第61話 - 暇つぶし
「葉山委員長」
委員会終了後、石野が葉山を呼び止める。葉山は振り返って石野の姿を確認すると微笑みながら応答する。
「どうされましたか?」
「少しお時間を頂けますか?」
「えぇ、ぜひ。僕も石野議員とお話してみたかったんですよ!」
葉山は和やかに承諾すると2人は超能力者管理委員会棟4階までエレベーターに乗り小会議室へと入室した。
部屋に入ってデスクに荷物を置くと、石野に紅茶で良いかを確認した後、ご機嫌に鼻歌を歌いながら準備を始める。その後、2人分の紅茶を机の上に置いてニッコリとする。石野は礼を言って軽く一口飲んだ後に葉山に話しかける。
「今回の委員会、完敗でした」
葉山は穏やかに答える。
「何がですか?」
「……委員会初回から完全に主導権を握っておられました」
葉山が言葉を発さずに自分の発言を待っていることを確信し、石野は続ける。
「あなたは初めから日本をいくつかに分割し、それぞれに委員会が設置されることを予想していたんでしょう? そして月島姉妹と良好な関係を築くためにも親族……外堀を埋めるという意味でも九州地方を狙っていた。そして……」
「そして?」
葉山は微笑みながら尋ねる。
「そして先ほどの委員会終盤での発言……。様々な可能性を匂わせることで実質、我々は日月党に干渉し難くなった。その証拠にあの白井議員が、少なくとも月島瑞希さんのTRACKERSへの加入をあなたに任せた。その間、日月党は九州での活動が楽になり、時間も確保できた」
葉山は石野の言葉を飲み込み、静かに言葉を紡ぐ。
「見事な考察ですね。僕と同じく若い世代であること、そして委員会の中であなたが最も冷静であるように思えたのでお話してみたかったのですよ。実際、あなたによって微妙にですが、予定が変わりましたから」
葉山は一度言葉を切り、石野の反応を見て口に左手を当てながら再び話を始めた。
「結果を言えば半分正解、半分不正解と言ったところでしょうか。日月党への他党からの干渉をなるべく避けたかったのは正解です。しかし、15歳の少女を巻き込みたくないことと、彼女の意思を尊重したいというのは本当ですよ。もちろん加入してくれればかなりの戦力になるとは思っていますが……」
葉山はそのまま続ける。
「僕はまず現在のパワーバランスを変えたいと思っています。長らく日陽党体制が続いたこともあって彼らの力は強大過ぎる。石野さんの仰る通り、僕らは九州地方を担当し、月島さんたちと良好な関係を築きたいというのもありましたが、それだけで有利を取れるとは思っていませんでした」
少し考えてから石野は何かに閃いたのか一言発する。
「非超能力者の支持拡大……」
葉山は満足そうに笑い、軽く拍手するアクションをして答える。
「その通りです。超能力者の割合が最も少ない九州地方は、非超能力者が支持基盤である国民自由党の影響が大きい。そこで彼らと協力関係を結べればと思っていたのです。彼らは立場上、月島さんどころか超能力者と良好な関係を築くことは難しい。逆の立場である異共党は多くの超能力者を配下に持つ日陽党に近付くはず。後は日光党の皆さんですが、初回で石野さんの全党への協力を呼びかける言葉を聞き、あくまで中立の立場を貫くと考えました。日光党は従来では政権奪取よりも与党の監視、超能力者と非超能力者のバランスに重きを置いていましたから」
葉山の誤算はその後にあった。
石野が九州地方を希望し、葉山の思惑を阻止しようとしたことだ。大半のメンバーが『月島姉妹と接触を図ったこと』に焦点を当てている中、ただ1人、石野だけが九州地方にも注目していた。「月島」「九州」というワードが結びつくリスクが増えてしまった瞬間である。
「こちらにも〝手札〟があることを表明せざるを得なくなってしまいました」
(あの超能力を特定できることを暗示した発言か……)
石野は先ほどの委員会終盤での葉山の発言を思い返す。
「まぁ結果的に予定通りに暫くの均衡を作り出せたのですが。その間にこちらも準備する時間ができました」
葉山は笑顔になり、石野にある提案を持ち出す。
「石野さん、僕はこれから日本は超能力者の数が爆発的に増加すると考えています。5年後には過半数、
『引き抜き』あるいは『連立』、どちらとも取れる言葉に石野は呆気にとられる。
「それは……今の立場上、難しいですが……。協力を惜しまないという自分の立場は変わりません」
「ありがとうございます! まぁ、遅かれ早かれ〝垣根〟が失くなって立場が変わると思いますが」
「……どういうことですか?」
「いえ、お気になさらず。次の予定があるのでそろそろお
「葉山委員長、お忙しいところすみませんでした。お話できて良かったです」
石野が荷物をまとめている姿を横目に葉山は愛想よく会釈し、「また」と言って小会議室を後にする。
(人はそれを〝独裁〟と呼ぶのです)
日本月光党において他者の超能力を特定する
そもそも葉山は、超能力者管理委員会において明確な到達点など設定していない。強いて言うなれば『月島瑞希』という『オモチャ』で遊ぶための〝優先権〟を得ようとしていた。つまり、彼女をTRACKERSに加入させることに興味はなく、それを副次的な遊びとしてしか見ていない。
葉山は一連の委員会を『暇つぶしのゲーム』としてしか見ておらず、面白そうな人材を探し求める場としてしかみなしていなかったのだ。その中で非超能力者である石野亮太は意図せず彼の超能力を看破し、葉山の予測を上回った。
「暇つぶしにはなりそうですねぇ……」
葉山はそう小さく呟いた後、不敵に笑って建物を後にする。
葉山のことをよく知るごく僅かな者たちは、まるで運命が彼を愛しているかの如く事象が彼の思い通りに進む様子や、生まれ持ったカリスマ性と巧みな話術で他者を支配する様子からこう呼称する。
–––– 不協の十二音 指揮者・〝
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