1-9話 怪異からのアドバイス
(拓海とヒナちゃん遅いなぁ)
そう思っていると、絵が光り、拓海と日菜菊が現れた。二人は謎を解ききれず、時間切れで戻されたということだった。そのタイミングで
「ルビーから事情を聞いたよ。伝えてほしいとのことだ。こういう、人を異次元に連れ込む怪異も存在するから、うかつに触れようとしてはいけない。自信がなかったら必ず頼れる人を頼ること、だそうだ」
(確かに、相手が悪い怪異だったらかなりマズイ状況だった……よね?)
莉子はルビーの謎解きを楽しませてはもらったが、同時に危機感を持つことを教えられた気分だった。
3人が帰り支度をしていると、莉子のスマホに見慣れない番号から着信があった。不審に思ったが、莉子は出てみることにした。
「はい、もしもし」
「こんばんは、莉子ちゃん」
「その声……」
電話をかけてきたのはルビーだ。莉子はすぐそれに気づいた。電話番号を知られていたのは剣持のせいか、あるいは彼女が怪異だから特殊な方法で入手したのか。
(怪異だから、だったら嫌だなぁ……)
「少し、話をしたいわ。一人でお店に来てくれないかしら?」
「え、今からですか?」
「そう。あなたにとっても大事な話よ」
絵の中に連れ込まれるなどという不思議な体験をした後だ。正直に言って、莉子はその出来事も楽しんでいた。だから、ルビーと話せるというのなら断る理由もなかった。莉子は承諾することにした。
「莉子?」
「ごめん、今日行くところができたから、私、先に帰るね」
そう拓海と日菜菊に伝えると、莉子は帰り支度を急いだ。
「ヒナちゃんバイバイ。また明日ね」
「うん、また明日」
「拓海も早く帰りなよ」
「ちょっと剣持先生と話したらすぐ帰るよ。それより本当に俺も行かなくていい?」
「過保護か! まあ大丈夫だよ。ありがと。またね」
その会話を最後に、莉子はアンティークショップに向かった。
◇
「こんばんは、ルビーさん」
「こんばんは、莉子ちゃん。よく来たわね」
ルビーは莉子をテーブルに案内し、お茶を持ってきてくれた。
「どうして私一人を?」
「あなたに興味が湧いた。まず、私が人間を試してきた中で、あんなに早くさっきの謎を解いた人はいなかったからね」
「そうなんですか? でも、面白い謎でしたよ」
「未知のものへの興味、どうやらあなたは人一倍強いようね。ただ、悪い怪異には気をつけなさい」
「さっき、剣持先生にも似たようなことを言われました」
「そうね。ただ、あなたは頭が良いようだから、そんなに心配はしていない」
ルビーは一度話を止め、お茶の入ったカップを口に運んだ。
「さて、では本題だけれど、あなたにも説明しておくわ。剣持
ルビーは莉子に説明した。剣持とその恋人が魔具を使って異世界へのゲートを開いてしまったこと。恋人の
説明を聞いて莉子は思った。剣持は、拓海と莉子がそういう関係だと判断したのだ。
(うーん、外からはそう見えるのかな。中学の時も散々からかわれたし……)
「今年は宗吾くんは3人選んだ。初めての試みだけれど、なかなか面白いと思ったわ」
「最初に声をかけられたのは拓海と私だけですよ。ヒナちゃん……日菜菊さんは自分から来ました」
「あらそうなの? 拓海くんが呼んだわけでもなく?」
「そう……だったはずです」
(そのはず。初めてあの資料室に行ったとき、ヒナちゃんは話を聞いていた、と言っていた。拓海が連絡した感じではなかった。うーん、でも考えてみたら、資料室の外で話を聞いていた、というのも不自然ね……)
「今回の件、拓海くんに一任した。莉子ちゃんか日菜菊ちゃんか選べ、とね」
「え?」
「はっきり言うわ。拓海くんは日菜菊ちゃんを選んだ。それも迷いなく」
「!?」
その情報に、莉子は少なからず衝撃を受けた。しかし、すぐに頭の中で状況を整理し始める。
少し時間をおいてからルビーが言った。
「これはアドバイス。もし、あなたが拓海くんのことを想っているのならチャンスと思いなさい」
「……チャンス?」
「異世界の鍵を使った男女は、ほぼ破局する運命にある」
拓海と日菜菊のことを考えていた莉子だったが、新しい情報に頭を回し始めた。
「その、魂のシンクロというのが原因ですか?」
「そう。他人の魂に触れるというのは簡単なことじゃないのよ。どんなに愛し合っていたところでね。相手の醜い部分を魂が感じ取ってしまう。それを経験した男女は破局する」
「だから、拓海とヒナちゃんの心が離れるのを待て、と?」
「意地悪く聞こえるかしら?」
意地悪だと莉子は思った。
そして、莉子は別のことを考える。
拓海が迷いなく日菜菊を選んだ。それに対して莉子が感じている気持ちは嫉妬なのだろうか。
(ううん、ちょっと違う。なにかこう、もう少しでパズルが解けそうな……)
「どうするかは莉子ちゃんの自由。拓海くんからは莉子ちゃんには何も言わないでくれと止められていたのだけれど」
「ええ、じゃあどうして?」
「決まっているじゃない。面白そうだからよ」
「ええええ、ひどい!」
「私は本来、いたずら好きな怪異よ。心から味方をしているのは宗吾くんだけ」
莉子はちょっと笑ってしまった。拓海はそのいたずらに巻き込まれたのか、と。
(それにしても、私には知られたくなかったのか……)
莉子は拓海と日菜菊のことを思い出す。何かおかしいとずっと思っていた。どうしても、ただ隠れて付き合っていただけには思えない。そう思いたいだけなのかもしれない。でも、もう少しで、答えに届きそうな気がする。
「ルビーさん。その異世界の鍵を使うところ、私も立ち会って良いですか?」
「そう来たか。良いのね? 私は面白いものが見られればそれで良いから、反対する理由はないわ」
「ありがとうございます」
莉子は思った。論理ではない、直感が言っている、その現場を見たいと。
「しかし、夢のない話ですね。破局しなかった例はないんですか?」
「私の知る限り、一例だけ」
「あ! そうか、剣持先生とその柚希さんですね?」
「さすが莉子ちゃん。その通りよ」
剣持は異世界の鍵を使った後でも柚希を愛している、そういうことなのだろうと、莉子は思った。
「この15年、1年に1度、宗吾くんと柚希さんが一瞬だけ触れ合うのを見てきた。恐らく、柚希さんも宗吾くんへの想いを失っていない。怪異として永く生きてきたけれど、初めて見るケースよ」
「……素敵な話ですね!」
莉子は心からそう思った。なんて美しく、儚い出来事なのだろうと。愛ゆえに引き裂かれてしまうとは何という皮肉なのだろうと。
「見ていたいのよ。あの二人がどうなっていくのかを」
「なるほど! ちょっと分かります!」
莉子とルビーは、しばらくその話で盛り上がるのだった。
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