第13話 年齢偽証とカシミア
酒場で騒いでいた奴らは、ハンスが冒険者ギルドから出ていくと着いて行くように去っていった。
その為、今はとても静かになっていた。
「リーシャちゃん、カイル大丈夫か?」
「はい。大丈夫です...」
「あぁ、すまないな。いつもは金銭や脅しばかりだったから大丈夫だと踏んでいたけど、まさか手を出してくるなんて思わなかった。しかも冒険者ギルド内で」
俺は倒れているカイルに肩を貸しながらリーシャちゃんの様子を伺うと、掴まれた腕を庇いながら小さく震えていた。
「いつからハンスって奴に目を付けられてたんだ?」
「俺達が冒険者ギルドに登録した時からもうリーシャに言いよってはいたんだ。あいつ見てくれだけはいいからそれに騙されて行方不明になった女性が沢山いるって話を聞いて、要求を断り続けていたんだけど...」
「でも、あの人、私達が言う事を聞かないから色々な嫌がらせをしてきて...」
最低のクズ野郎だな。冒険者ギルドもハンスが高ランクだから余計に手が出せないんだろう。
「そうか...ごめんな。辛いこと思い出させて」
「いやいいんだ。それこそお前を巻き込んでしまってすまない。この依頼の報告が終わったらまた憲兵団に掛け合ってみる」
カイルはそう言いながらも沈んだ表情を浮かべた。
またという事はいつも相手にされていないんだろう。それかハンスが憲兵団を抱き込んでるか、憲兵団がハンスにビビってるからだな。
「お兄ちゃん、私やっぱりハンスさんのもとに行った方がいいのかな?そうしたらお兄ちゃんも私もこんなに苦しまなくて良くなるかも...」
本当は行きたくないのにそんな事を口に出してしまうリーシャちゃんにカイルは詰め寄り
「そんなのはダメだ!俺達兄妹2人で頑張っていくって誓ったろ!?必ず俺が何とかするから諦めるな!」
「でも...」
と悲観的になっているリーシャちゃん。
どうやってハンスを追い詰めてやろうか考え終わった俺は口を挟む。
「俺の知り合いに頼めばハンスを何とか出来るかもしれない。この件、俺に任せてくれないか?」
そんな知り合いここに転生されてすぐの俺にいる訳ないんだけどね。
「そうしてくれるのは本当に助かるが、そもそもギマンに全くのメリットがないじゃないか。今日あったばかりの俺達にそこまでしてくれる理由がない」
「目の前で困ってる人間を助けるのに古い付き合いや今日会ったばかりなんか関係ないだろ? 疑うのはわかるが俺にもメリットはある。もう既にハンスは俺も目を付けている。降りかかる火の粉は払わないとな」
ちょっとキメ顔をしながら言ってみたが、本当は《錯覚》の検証と冒険者ランクAの実力がどの程度なのか知っておきたいと言うのも入っているがそれは内緒だ。
そうとは知らず2人は涙を浮かべた。
「本当にすまない。もし何とか出来たら報酬は絶対に払う。払えなくても一生かけて恩を返す」
「私からもお願いします!____もし、よろしければ私の身体でお支払い」
「困った時はお互い様だろ?俺が次何かあった時は頼らせてくれ」
リーシャちゃんの最後の言葉が小さすぎて全く聞こえなかったが、取り敢えずハンスの件に関しては俺が何とかするという事で一段落がついた。
「わかった。その時はもちろん頼ってくれ!じゃあ、俺達は受付に行って依頼の報告してくる」
「ホントにありがとうございます!ギマンさんかっこいいです!」
元の世界ではそんな事、1度も言われたことがなかった俺はちょっと感動してしまった。
2人は受付カウンターの方に行ってしまった。
さてと、俺も冒険者登録しようかなっと。
丁度空いていた受付に向かうと、さっきハンスに忠告をしていた受付嬢のところに来てしまった。
「先程は申し訳ありませんでした。もっと早くに気づいていればあのような事が...」
受付に着いた途端にそんな事を言われた俺は、真面目だなこの人と思いながら、胸に付けてあるネームプレートを見た。カシミアという名前らしい。
「いえいえ、あなたが来てくれなければもっと酷い事になってたかもしれません。友人を助けていただきありがとうございます」
人の良さそうな笑みを浮かべそう言うと、ほんのり赤くなりながらカシミアさんが「こほんっ」と咳払いをした。
