怒るブランド

 舞台上で自由自在に魔法を使いこなすレイラの姿を見てブランドは次第に血の気が引いていくのを感じた。

 少し前に婚約破棄を言い渡した時には確かにレイラは魔法を使えなかったはずだ。レイラ自身も魔法を使えない振りをしている様子はなかった。魔法が使えないことに屈辱を感じていたし、使えるように奮闘していた様子もあった。


 それなのに今はそれが嘘のようにベラが一頭しか召喚出来なかったユニコーンを同時に五頭も召喚している。

 そしてそれを見た周囲の貴族たちも、「すごい!」「さすがオールストン公爵の娘!」などと無邪気に盛り上がっている。彼らも少し前まではレイラのことを「出来損ない」などと見下していたというのに。


 が、それだけならブランドにとってはまだ良かった。さらにブランドをみじめにしたのはここからだった。

 途中で「あんな娘と婚約を破棄したブランドは目が節穴なのではないか」「新しく侍らせているレイラという女は評判だけで大したことないのではないか」という声が聞こえてくる。


 それはブランドにとっては許せないことだった。そもそもレイラが相手では釣り合わないと思って婚約を破棄したというのに、まさか今度は自分が馬鹿にされる番になるなんて。

 そう思うと急に体の奥底から不安と怒りが込み上げてくる。


 やがて舞台が終わると、周囲の貴族は相変わらず興奮した様子で感想をつぶやいている。それを見てブランドはどんどん焦燥を募らせていく。

 このままでは自分はただ結婚相手を間違えた無能として認識されてしまう。

 どうにかしなければ。


 そんなことを思っているところに蒼い顔をしたベラが帰ってくる。彼女を見たブランドはすぐに駆け寄り、焦る声で告げた。


「ベラ、あれは何かの間違いだよな!? きっとレイラを侮って本気を出していなかっただけだよな!?」

「え、えーと……」


 いきなりブランドに詰め寄られてベラは困惑する。

 が、目を血走らせたブランドは彼女の肩を揺さぶるようにしながら、なおも続ける。


「お前がレイラなんかに負けるはずがない! だってお前は僕の結婚相手になる女なんだ。それがあんなやつに負けるなんてことは許されない!」

「……」


 そう言われても負けたものは負けたのでベラは俯くことしか出来ない。ブランドもベラの反応から薄々、今回の敗北がまぐれとか油断とかそういうものではないことに気づいてはいたが、それを認めることは出来なかった。

 そんなブランドの様子に堪えかねてベラはついに叫ぶ。


「そ、それは……無理です、あんな魔力の持ち主に勝てる訳がありませんし、これ以上敵に回したくもありません!」

「な、何だと……!?」


 それを聞いたブランドは絶句した。

 しかしベラの表情は真剣だった。ベラからすれば今後も魔術師として活動していくことはやめるつもりはない以上、これ以上レイラを敵に回したくはない。


 だが、ブランドからすれば自分が選んだ相手がレイラへの敗北を認めたということは衝撃的であった。


「嘘だ、こんなこと許されるはずがない……」

「すいません、今日は気分が悪いので失礼します」


 ブランドの様子を見て怖くなったベラはそう言って逃げるようにその場を離れるのだった。

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