5-8話  体育祭1

 文化祭に続き体育祭と、拓海たくみの高校の9月はイベント尽くしだ。拓海と莉子りこはいつもより早く登校した。2組の教室には既に多くの生徒が集まっており、浩太こうた、クラリス、キマロもいた。


「うーっす、幼馴染ズ」

「おはよう」

「コウちゃん、クラリスとキマロもおはよ」

 しかし、浩太の表情はなぜか曇っている。


「浩太、どうしたんだ?」

「うーん、何だか朝から寒気を感じてさ」

「え、風邪?」

「いや、体調じゃなくて、誰かからの殺気を感じる気がするんだよ」

 クラリスとキマロによると、登校した頃から浩太が誰かの視線を感じると言い始めたとのことだ。しかし、その場は気の所為ではないかということで話は終わった。



    ◇



 運動着姿の生徒たちが校庭に集まり、長ったらしい校長先生の挨拶にブーイングが飛び、生徒会長が開会の宣言をし、体育祭は開始された。


 奇数と偶数のクラスがそれぞれ赤組と白組に分かれてはいるものの、クラス毎の得点がしっかりカウントされるスタイルのため、クラス対抗戦という雰囲気になっている。


 1年2組のトップバッターは拓海とぎくのラケット便となった。二人でラケットを持ちボールを挟んで落とさないように走る種目だ。


「行けぇ、ヒナタ・コンビー!!」

「ぶっちぎれーー!!」

「頑張ってーー!!」

 クラスメイトは拓海と日菜菊の圧勝を疑っておらず、スタート前から大歓声を送っている。


 日菜菊は二つのラケットに挟まったボールを、拓海は前方を見てスタートを待った。ピストルが鳴るや、拓海と日菜菊はそのまま猛ダッシュをかけ、他のクラスを置き去りにした。


 予想を裏切らぬ展開に2組は大盛り上がりだったが、ラケットとボールを意に介さずダッシュする拓海と日菜菊の姿に、他のクラスや見学に来ている父兄からどよめきが起こっていた。


 圧巻の1位でゴールし、次を走る柚希ゆずきとクラス委員長の愛佳あいかとハイタッチをする。


 柚希と愛佳のペアは普通の人間同士のコンビのため、他のクラスと同様に、おっかなびっくりボールを運ぶことになった。声援を送る剣持けんもちをクラスメイトが茶化しつつ、競技は進んでいった。



 徒競走や障害物競走、借り物競走、棒倒しなど、お馴染みの種目が消化されていき、やがて拓海と日菜菊の二つ目の見せ場、二人三脚の時間となった。クラスに流れを作ろうとラケット便ではトップバッターだったが、二人三脚では最終組に登場した。


 拓海と日菜菊の番になると、他のペアが不調だったこともあり、クラスメイトからはラケット便の時と同様に大歓声が上がった。拓海と日菜菊は両者の足に紐を結び付け、肩を組んでスタートラインに立つと、前方の地面を眺めて腰を落とした。陸上部の村岡むらおか直伝のスタンディングスタートだ。


 ピストルが鳴ると、拓海と日菜菊は短距離走のようなダッシュを決めた。『1、2、1、2』の掛け声を一切せずに、自由な方の腕を振ってコーンまでを駆け抜け、コーンの周りを回転して再ダッシュをしてゴールライン兼スタートラインを駆け抜ける。この奮闘で2組は1年生の1位に浮上し、拓海と日菜菊は2組の陣地に戻った後にハイタッチ責めにあった。



 そして、競技は二人三脚リレーの時間となり、拓海たち怪異研究会で組んだ2組のチームも登場した。当初の予定通り、最初のペアは浩太とクラリスだ。


 ピストルが鳴ると、浩太とクラリスは声を掛け合った。

「行くぞ、クラリス」

「ええ」

「「せーの、1、2、1、2」」


 練習通りにリズム良く足を進めていく。他に上手いクラスがあったため1位とはいかず、2位のポジションで走っていた。しかし、半分ほど行ったところでバランスを崩してしまった


「うわ!!」

「きゃ!!」

 浩太とクラリスは盛大に転倒し、会場から悲鳴が上がる。二人は慌てて起き上がったが、紐がほどけてしまったため、紐を拾って結び直した。


「悪い、クラリス!」

「ううん、私もタイミング間違えた。また行くよ」


 再びタイミングを取る声を掛け合い、その後は持ち直したものの、ミスが響き、交代を待つ莉子の元までたどり着いた時にはビリだった。莉子がクラリスの隣に並び、浩太が前ペアの紐をほどき、莉子が新ペアの紐を結んだ。


 莉子はクラリスと肩を組むと、声をかけた。

「クラリス、転倒、大丈夫!?」

「うん、大丈夫! 行こう!」


 クラリスと莉子もタイミングを取る声を掛け合い、前進していった。他にもミスをするクラスがあったことも影響し、クラリスと莉子は順位を上げ、2組の陣地や、次のレースを待つクラスメイトから歓声が上がる。


 クラリスと莉子のペアが到着すると、拓海は莉子の隣に並び、莉子の足と自分の足に紐を結んだ。クラリスが紐を外したことを確認すると、拓海は莉子に声をかけた。


「よし、行こう!」

「うん! まだ行ける!」

「せーの……」

「せーの、っと!?」


 先行するクラスを追おうとして焦り、拓海と莉子はいきなりバランスを崩してしまった。拓海は踏ん張ったが、莉子は地面に手を着くまでバランスを崩した。クラスメイトからは悲鳴が上がる。


「やば、ゴメン、莉子!!」

 拓海は莉子を抱き起こした。


「いや、私がゴメンだよ、焦った!」

「もっかい」

「「せーの!」」

 今度こそタイミングを合わせ、拓海と莉子は前進していった。練習の成果か良いスピードだったが、最初のつまづきの影響もあって順位を上げることはできない。


 アンカーのポジションでは日菜菊が待ち受けており、先行するクラスは次々と最終ペアがスタートしていっている。2組のアンカーが、ここまでペア競技で驚異的なパフォーマンスを見せている拓海と日菜菊だということもあり、他のクラスは『早く、早く!』などと声を張り上げていた。


 莉子と拓海のペアがアンカーのポジションに辿り着くと、日菜菊は拓海の隣に並び、逆転への期待からかクラスメイトは個別種目のとき以上の大声援を上げた。


 莉子は紐を外すと『頑張って』と声を掛けて拓海から距離を取った。日菜菊が紐を結び終えると、拓海と日菜菊ペアは肩を組んで猛然とダッシュを仕掛けた。次々と順位を上げて2位にまで到達し、会場を盛り上げる。そして、まさにゴールテープを切ろうとしているクラスのペアの横を駆け抜けた。


 際どいタイミングだったので、ビデオ判定となった。会場限定の体育祭チャンネルにその動画が表示され、誰もがスマホを覗き込んだ。拓海と日菜菊の猛追はあと一歩及んでいなかった。


「「「あああーーーー!?」」」

 2組からは残念がる声が上がった。浩太たちが集まっている場所に、拓海と日菜菊は紐を外さずに歩み寄り、『『ごめん』』と声を掛けた。次のレースを走るクラスメイトから『ドンマイ!』という声が飛び、怪異研究会チームの健闘を称えた。


 次のレースは、2組のクラスメイトの奮闘があったものの拓海たちのチームと同じ2位に終わった。

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