5-9話 体育祭2
二人三脚リレーが終了し、クラリスは
「コウタ、ちょっといい?」
「ん? 何だよクラリス」
「怪我見せて」
そう言うと、クラリスは有無を言わせず浩太のシャツをまくり、転倒したときの怪我を見た。浩太の上半身には大きな擦り傷ができていて、ほっておくとシャツに血が滲んでしまいそうだった。
「これ、保健室に行こう?」
「いや、いいよ、この程度」
「いいから!」
クラリスは浩太の腕を掴み、無理やり引っ張る。保健室まで浩太を連れ出すと、クラリスは浩太の脚や上半身にできている怪我を拭いて綺麗にした。
「痛てて……」
「ホラ、痛いんじゃない!」
「サッカーやってた頃はこんなの日常茶飯事だったし、問題ないって」
「クラリスがコウタをそこまで心配するなんて珍しいのぉ?」
「茶化さないでキマロ。別にコウタは憎い敵ってわけじゃないんだから。それに貸しにされるのも嫌だしね」
バランスを崩して転倒したとき、浩太にかばわれたことにクラリスは気づいていた。
「別に貸しだなんて思っちゃいねぇよ」
「でも横で怪我されたんだからこのぐらいさせて」
クラリスは浩太の怪我を拭いた治療用のガーゼをゴミ箱に捨てながら言った。
「うーん、思ったより怪我深いね。ちょっとゾダールハイムまで行かない?」
「何だ、回復魔術か? そこまでの怪我じゃないだろ!」
「たまには私も活躍したいのよ!」
クラリスは自分がやりたいだけだと主張し、浩太の腕を掴み上げて魔の13階段に向かった。
「ぬふふ、素直に感謝せい、コウタ。異世界の美少女に看病してもらうなど、普通味わえることではないぞ?」
キマロが浩太の肩に乗って呟いた。
「うっさいキマロ。俺は別に……ん!?」
「どうしたのじゃ?」
「今、何か殺気を感じたような……??」
浩太はクラリスに引きずられて歩きながらも、左右をキョロキョロと見回した。何か嫌な予感を感じている様子だった。
◇◇
拓海は
「あ、コウちゃん、怪我治ってる?」
「回復魔術?」
「うん、ちょっとゾダールハイムに連れて行って、ね」
「へぇ、やるな、クラリス!」
拓海たちは浩太を茶化そうとしたが、いつものように浩太に上手くかわされるのだった。
体育祭は1年生の最終種目、クラス対抗リレーの時間を迎えた。各クラス男女3人ずつ合計6人のリレーだ。1位を取れば2組がそのまま優勝という分かりやすい状況になっている。アンカーだけ走る距離が2倍というスタイルで、陸上部の
しかも、村岡の情報によると、陸上部は翌日に大会があるため、他のクラスの陸上部員は体力温存のためにアンカー禁止令が出ているという話だった。
「でも村岡くんはアンカー出ていいの?」
「ん? 砲丸投げは明日じゃないから問題ない」
女子生徒の質問に村岡が答えた。村岡は昔は短距離をやっていたらしく、その俊足ぶりは体育を通して2組の生徒にも知られているので、アンカーをやってくれるなら異論はなかった。
リレーの1走は
スタートのピストルが鳴り、女子のパートである1走が始まった。柚希は見事に1位でバトンを渡すことに成功した。拓海たちは、クラスメイトと一緒に声を上げて応援した。
バトンは最終走者のところにまで渡ったが、2組の順位はだいぶ下がっている。他のクラスのアンカーには野球部やサッカー部の俊足な生徒が選ばれているようだったが、村岡はそれを物ともせず爆走して順位を1位にまで押し上げ、ゴールした。
その活躍により、村岡には2組のこの日一番の大声援が送られた。拓海たちも村岡に駆け寄り、胴上げをしたり叫んだりの大盛り上がりとなった。
なお、村岡は、アンカー禁止令を出されていた他の陸上部員からブーイングを食らっていた。
◇
拓海たちは制服に着替え、再び校庭に出向いた。文化祭、体育祭の後夜祭が開かれる。
話の長い校長先生には野次が飛び、生徒会長からの結果発表には歓声が飛ぶ。体育祭の1年生の1位が2組であることが告げられると、もう分かっていたことだったが、拓海たちは改めて声を上げてはしゃいだ。実は所属する白組は負けていたのだが、そんなの関係ないという雰囲気だった。
キャンプファイヤーが始まると、生徒たちは散らばっていったが、文化祭と体育祭を通してさらに親睦の深まってしまった2組は固まっていた。フォークダンス用の音楽が流れているが、この学校では有志で勝手にやるスタイルだ。
「
「え、でも、やったことないし」
「ほれ、拓海、これ動画。日菜菊が見ながらやればできるだろ?」
