1-6話 アンティークショップの怪異
「最初の活動だ。次の日曜、君たちだけでここに行ってほしい。時間はあるかい?」
「ここは、何ですか?」
「胡散臭いアンティークショップがある。そこであるものを受け取ってほしい」
「あるもの?」
「怪異に関係する、ちょっとしたアイテムだよ」
この日の剣持からのガイダンスは、これで終わりだった。
「そのノートは自由に見てくれて構わない。あんまり遅くならないように。あと、僕の正体は一応、内緒でな」
「一応、ですか。まあでも、実際に見なければ誰も信じないと思いますよ」
そのやり取りを最後に、剣持は部屋を出ていった。残された3人は、言われた通り、ノートを眺めてみることにした。
「妖精、河童、天狗、本当に色々載ってるね」
「全部が全部、実在の怪異なのか?」
「先生いてくれればいいのに。そういうこと聞きたいよね」
「あれ、見てこれ。二重人格だって」
「それって、メンタルヘルス的なものじゃないの?」
二重人格について書かれたページには、人の心が別の人格を作り出す場合に加えて、同一の身体に複数の魂が宿る怪異のケースがあると書かれていた。
「…………」
拓海はそのページを黙々と読み始めた。
◇
遅くなる前に切り上げ、3人は帰宅した。拓海と莉子はまたゲームを楽しんでいる。今回も日菜菊はオンラインで参加だ。
「ヒナちゃん、ゲーム上手いね。ボイチャもしてないのに、いつも私たちと一緒に行動してる」
「んー? 俺らのキャラクター見ながら動けばできるんじゃないの?」
「いやぁ、そんなに簡単じゃないと思うよ」
「あ、ちょっと待って」
拓海は着信に気づき、スマホで通話を始めた。
「あ、母さん。どうしたの?」
仕事が遅くなるから、拓海は夕飯を適当に食べてほしいという内容だった。
「分かった。いや、いちいち謝らんでいいよ。母さんが大変なのは分かってる。うん、じゃあね」
そう言うと、拓海はスマホを閉じた。
拓海がゲームに戻ると、莉子が尋ねた。
「おばさん? いつも仕事大変だよね」
「ああ。夕飯、適当に食べといて、ってさ」
「うちで食べる?」
「……いつも悪いと思ってる」
「いいよ、そんなの。来なよ」
「ああ、お言葉に甘える……」
親の都合で莉子の家で夕飯を食べる。これは幼い頃からよくあることだった。
拓海と莉子はその試合でゲームを終わらせ、莉子の家に向かうことにした。
「ヒナちゃんに、ゲームまたやろうってメッセージ入れといた」
「おう」
「拓海、そういえばヒナちゃんとあんまり喋ってないよね? せっかく同じ部活にも入ったのに」
「え……? うーん、いや、そんなことは……」
(さすが莉子、よく見ている……)
拓海は莉子の家で夕飯の支度を手伝った。こうするのもいつものことだ。莉子の親と談笑しながら夕飯をごちそうになる。しばらくすると仕事を終えた拓海の母がお土産を持ってやってくる。
「いつもごめんなさいね」
「いえいえ、大変なのはよく分かっているからぁ」
玄関で話す親同士の会話が、拓海たちのいる莉子の部屋まで聞こえてきた。
「莉子、そろそろ」
「うん、分かった」
莉子が玄関まで拓海を見送ると、拓海たちは家に向かった。
拓海から見ても、母の仕事が忙しいのはよく分かっていた。こうして莉子の家が拓海の世話をしてくれるというのは助けになっていただろう。しかし拓海も莉子も良い年頃だ。そろそろ気軽にお互いの部屋に行ったりするのは良くないのではないかと拓海は思い始めている。
(俺たち、恋人ってわけじゃないもんな……)
拓海は再びため息をついた。
◇
日曜、拓海と莉子はショッピングに出ていた。アンティークショップに向かう時間は夕方だったので、日菜菊とは後から合流することになっている。夕方が近づくと、拓海と莉子は日菜菊との待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせの前にトイレ休憩をし、拓海は待ち合わせ場所にあるベンチに腰掛けた。莉子はまだ戻ってきていない。拓海の目が、歩いてくる日菜菊の姿を捉えた。時間通りだ。
