1-11話 幼馴染への想い
「莉子と何かあったの、拓海くん?」
「無かったと言えば嘘になりますね……」
「そう」
それ以上聞かないでくれたことが拓海には嬉しくもあり、切なくもあった。それだけ信頼してくれているということなのだから。
(莉子のおばあさんの家か……)
行ったことはある。キャンプの帰りだ。拓海の家と莉子の家が一緒にキャンプに行った後、泊まりで遊びに行かせてもらったのだ。
(行ってみようかな……)
明日、話をしよう、そう言われてはいても、拓海は今すぐにでも莉子に会いたいと思っている。しかし、そこに行くための時間はもうなかった。
(明日、行くか……)
「なんなんだよ、それ……」
拓海はルビーに悪態をついた。
◇
翌日。
15年間行方不明だった少女、柚希が戻ってきた。それはまず学校関係者を困惑させた。柚希が15年前と変わらぬ姿だったことも大きかった。ゲートが閉じた状態の次元のはざまでは、時間が流れていなかったのだ。
それは怪異の絡む事件に違いなく、学校は休校になった。行政にも怪異を取り扱う非公式の組織が存在し、そこが問題の収集にあたるため、学校で調査を行う、ということだった。中心人物である剣持、拓海、日菜菊は事情を聞くために学校に呼ばれており、行くことになっている。
拓海が学校に呼ばれているのは夕方の話だ。時間はあるので、拓海は出かけることにした。後で学校に行くことになるので、制服姿で莉子の祖母の家を目指した。
いつも高校へ行く電車とは違う方向で、拓海は莉子との思い出を振り返る。小学校に入る前からのくされ縁だった。あんまり小さい頃から一緒にいたものだから、友達というより同年代の姉妹という関係だった。
しかし、中学の途中から拓海の想いは変わった。いつも近くにいた少女は綺麗だった。それに気づいてしまった。そこから、拓海の苦悩は始まったのだ。
(俺のあの秘密がなければ、俺はとっくに莉子に伝えていたんだろうか。好きだと……)
その時、スマホが鳴った。拓海は驚き、期待を込めてスマホを覗き込んだ。
(莉子からだ……!)
メッセージには、『屋上に来て。裏じゃなくて普通の方ね!』とあった。
(え……、ってことは高校……?)
拓海は真逆の方向に来ている自分の行動を呪った。なんでこうなるのだ、と。
◇◇
莉子は学校にいた。休校になったとはいえ、生徒が中に入れないわけではなかった。
莉子はスマホを見た。拓海からの返信に気づいたのだ。『莉子のおばあちゃん
莉子は深呼吸をし、心を落ち着かせてから扉に手をかけた。拓海が来ていなくとも、必ずいるであろうその人を思い浮かべながら。
屋上。
そこには日菜菊がいた。扉の音に気づき、日菜菊は莉子の方を向いた。その儚げな表情が綺麗だと莉子は思った。
莉子はゆっくりと歩いて日菜菊の前に立つ。
「こんにちは、ヒナちゃん」
「莉子……」
二人ともしばらく声を発することができなかった。誰も見ていない場所だったが、誰かが見ていたのなら緊張感が伝わっただろう。
「あ、あのね、莉子……」
意を決した様子の日菜菊が口を開いた。右手を右耳に当てながら。それを見た莉子は笑みを浮かべ、最初に話すことを決めた。
「ヒナちゃん、これ」
莉子は鞄から1枚の絵を出した。子供が描いたとおぼしきその絵には怪物が描かれていた。4つの目、2つの鼻、2つの口。4つの手に4つの脚。普通の生物と比べて色々なものが2倍になっている。
「それ……は?」
「拓海がおばあちゃん
「莉子……何を……?」
「変な絵だなぁ、とあの時は思った。でも、分かったよ。昨日、異世界の鍵を拓海とヒナちゃんが使ったのを見た時に。この絵、二つの生物が合わさって一つの生物になっているよね?」
それを聞くと、日菜菊は両手で口を覆う仕草をした。莉子の言っていることはありえない、莉子がこれから言おうとしている答えに莉子が自身でたどり着いたことが信じられない、そういう表情だ。
拓海は妙にデュラハンの『空間を超えた繋がり』に拘った。二重人格の魂の在り方にも異様に興味を持った。幼い頃に拓海が口にしたもう一人のお母さんという言葉、互いに喋り合わない拓海と日菜菊、拓海と同じ日菜菊の癖。それらの情報は、ヒントとして莉子の中に蓄積されていったのだ。
「愛し合っている男女だからあの魔具で高い数値が出るというのは一つの真実。けど、本質じゃない。本質は、魂がどれだけシンクロしたかどうか。昨日、私たちが見たあの数値は、その結果」
そこまで言うと、莉子は一呼吸置いた。そう、それを見た時に莉子の中で全てが繋がったのだ。
そして莉子は口を開き、自分が解いた謎の答えを日菜菊に伝えた。
「ヒナちゃんと拓海は魂を共有している。あなたたちもまた怪異。拓海が描いたあの絵は『あなた』自身よ」
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