「そう言われると少し救われます。それで今日はどのようなご要件でしょうか?」
「冒険者の登録をしたいんですけど...」
「はい。それじゃあこの書類に名前と年齢をお書きになってください」
カシミアは机の引き出しから書類とペンを取り出しカウンターに置いた。
「あのーそれだけで良いんでしょうか?」
名前と年齢だけで登録出来るとかザルにも程があるぞ。
こんなの嘘書いても全くバレねーじゃないか。
俺が冒険者ギルド大丈夫か?っと心配していると
「はい。大丈夫ですよ。最後にこの水晶に血を一滴垂らして貰いますけど」
「それは何でしょうか?」
カシミアさんが金庫のような所から慎重に持ってきた水晶は七色に輝いていた。
「これは鑑定の水晶と言ってLvやステータスの値なんかは分かりませんが、名前と年齢と犯罪歴が分かるという優れものなんですよ」
なるほど。だから書類手続きはこんなに簡単なんだな。
「凄いですね。わざわざ説明してもらってありがとうございます」
「いえいえ、よくあるご質問なので大丈夫です」
さてと、そうなると偽りは無理か。《錯覚》を使えば偽れはするがここで使う意味もないと感じた俺は素直に名前を書いて年齢の欄でペンを止めた。
あれ?俺ってこの世界だと何歳になるんだ?
こちらを見て不思議そうにしているカシミアがいる手前、早く書かないと怪しまれてしまう。
元の世界では28歳だったからそれでいいだろう。
書き終わった俺は小さな針で人差し指を刺して水晶に血を垂らす。
一瞬、輝いた水晶に書かれていた文字はというと
『
年齢:18 犯罪歴:なしと書かれていた。
俺が書いた紙と水晶を交互に見ていたカシミアさんはあれ?と言う顔をしていた。
「シノノメさんは水晶には18歳と書かれてますけど?」
「あっ!すいません。字が汚いもんでこれ2じゃなくて1って書いたんですけど、そんなに汚かったですか?」
「い、いえ!ごめんなさい!私の方こそ見間違えをしてしまいました」
危ねー。
ってか俺18歳なのかよ。《鑑定》のスキル使ったことあるけど年齢の欄なんか出てこなかったぞ。どーなってんだこりゃ。
「はい。犯罪歴もないですし大丈夫です。それでは、冒険者ランクFからの登録になりますがよろしいですか?」
俺は「お願いします」とカシミアに言うと若返った実感を肌なんか触りながら感じていた。
「それではこちらの冒険者カードをお受け取り下さい。依頼などはあちらのクエストボードからお探しになってくださいね」
冒険者カードを受け取る時、ちょっと手が触れてしまい、
カシミアさんはまた頬を赤くして咳払いをしていた。
美人さんのこの姿は可愛いな。
そんな事を思いながら受け取った冒険者カードは板で出来ており、表面にFと書かれ、裏面には名前と年齢、犯罪歴が書かれていた。
「わかりました。色々とありがとうございました」
お礼を言う俺をキョトンとした目で見てくるカシミアさんに「どうしました?」と尋ねると
「いや、ホントに丁寧の方なんだなと思いまして、だいたいここに来る人は皆さん口調が荒いので驚いていました。」
初対面の人と話す時はいつも丁寧の口調で話してたからその癖が出てたか。
向こうからタメ口聞いてきた時はタメ口で対応するけどな。カイルの時はそうだった。
「仲良くなれば口調荒くなりますよ私も」
「じゃあ、シノノメさんの口調が荒いところを早くみたいですね」
冗談交じりに笑いながらカシミアさんが言ってくる。
これは罠なのか?騙されてるのか?と疑り深い俺はそんな事を考えてしまう。
「最後に、あのハンスという冒険者には気をつけて下さい。行方不明になった女性の冒険者パーティから捜索依頼を受けるんですど、証拠や遺体が全く出てこないんで逮捕まで取り付けないんですよ...。だから、外を歩く時は警戒してください」
冒険者ギルド側も行方不明になった女性の犯人はハンスだと疑っているけど証拠が全くないからどうすればいいか決めあぐねてるのか。
「わかりました。気をつけますね」
俺はカシミアさんに会釈をしてそう言うと、依頼の報告を終えたであろうカイルとリーシャちゃんの所へと向かった。
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