ブランド視点

 そのころ、レイラとの婚約を破棄したブランドは得意の絶頂だった。

 毎日、何かしらの用件を作って、年齢が近くて魔術の素養があると噂されるご令嬢の元に赴いたり、逆に屋敷に呼びつけたりしていた。

 ブランドもオーガスト家の長男で幼いころから武術に秀でているという噂があるだけに、彼の誘いを断る者はいなかった。

 そのため、ブランドは瞬く間に数人の令嬢と会うことが出来た。


「とはいえ、全員どれも決め手に欠けるな。悪くはないが、この僕と釣り合うほどの人物となるとなかなかな……。もっとも、誰であってもレイラよりはましであることに変わりはないが」


 レイラは家柄的には申し分ない相手だったし、容姿も悪くないだけに最初はブランドも期待していたものだ。結果的には期待外れだった訳だが、最初の期待が記憶として残っているため勝手にハードルが上がっているのだろう。


「会うのは次で最後か。何々、アチソン侯爵の娘、ベラか。侯爵という時点で家柄は落ちるが美人という噂だな。とはいえいくら美人でも魔法が使えなければ意味がない。彼女がだめならもっと探す範囲を広げなくては」


 そんなことを呟いていると、ベラがやってくる時間になる。

 正直あまり期待していなかったブランドはぼーっとしながら応接間のソファで待っていた。


「失礼します」

「入ってくれ」


 ノックの後にベラが入ってくる。

 その姿を見てブランドは息を飲んだ。少しあどけなさを残しつつも美しく整った顔立ち、同年代ながら胸は大きく膨らみ、しかしお腹は引っ込んでいる。

 今日はブランドに会うことを意識したのか、やや露出の多いドレスで着飾っていた。


「初めまして、アチソン家のベラと言います」

「ぼ、僕はブランドだ、よろしく」


 ベラが笑顔を浮かべるとそれだけで空気がやわらぐような錯覚を覚える。

 何と魅力的な人物なんだ、こんな人物こそ婚約者に欲しい、とブランドは思った。


「本日は来てくれてありがとう。ところで君は……」


 それからしばしの間、当たり障りのない雑談をしながらブランドはいよいよ彼女と婚約したい、と思う。彼女は声も良くて、話しているだけで癒されるのだ。

 とはいえ、ただ容姿がいい女性というだけなら貴族の家には何人かいる。きちんと自分にふさわしい実力を備えていなければ。


「ところで君は魔法が得意だと聞いているが、どうなんだ?」

「はい、ブランド様の武術ほどではないですが」

「そうか、それなら見せてくれないか?」

「分かりました」


 そう言って彼女は目をつぶって息を吸う。

 すると彼女の手元に大量の魔力が集まっていくのが見える。

 そして。


「サモン・ユニコーン」


 彼女が唱えると、ふわりという雰囲気とともに、ベラの隣に白雪のように美しい毛並みの一角獣が現れる。それを見て思わずブランドは声をあげる。


「おお、すごい、こんな魔法は見たことがない!」

「そうですか、そう言っていただいてほっとしました。前の婚約者の方も魔術に長けているという話だったので」


 ブランドが感心する様子を見てベラはほっとしたように言う。


「いやいや、所詮あいつは家柄だけの大したことないやつだった。君とは比べるべくもないさ」

「本当ですか!? それなら私でもブランドさんの婚約者になれるでしょうか?」


 ベラはきらきらと目を輝かせながら尋ねる。

 レイラとは一切そういう関係ではなかったブランドは思わずそれに心動かされてしまった。本当は一存で決められることではないが、もう同年代の令嬢とは大体全員会ったし、彼女以上の相手はいない。それならもう決めてしまってもいいだろう。


「ありがとう。じゃあ僕が父上にそう言っておくよ」

「わあ、嬉しい!」


 そう言ってベラは無邪気にブランドに抱き着く。それを見てブランドも口元をゆるめる。


「僕も嬉しいよ、ふう、あいつと婚約破棄して本当に良かった」

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