく楽しみにしてたし、もう少し様子見で良いんじゃない?」
萌が恐る恐る提案し、瑞希のことをきちんと見ておくということで5人の意見は合致した。
#####
––––その後、時間は過ぎて瑞希は起き上がり、全員は夕飯・入浴を済ませてゆっくりとくつろいでいる。
萌はおもむろに立ち上がって伸びをする。
「萌、どうしたの?」
志乃は萌に声をかける。
「何か夜の空気吸ってこようかなって。お散歩してくる〜」
「私も行くよ」
志乃は萌に付いて行く。
「別に良いのに〜」
「夜だし、1人よりいいでしょ」
そんな会話をしつつ2人はホテルの外へ向かった。
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