日菜菊は拓海が座っているベンチにやってくると、拓海の横に座った。その間、拓海と日菜菊は挨拶すらしなかった。
「あれ、日菜菊じゃん」
軽薄そうな男が日菜菊に話しかけてきた。
「偶然だな」
「……お久しぶりです」
「ねー、シュウ、誰?」
「中学ん時の後輩」
「ふーん」
シュウと呼ばれた男と一緒にいる女性が値踏みするように日菜菊を見る。
「んー? 隣にいるの、あの時の彼氏じゃん? まだ付き合ってんの?」
3人のやり取りを傍観していた拓海だったが、シュウのその一言を聞くと、拓海はベンチから立ち上がってシュウの腕を引っ張り、耳打ちした。
「余計なこと言わないでください! 隣の人、彼女さんですよね? 今、変なこと蒸し返すと面倒くさいことになりますよ……」
「ん、ああ、そうだな」
そう言うと、拓海はシュウから離れた。しかし、今度はシュウが拓海に耳打ちしてきた。
「あの時は悪かったよ。今はほら、俺にも彼女できたから。多分、日菜菊よりいい女だぜ!」
「いや、もういいですから、行ってください!」
そのやり取りを最後に、シュウとその彼女は去っていった。
(こんなところで余計なこと言いやがって……、莉子が聞いていたらどうするんだ!!)
拓海はそんな嫌な想像をした。
その直後、莉子は拓海たちと合流した。
◇
拓海たちは、目的のアンティークショップに着いた。狭い路地にあるため、存在感も薄い店だ。
「莉子、どうしたの?」
何かを考えている様子の莉子に、日菜菊が尋ねた。
「え、ああ、ごめん、何でもない。さあ、行こう」
莉子は何かの迷いを振り払うように、先頭でアンティークショップに入っていった。
「こんにちは、いらっしゃい。
その女性は日本人には見えなかった。長身に長い脚、美人には違いないが、同時に近づきがたい雰囲気を持っていた。
「ここに来たということは宗吾くんの正体を見たわね?」
「はい、そうです」
「では明かすけど、私も怪異よ」
「え!?」
「毎度、すぐに納得してもらえるから助かるわ。宗吾くんの異能ゆえね」
「怪異は存在するんだと、頭が納得していますからね、あの変身を見た後だと……」
「そうね。ただ、他言も詮索も無用よ。私は宗吾くんみたいに優しくないから」
「は、はい……」
もし、余計なことをしたらひどい目に合わせる、そういう含みを感じる言葉だった。拓海たちを椅子に案内し、その女性はお茶を淹れてくれた。
「ちなみに、私のことはルビーとでも呼べば良いわ。もちろん、本名ではないけどね」
「ルビーさんですね、わかりました」
「それで、剣持先生が持ってきてほしいと言ってたアイテムって?」
「魔具と呼ばれるものよ。あなたたち、裏の屋上に行ったでしょ?」
「はい」
「あのように、異能を発揮するためのアイテム」
「どういったものなんですか?」
「それを渡す前に、あなたたちを試す必要がある」
そう言うと、ルビーは机の上に一枚の絵を置いた。絵には、古びた家が描かれている。
「これは?」
「これも魔具よ。明日の放課後、3人で資料室に行き、この絵を見えるようにして過ごしなさい」
「過ごす? それだけですか?」
「そう。そうすると何かが起こる。見事、それに対処してみせなさい」
「は、はい。わかりました」
「結構。用はそれだけよ。あ、店の中は自由に見ていって構わないから。魔具も置いてあるわよ。あなたたちにそれが分かるかしら?」
いたずら地味た表情でそう言うと、ルビーは店の奥に引っ込んでいった。
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