和解

「い、今のは一体……」


 残されたレイノルズ侯爵は私を呆然とした様子で見つめた。

 彼は未だに目の前で起こったことを信じられないという様子だ。


「いないところであれこれ言われたので直接言い返してやろうかと」

「た、確かに魔法が使えるようになったとは聞いていたが……まさかそこまでとは」

「……しかし良かったのか?」


 一方のロルスは私が魔法を使った場面を見ていたせいか、魔法の腕というよりは割って入ったこと自体に驚いているようだ。


「良かった、というのは?」

「だって君は適当なタイミングで実家に戻るつもりだろう? それならこんなところで余計な揉め事を起こすのはよくないんじゃないか?」


 やはりロルスは本当に私が実家に戻ると思っていたらしい。確かにそれだと有力な(?)貴族と揉め事を起こすのはマイナスに働くかもしれない。

 もっとも、どうせ戻るにしても馬鹿にされたままにしておくのも嫌だから一度ぐらいは実力を見せるような気もするけど。


 とはいえ、それを否定するならこの場はちょうどいい機会だろう。


「いえ、何故か誤解されているようですからはっきり言っておくと、私は別に魔法がいくら使えるようになっても実家に戻るつもりはありません」

「え?」


 二人の言葉が重なる。そしてロルスは信じられない、という様子で語る。


「だが、自分で言うのもなんだがこんな家よりも魔術の名門に戻り、さらにあわよくばオーガスト家の跡取りと結婚した方が絶対きらびやかな人生を歩くことが出来るのではないか? 戻らないというのはわざわざ手に持った宝石を落としてそれを拾わないのと同じことのような気がするが」

「確かに他人から見ればそうかもしれませんが……ロルスは私との結婚が決まった時、出来損ないを押し付けられたと思ったのですよね?」

「い、いや、それは……」


 今までならためらいなく頷いたであろうロルスだが、今回は戸惑っている。

 さすがにここで素直に頷くほど私を嫌ってはいないらしい。


「それは私も同じです。家族からは厄介払いされたように感じました。ですからそんなところには戻りたくありません。それにブランドも私が魔法を使えないことを散々に言いました。それこそ今のマロード侯爵のように」

「そうだったのか……」


 それを聞いてロルスは絶句した。

 その反応を見て私は少しほっとする。もっとも、今のマロード侯爵のように、というのは少し言い過ぎだったような気もするが。


「そうだったのか。色々辛いこともあっただろうに、あんな態度をとってすまなかった」

「僕も、冷たい態度をとって悪かった。本当に悪いのは君の父上だというのに、屈辱感から君に当たってしまって」

「いえ、そう言っていただけるのであれば良かったです……いえ、良かったわ」


 こうして私たちは事件を経て少し距離が縮まったような気がしたのだった。

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