パーティーⅢ

 それから王宮では式典が始まり、まずは国王他偉い人が次々と現れて祝辞やお礼といった中身のない話をする。

 その次に今度はえらい貴族が話すが、その中には父上の姿もあった。当然と言えば当然だが、追い出したはずの私を実家に連れ戻そうとして拒否された人物が偉そうに祝辞を述べているのを見ると少し滑稽に思う。


 そんなことを考えているうちに退屈な時間が終わり、いよいよ余興(正確には技術披露会という仰々しい名前がある)の時間になる。最初は舞踏や楽器といったものから始まるが、こういう会に呼ばれるだけあって皆一芸を極めている。先ほどまであくびをこらえて話を聞いていた者たちも今は舞台に見入っていた。


 こうしてみると元々魔法を使えないと蔑まれていた私がこの後に参加できると思うとすごい。レイノルズ侯爵は私をねじ込むためにかなり頑張ったのだろう。


 そんな余興の時間も進んでいき、いよいよ魔法を披露するという番になって私は控室に移動する。

 するとそこにはベラの姿があった。確かに魔法を披露する人間が一人とは限らない。

 お互い、相手の姿を見るとそこで視線が固定される。先に口を開いたのはベラだった。


「え、魔法もろくに使えない癖にどういうつもりでこんなところに出てきたんですか?」


 彼女は驚きつつもしっかり煽りを忘れずに言う。

 とはいえ、相変わらず彼女からはそこまでの魔力を感じない。私が素人なら私に感じ取れないだけで実は魔力を隠し持っているという可能性もあるが、今の私であればそんな可能性はないだろう。


「それは今に分かる」

「本当に? 何だかんだオールストン公爵のコネを使って潜り込んだんじゃないですか? そんなことしてもみじめになるだけだというのに」

「父上は私に縁組をさせたのに戻ってこいとか訳の分からないことを言ってきたからもう帰らない、て言い渡したけど」

「またまた強がって言って、本当は実家に帰りたいって言って断られたんじゃないですか?」


 私の言葉をベラは信じていないようである。

 それもそうだ、私は別に隠していると言う訳でもないがレイノルズ家の屋敷でしか魔法を使ったことがない。そもそもレイノルズ家自体の交友関係がこれまで狭かったため使う機会がなかったのだ。


 とはいえ、私の魔力が自分より高いということも感じ取れない辺りベラは本当に大したことがないのではないか、と私は思う。


「大体その恰好は一体何ですか?」


 言われてみればベラは大舞台に立つために着飾っているが、私は急いで用意した微妙なドレスしかない。


「別に。魔法を使うには関係ないので」

「また強がりを。しかし災難ですね、よりにもよって順番が私の後だなんて」

「まあ逆よりはいいんじゃない? 場の盛り上がり的に」


 私が言うと、ベラは私の言葉の意味が理解出来なかったようで、首をかしげた。そしてなぜか私を可哀想な人でも見るような目で見てくる。


「ではそろそろ言ってきますわ」


 そう言ってベラは舞台の方へ歩いてくる。

 私は一応それを控室から見守る。


 着飾った彼女が出ていくと、それだけで会場からはどよめきが上がる。

 確かに今の彼女はとても綺麗に見えるから、それに対しての歓声だろう。


「サモン・ユニコーン」


 そして彼女が唱えると、舞台の上に美しいユニコーンが出現し、さらに喚声が上がる。


 確かにこれはすごい。すごいというのは、あくまで見栄え的な意味だが、こういう舞台では見栄えがいい方が何となく魔法もすごかったという風になる。私はそういうことはあまり考えていなかったのでそれに注意しよう。それを考慮するとやはり順番が後で良かった。


 そんなことを思いつつ私はベラが呼び出したユニコーンが舞台上を駆けまわるのを見守るのだった。


 舞台で跳ね回るユニコーンを見て来賓の貴族たちからは喝采が降り注ぐ。拍手を受けながらベラは自分もダンスを見せ、ひと段落したところで満足げな笑みを浮かべて頭を下げる。


 そして浮かれた足取りで控室に戻ってくるのだった。

 部屋に入った彼女は私と目が合うと彼女は勝ち誇ったように笑う。


「見ました? 今の来賓の反応。どうします? 今なら体調が悪くなったとかで回避できますが」

「別に体調は万全だけど」

「そ、そう。あくまで恥をかきにいくというなら好きにすればいいわ」


 ベラは私が全く動じていないことに若干苛立ちを感じながらも、それでも自分の魔法に自信があったためかそれ以上は何も言わなかった。


 そんなベラとすれ違いつつ私は入れ替わりに舞台へ上がる。


「皆さん初めまして、レイラ・レイノルズと申します。それでは私の魔法をご覧ください」


 私が言うと、客席からはどよめきが起こった。そしてすぐに、「確かオールストン公爵の娘だろう?」「でも家を追い出されたのでは?」「だがこの間マロード公爵を魔法で追い返したらしい」「まぐれじゃないか?」「というかこの晴れ舞台に見すぼらしい格好だな」などと様々な会話が交わされる。


 やはりここで一度実力を見せておく必要があるようだ。

 とはいえ、使う魔法は考えた方がいい。先ほどベラが披露したユニコーンは確かに見た目が美しかったし、見栄えも良かった。ここでノームを召喚し、珍しい植物を並べたりしても見栄えは微妙だ。第一、細かい魔法だと遠くからはよく見えない。かといって威力の高い魔法を使うのは式典に不向きだ。


 となるとここはベラの真似をし、そしてベラを上回るのがいいだろう。


「サモン・ユニコーン」


 私が魔法を唱えると客席は再びざわめく。

 普通に考えて前の人の魔法に被せるのは非常識だからだ。


 とはいえ、私の魔法はベラのそれとは比較にならない。


「サモン・ユニコーン」


 私は一頭だけでなく次々とユニコーンを召喚していく。

 そして瞬く間にステージには金色の角を伸ばし、きらめくたてがみをなびかせる美しい獣が五頭になった。一頭だけ召喚するのもすごいのに、同時に五頭ともなればそんなことが出来る可能性があるのは父上ぐらいのものではないか。


 それを見て客席のざわめきの質が変わる。

 最初は私の非常識を咎めるものだったが、途中からすっかり驚きに変わっていた。

 私はベラと違って自分が美しく踊ることは出来ないが、これはあくまで魔法の技術を披露する場だ。


 舞台上を舞い踊る五頭のユニコーンに客席の視線は釘付けになり、しばらくしてユニコーンたちが動きを止めると、やがて万雷の拍手が鳴り響いた。


 私はそれに対して一礼すると、満足して控室に戻るのだった。

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