夏休み後編
第62話 - 外泊
全国の教育機関の夏季休業は8月半ばに差しかかっており、残り2週間程度となった。瑞希の通う東京第三地区高等学校も例外ではなく、生徒たちは残された課題をどう終わらせるかや、如何に残りの時間を有意義に過ごすかに重きを置いている。瑞希は既に課題の全てを終え、そのデータを高校に送信済みである。
「何着て行こっかな〜」
瑞希はクラスメイトの志乃が迎えに来る13時までに準備を整えているところだ。
大木志乃の父、
ホテルオーキ福岡の開店に先駆けて瑞希、志乃、萌、綾子、結衣の5人を招待し、1週間ほど滞在することとなった。ホテルオーキを実質5人で貸し切れることで女子高生たちの気持ちの高揚は計り知れない。
(福岡はお父さんとお母さんの命日以外で行くことはほとんどないし久しぶりだな〜。方言出ないようにしないと)
姉妹の両親は10月に亡くなっており、2人の遺骨は福岡県第3地区、旧糸島市に眠っている。毎年姉妹で福岡へ戻り、墓参りをしている。その際には第3地区に住む祖父母の家に宿泊している。瑞希にとって約1年ぶりの福岡訪問である。
(ホテルオーキ福岡は第2地区の海辺だし、少し時間かかるけどお祖父ちゃん、お祖母ちゃんの所に寄れれば良いけどなぁ)
ホテルオーキ福岡は第2地区・旧百道浜に建設され、美しい海を一望することができる。それを楽しみにしている瑞希は朝から軽く口ずさみながら準備をしているのだ。
1階のリビングでは、午前中に休みを取って瑞希の見送りと志乃の保護者に挨拶をするつもりである愛香と翔子が会話を交わしている。
「あの子、大丈夫かしら?」
「何が?」
愛香は若干不安そうに翔子に尋ねている。
「上野以外と遊びに行くなんてことほぼ無かったし、お泊まりだなんて以ての外……」
「大丈夫でしょ。大木さんのお母様や関係者の方々も付いてくれるらしいし」
「そうだと良いんだけど……」
愛香は少し溜め息をつく。翔子はその様子を見て少し笑った後に愛香の肩を軽くポンッと叩く。〝
「瑞希ちゃん、準備はできた?」
瑞希は鏡の前で少し伸びた前髪を横に流し、サイドの髪の毛を耳にかけている。
「あら、爽やかコーデね」
ストライプのトップスにスカイブルーのスカートを合わせた夏らしいファッションに翔子が感想を告げる。
「可愛いでしょ?」
瑞希はご機嫌にそう言って、クローゼットの中から薄いピンク色の羽織物を取り出す。翔子は初めての大人数での外泊にウキウキした気分を隠しきれていない瑞希を微笑ましく眺めながら、準備してあるキャリーバッグとリュックを1階へと運ぶ。
––––ピンポーン
翔子が荷物を降ろし終えたのと同時にインターホンが鳴る。翔子は丁寧に応対し、玄関口へ向かう。そこには大木志乃と姉である
「初めまして、いつもお世話になっております、大木です」
168センチと高身長の志乃よりも背が高い芽衣が挨拶をする。
「こちらこそ、お世話になっております」
翔子が応対しているところに後ろから車椅子を動かしながら愛香がやって来る。
「この度は本当にありがとうございます。妹がご迷惑をおかけします」
「いえいえ、志乃もお友達と一緒に過ごせるのを楽しみにしていたんですよ」
遅れて瑞希が玄関に到着し、軽く挨拶を交わした後に荷物を車へと運ぶ。
「それじゃあ、みず、ご迷惑にならないようにね」
「うん! 行って来ます!」
その後、瑞希は車に乗り込み、愛香は芽衣にもう一度挨拶して見送る。芽衣は瑞希と車内で改めて挨拶を交わした後、自動車に搭載されているAIに目的地を告げる。その後にハンドルの下にあるレバーを引いてサイクスが込められている容器を入れ込む。すると、アナウンスと共に車がサイクスを使った自動運転モードへと切り替わった。そして自動的にサイクスによって舗装された専用道路である『サイクス・ロード』を走り始める。
科学技術の発展は目覚ましく、さらにサイクスを融合させることによって人類は大きな利便性を手に入れることとなった。
例えば芽衣の運転する『
「萌や志乃からは聞いてたけど瑞希ちゃんめちゃくちゃ可愛いわね。スタイルも良いし」
車がサイクス・ロードを進行し始めてから芽衣が瑞希の方を見つめ、ニッコリしながら話しかける。
「どうも……」
瑞希は不意を突かれたと同時に恥ずかしくなって少し
「フフフ。恥ずかしがり屋さんなのもポイント高いわね。うちのお母さんに会った後にビックリしなきゃ良いけど」
そう言って車内に音楽を流し始めた。
#####
15分ほどしてから志乃の住む豪邸に到着する。
「……うわぁ」
声にならない声を出している瑞希を横目に少しハニカミながら門に手をかざす志乃。サイクスを込めて本人認証を行い、開門する。
「瑞希、こっちだよ」
瑞希は志乃の案内に従い、玄関口へ向かって自宅へ招かれた。既に到着していた綾子、萌、結衣が瑞希を出迎え、その後ろから志乃の母であり、ファッションデザイナーである
「初めまして! いらっしゃい、月島さん!」
大木由里子は輝く笑顔を瑞希に迎えながら歓迎した。
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