オールストン公爵

「どうだ? あれからレイノルズ侯爵が何か文句を言ってくる様子はないか?」


 レイラを追い出すようにレイノルズ家に嫁がせたオールストン公爵はその後のレイノルズ家の様子を探らせていた家臣に尋ねる。


「いえ、特には。ただ向こうも厄介払いということに気づいてはいるのでしょう、扱いは酷いとのことです」

「まあそうだろうな。とはいえ特に何事もないならばそれでいい」

「しかし本当に良かったのでしょうか?」

「どういう意味だ」


 疑問の視線を向けていた家臣を公爵はギロリと睨みつける。

 公爵ににらまれ、家臣は言おうとしていたことをぐっと口の中に飲み込む。


「いえ、何でもありません」

「ならばよい」


 公爵は満足げに頷いた。




 それから数日後。公爵の元に一人の家臣が慌てた様子で駆け込んでくる。

 そのただならぬ様子を見て公爵は少し驚く。


「大変です、公爵閣下!」

「そんなに慌てて一体何事だ?」

「そ、それが……レイラ様が、レイノルズ家にやってきたマロード公爵を魔法を使って追い返したと」


 それを聞いて公爵は眉を顰める。


「何だと? レイラが魔法を使える訳がない、ちゃんと確認してから報告しろ」

「いえ、それがどうも本当のようです」

「どういうことだ。一体どんな手品を使ったんだ? 大体マロード公爵はいつも腕利きの魔術師を連れていると聞いたが」


 基本的にマロード公爵は相手を煽る時、常に自分の横に武術と魔術の達人を置いている。自分の性格が恨みを買うものであるということを理解しているからだろう。その彼がレイラの安い魔法なんかに負ける訳はない。


「実はそう思って、レイノルズ侯爵家の使用人に訊いたのですが」


 そう言って彼は侯爵家で起きた出来事の一部始終を語る。

 それを聞いた公爵はしばらくの間その事実を信じられなかった。


「何だと? レイラがイフリートを……そんなことはありえない」

「しかし、あのマロード公爵が尻尾を巻いて逃げ帰ったのは確かです。それぐらいの魔術を使ったということでしょう」

「ぐぬぬ……」


 元々レイノルズ侯爵家にそこまでの魔法が使える人物がいたという話は聞いたことがない。

 ということはレイラが本当に覚醒したのか?

 うちから出てすぐに?

 本当にそんなことがあるのか?


 公爵は頭を抱える。そして次の瞬間、自分の判断が誤っていたのではないかと思えてくる。あと少しレイラを追い出すのを我慢していれば彼女は覚醒したのではないか?


 自分の娘で英才教育を受けている以上、素養は十分すぎるほどにある。そんな彼女が嫁ぎ先で覚醒すれば、オールストン家にとってとんでもない損失だ。


 いや、まずはそのことの真偽を確認しなくては。

 そう考えて公爵は自分を落ち着けようとする。


「よし、とりあえず一度レイラに我が家に顔を見せるよう伝えよ」

「分かりました」


 そう言って家臣は部屋を出るのだった。

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