パーティーⅣ
控え室に戻ると、そこは口をあんぐりと開けたまま凍り付いたベラが待っていた。そして私を見ると、あ、と口を開く。
「あ、あんな魔法を使えるなんて聞いてません!」
「まあ、言ってないからね」
「そ、それなのにどうして魔法が使えない振りをしていたんですか!?」
確かに外から見ると急に魔法の力に覚醒したというよりは使えない振りをしていたという理解になるかもしれない。
別にいちいち教えてあげる義理もないが、どの道世間に本当のことを言う以上最初から本当のことを教えてあげる。
「別に使えない振りはしていない。実際、ブランドに婚約破棄された時は本当に魔法は使えなかった」
「そんな、こんな短期間にこれほどの魔法が使えるなんて……」
なおもベラは私の言葉を信じられないようだった。
「私は魔法が使えなかっただけで魔力自体はあった」
「で、でも、魔力さえあれば初歩的な魔法ぐらいは使えるはず!」
確かに魔力さえあればそこら辺の子供でも火をつけるとか灯りをともすぐらいは出来るだろう。私はそれすらうまく出来なかった。
また、私が魔法を失敗しているのを直接見ている人であれば魔力はあって失敗していることが分かるかもしれないが、基本的に父上や魔法の先生の前でしか魔法を使おうとしないので、ベラが知る由もないだろう。
「周囲からのプレッシャーとか、魔力増進剤とかのせいで私は魔法を使おうとすると毎回魔力が暴走してうまく魔法が発動しなかっただけだった。だから実家から追い出された瞬間魔法が使えるようになったって訳」
「そ、そんな……」
聞いたことのない事態にベラは呆然としている。とはいえ、魔法には国で一番詳しいとされる父上でも気づかなかったので彼女が驚くのも無理はないだろう。
「そう言えばあなたは確かブランドと仲いいんだよね?」
「そ、それは……」
先ほどまで散々煽ってきていたくせに、私の方が魔力が高いと分かった瞬間彼女の反応が変わる。とんでもない相手から婚約者を奪った形になっていると気づいたのだろう。
「安心して、私は別にブランドを取り返そうという気はないから」
「え?」
私の言葉にベラは驚く。
そんなに驚くほどブランドと結婚したいか? と思ったが家柄だけで十二分に価値はあるのかもしれない。
「いくら魔法が使えなくっても、一度婚約破棄をしてきた相手とよりを戻す気はない。むしろあなたには感謝しているわ。だってブランドが婚約破棄してくれたおかげで今の力を手に入れることが出来た訳だし」
「べ、別にブランドが婚約破棄を言ったのは私のせいではありません! 私はその後に彼と知り合っただけで……」
私を敵に回したくない、と思ったのか彼女は必死で言い訳をしている。
別にそんなに言い訳しなくてもいいし、何ならブランドはそのままプレゼントしたいぐらいだが。
「別にあなたには大して恨みはないから特に何か復讐するつもりはないから大丈夫。それじゃ私はパーティーに戻るから」
「……」
そう言って私は呆然としているベラを置いて会場へと戻るのだった。
私が会場に戻ると、そこには興奮した表情のレイノルズ侯爵とロルスの姿があった。
「今のは凄かったな」
「ああ、皆盛り上がってる」
舞台では次の演武の準備にとりかかっているが、まだ準備中ということもあって周囲は今の魔術に対する感想をつぶやく貴族たちで溢れている。
「良かった、もしうまくいかなかったらずっと白い目で見られたままなんじゃないかって不安だったの」
「確かに、わしもあまり詳しくなかったのが悪かったが、こういうところでは観客受けする魔術の鉄板のようなものがあるらしいな」
「そう、それが分からなくて直前のベラの魔法に被せるようにしてしまったけど大丈夫だったでしょうか?」
そう、仮に魔術の出来自体が良くてもこういう社会では「わざわざ他の相手と内容を被せて自慢するようなことをするのはいかがなものか」と言われることもある。実際、今の私は彼女を負かすためにやったから、力をひけらかそうとしたのは間違いではないし。
が、私の不安にレイノルズ侯爵は首を横に振った。
「いや、そんなことはない。大体の貴族は今回の件の細かいことまで知らないからな、勝手にブランドをベラが奪ったのでレイラが意趣返しをした、と思っているみたいだ」
「なるほど」
確かに時系列だけ追っていくとそう見えるのも無理はない。というかベラ本人もそう思っていたようだし。
「もちろんベラと親しい者の中には眉を顰める者もいるし、いきなり魔法が使えるようになったのはおかしい、と思っている者も多いがあまり悪意を持っていそうな者はいなかったよ」
「ありがとう」
ロルスの言葉に私は安堵した。
すると私が戻ってきたのを見て、周囲の貴族の何人かがこちらにやってくる。
「今の魔術は凄かった!」
「ベラにブランドをとられて練習を頑張ったのか? 圧巻だった!」
「魔法が使えないという噂は何かの間違えだったんだな!?」
彼らはそれぞれ若干誤解しているようだったが、皆私を祝福してくれているようだった。そういうことならいちいち誤解を訂正するほどでもないか、と思う。
「ありがとうございます。これまで力を発揮することが出来なかったのは未熟だったからですが、この大舞台で恥ずかしくない魔法を披露することが出来て良かったです」
「おお、さすがオールストン公爵の娘」
「ブランド君ももったいないことをしてしまったなあ」
そんな私の言葉に貴族たちは無邪気に賞賛の言葉をかけてくれる。中には、
「侯爵も思わぬ良縁に巡り合うことが出来ましたな」
「ロルス殿も良かったですね」
などと侯爵やロルスに声をかけてくれる者もいる。つい先日までは「オールストン公爵家の出来損ないの押し付け先などと言われていたのにこの変わりように二人も驚いていたが、やがて慣れてきたのか普通に応答するようになったのだった。
そして私たちは次の演武が始まるまでの間、周囲の祝福を受けたのだった。そしてそんな私たちを遠目に悔し気に見つめているブランドの姿を見つけるのだった。
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