第12話 冒険者ギルドとハンス




「奴らは、誰が人間領にトドメを刺すのかを決めている最中何だってよ。だから、これまでの猛侵攻が嘘のように今は静かなんだ」


「最前線に行っている方達も一応の為の準備として居るだけだと思います。」


兄妹から魔族側の状況を聞いて納得した。


俺が人間領に行く時、大規模ではなくともちょっとの小競り合いはあるのかと思ってたけど全くそういった場面には遭遇しなかった。そういう事だったんだな。


そのまま、味方同士で争ってくれれば良いのに


「魔神が8で魔王が16ってことは、1体の魔神につき2体の魔王が配下にいるって事なのか?」


「そうだな。魔神共がトドメを誰が刺すか決めあぐねているから配下の魔王達も今は静観している」


「もし襲って来ても勇者様パーティが倒してくれますよ!ほら!そろそろ冒険者ギルドに着きますよ!」


重々しい雰囲気を察したリーシャちゃんが明るく振る舞ってくれた。


目の前には、二階建ての無骨な木造建築物があり扉が閉まっているにも関わらず室内の喧騒が聞こえてくる。


「人類の危機だって言うのにここは騒がしいな」


俺は生憎と騒がしい所が嫌いだ。元の世界でクラブに連れて行かれた時も目を盗んで直ぐに帰宅してやった。


「まぁ滅亡する前に楽しもうって考えの奴らだけだよ。騒いでる連中は」


「あの人達、私の体をいやらしい目で見てくるところが嫌いです。」


何?そんな奴ら錯覚でゴリラにしか見えなくなるようにしてやろうか。


リーシャちゃんは自分の身体を隠すように両手で抱いているが全く隠してきていない部分があった。


「じゃあ、取り敢えず入るぜ」


カイルはそう言うと扉を開けて中に入っていく、その後をリーシャちゃん、俺の順番で入る。


中央には受付カウンターが6つあり、受付嬢達が冒険者の相手をしていた。明らかに依頼の報告ではなく口説いている奴も見受けられたが受付嬢の口は笑っているが目が笑っていない笑顔で対応されていた。


右側にはバーカウンターと座席が満員になっており、そこに溜まっている奴らがゲラゲラと騒いでる元凶達だった。


左側には依頼の紙が多数貼ってあるボードがあり人集りが出来ていた。

2階へ続く階段は受付カウンターの奥にあった。


「おっ!Fカップ! 間違えた! Fランク冒険者のリーシャちゃんが帰ってきたぞ!あとついでに老け顔カイルも」


「あれれ〜?その後ろのイケメン君は誰かな〜?もしかしてリーシャちゃん俺たちに内緒で男作っちゃったの!?」


「おいふざけんな!返せよ!俺達のおっぱい、じゃくてリーシャちゃんを!」


冒険者ギルドに入った途端、酒場の男たちから聞くに耐えない言葉を浴びせられる俺達。


「いつもこんな事を言われているのか?」


「すまないな。ギマン。お前まで巻き込んじまった」


「ごめんなさい。ギマンさん。私が一緒に行こうって言ったから」


そんな言葉を聞いた俺はここで、あの魔の森で行ったフルパンチを喰らわせてやろうかと考えた瞬間


___パンッ


酒場にいる金髪の男が1つ手拍子をした途端、あんなに騒がしかった周りの連中は黙りこくった。


その男が立ち上がり、こちらというかリーシャちゃんに向かって歩いて来て目の前で立ち止まった。


背丈は俺と同じくらいの180cm台、顔は整っているが何処か胡散臭いイメージがする。服装は白いシャツを着崩しており、赤いズボンを履き、腰には長剣を携えていた。


「なぁ〜?リーシャ。俺の誘いをあんだけ断っておいてこんな男にすんのかよ?切り刻まれたいのか?」


腰に携えた長剣に手を当てながらリーシャちゃんを脅す金髪男。


「おい!ハンス!もうリーシャには関わらないとこの前の取り引きで成立したろ!?」


カイルはリーシャを庇うようにハンスとの間に入った。


「あぁ?おっさん耳悪いのか?あの取り引きはその日だけって事だぞ?たった銀貨10枚ぽっちで俺と対等の取り引きとか舐めすぎ」


カイルはその言葉を聞き、口をパクパクとさせ呆然としていた。


「クハッ!その顔面白ぇなおっさん。て事で邪魔。どけよ。」


そう言うとハンスはカイルを殴り飛ばした。酒場のバーカウンターまで飛ばされたカイルは周りの男達に取り押さえられていた。


「お兄ちゃん!」


心配するリーシャちゃんを無視するようにハンスはリーシャちゃんの腕を掴み


「なんだったら今ここで犯してやっても良いんだぞ?ギャラリーがいる方が興奮するだろ?」


「いや!やめて!離して!」


掴まれた腕を必死に振りほどこうとするリーシャちゃんだが、ステータスの差がある為か全く振り解けない。


目立ちたくはなかったが、さすがに見逃せなくなった俺が出ていこうとした時、受付嬢の1人が騒ぎを聞きつけたのか駆け寄ってきた。


「ハンスさん。いくらあなたが冒険者ランクAだとしても冒険者ギルド内での暴行や犯罪は許されませんよ?これ以上するようなら相応の罰が下ることになりますが?」


「冗談冗談だって、おい!お前らもおっさん離してやれよ!これで文句ないだろ?」


ハンスはリーシャちゃんの腕を離し、カイルを取り押さえてる連中にも指示を出し解放した。

煽るように近づいて言ってきたハンスを数秒睨み、受付嬢は受付カウンターまで戻って行った。


「まぁこれからも仲良くしようぜ。同じ冒険者なんだからな」


そう言いながらハンスは酒場に戻って行った。その時小さな声で「冒険者ギルド内の犯罪なら...か」と呟いたのを俺は聞き逃さなかった。



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