拓海は浩太からスマホを手渡された。その画面にはフォークダンスの説明動画が表示されていた。
「ちゃんとお前がリードするんだぞ」
「うーん、確かにやろうと思えばできちゃうなぁ。莉子、やってみる?」
「うん、いいよ」
拓海は莉子の手を取り、キャンプファイヤーの明かりに照らされる位置に移動した。日菜菊が見ているスマホの情報を頼りに、拓海は莉子をリードして踊り出した。
「いいね~、絵になるよ、君たち」
「ホントホント」
クラスメイトたちは拓海と莉子のフォークダンスをスマホで撮り始めた。なお、剣持と柚希も同じように踊らされている。
音楽が一段落すると、拓海と莉子はダンスを止め、終わりの挨拶とばかりに抱き合った。こんな人前でバカップルに当たるかと拓海は思ったが、雰囲気がそうさせるのだった。
「そうだ、拓海。次はヒナとシンクロダンスとかやってみたら?」
「え、シンクロダンス?」
「あ、それいい!」
「見たい見たい」
莉子の提案に他の生徒も乗ってきた。
次の音楽が始まると、拓海と日菜菊は横に並んで適当に同じ動きをして踊った。即席なので腕や脚の角度がズレるのは仕方ないものの、動きのタイミングに関しては完璧で、男女問わず歓声が上がり、手拍子で拓海と日菜菊を後押しした。
やがてフォークダンスの音楽が一時中断となり、生徒会長からの文化祭の結果発表が始まった。1年生の部は、2組のお化け屋敷のアンケート結果がぶっちぎりで1位となったことが伝えられ、2組からは再度大歓声が上がる。
なお、最後の文化祭ということもあって、3年生の結果発表はより一層盛り上がっていた。そんな上級生の様子を見ながら、拓海は莉子に話しかけた。
「俺たちも2年後はあんな風になるのかな?」
「なるんじゃない? 今はまだ、あんまり想像できないけどね」
そんなことを言い合いながら、拓海は大騒ぎをしている3年生たちを見つめた。
生徒会長が壇上から降りると、校庭は拍手に包まれた。フォークダンスの音楽が再び流れ始めると、拓海がクラスメイトに話しかけた。
「てか、俺たちにばっか踊らせてないで、みんなも踊りなよ」
「あー、確かに」
「やってみようか」
踊りの流れはクラスに浸透していった。
「ふふん、コウタとクラリスもやってみたらどうじゃ? クラリスにとっては異世界の文化に触れる良い機会じゃぞ?」
キマロのその発言を拓海は上手いと思った。浩太はクラリスとの関係を男女で攻めると意地になってしまうが、クラリスとキマロに地球の文化を楽しんでほしいとは思っている。だから、今のキマロの言い方は、浩太にクラリスとダンスをさせるためには良い表現なのだ。
「うーん、まあ、確かにそうだな。おい、クラリス、やるぞ!」
「ええ、何よ、急に……?」
「何だ自信ないのか? ちゃんとエスコートするから大丈夫だ」
「自信ないとか、そういうんじゃない!」
クラリスもムキになったようで、浩太の手を取った。浩太はクラリスをリードして踊り始める。
(うわ、これは……)
拓海は、浩太とクラリスのダンスに見とれてしまった。クラリスは女子でも振り向くような異世界の美女だし、そのクラリスを華麗にリードする浩太の動きもまた素晴らしかった。横を見ると、莉子も惚けたような顔で浩太とクラリスにスマホを構えている。
他の生徒も、浩太とクラリスに関しては、はやし立てることができずに静かに見守るのだった。
音楽が一段落し、浩太とクラリスがダンスを終了すると、周囲は静かな拍手に包まれた。
クラリスは女子生徒の輪に引っ張られ、色々と話をし始めた。浩太も男子生徒の輪に合流しようとしたが、ズカズカと浩太の前に出てくる者がいた。
「え、な、何ですか?」
浩太は驚いた様子で敬語を口にした。浩太の口調に拓海もそちらを見ると、そこには不思議な服装をした髭の濃い中年の男性が立っていた。そして浩太に向かって口を開いた。
「コウタ・アマチ……。貴様、私と勝負しろ!」
「はぁ……!?」
「デボール卿とはやり合ったのだろう? だったら私とも勝負だ!」
「デボール? あんた、異世界人か!?」
浩太は身構えた。内容が内容だけに、拓海や他のクラスメイトもその男を取り囲む。
「その声……、まさか……!?」
クラリスはそう言うと、女子生徒たちの輪の中から出てきて浩太と対峙する男を見た。
「……何をしているの、お父様?」
クラリスがその男に言った。
「え……?」
「は……?」
「クラリスの……お父さん!?」
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