1-4話 球技大会と怪しげな先生
入学初日に、女子会でも
拓海と莉子はいつもより早く登校したのだが、時間帯など関係ないように、各部活の先輩たちが凄い熱で勧誘してきた。
「す、凄いね……」
「受験する時から知ってはいたけど、ここまでとは……」
ホームルームの時間にも勧誘のために突撃してくる部活まであるのだった。
この日は、球技大会がある。クラス対抗でやることでクラスの親睦を狙っているイベントだ。
「拓海はバスケだっけ?」
「ああ。莉子はバレーだよな?」
「うん。最初の試合は男子のバスケの次だよ」
「応援しあえるな、良かったじゃないか、幼馴染ズ」
「というか、応援しあえるようにタイムテーブルが作られてるよね……」
拓海と莉子と
「おーい、
「ん?」
「
拓海と莉子に話しかけてきたのは担任の剣持だった。
「僕も部活の顧問をしているんだが、幽霊部員が多くてな、ちょっと話を聞いてみないか?」
「え、先生が勧誘活動をするんですか?」
「変だろう? でもまあ、うちの部としてはいつものことなんだよ」
「何部なんですか?」
「そいつは来てからのお楽しみということで。というかな……」
剣持は、拓海と莉子の耳に口を近づけ、コソコソと囁いた。
「教員の特権で、お菓子やお茶を用意できるんだよ。だが、調子に乗って用意しすぎちまってな。ぜひ消費に来てくれ。とりあえず、今日の放課後、な」
「なんですか、それ? わっる」
「じゃ、待ってるよ」
そう言うと剣持は、歩き去った。
「なんか胡散臭いなぁ。どうする、莉子?」
「まあ行くだけ行ってみない? お菓子もらえるみたいだし」
「うーん、そうだな」
剣持の態度に不信感を覚えつつも、拓海と莉子は行くことにした。
◇
午後の授業の枠を使って、球技大会が開催されている。次は拓海のクラス、2組が参加する男子バスケだ。
「ねえ莉子、上から見ない?」
「え? うん、分かった」
莉子と
バスケの試合を迎えるに当たって、既にバスケ部に入部した
「確認しておくけど、とにかくボール取ったら俺にパス出してくれればいいから。相手にも一人バスケ経験者がいるから、気をつけろよ」
「ああ、分かった」
「自信ないなぁ。バスケとか体育でしかやったことないし」
クラスメイトが口々に言う。
(飛山はバスケ部の腕の見せ所だから、楽しいんだろうな……)
と拓海は思った。
試合開始。
ジャンプボールは飛山が務め、見事ボールを奪うことに成功した。それに対して女子から歓声が上がる。
「うわ、おいしいぞ、これ!」
飛山がそう呟いたのが拓海に聞こえた。
(確かに、な!)
などと思いながら、拓海はボールをキャッチした。拓海はバスケ経験があるわけではなく、多少のドリブルはできるものの、相手を抜くことなんてできなかった。だから、拓海が追いかけなければならないのは、飛山の動きだ。
体育館のギャラリーからクラスの女子が見ている。莉子もいるし、日菜菊もいた。この状況は、拓海が高校生活でやってみたかったことの一つだった。それは、日菜菊が見ている前で、このバスケのようなスポーツイベントに参加すること。
(さて、俺の目、どこまで通じるかな!)
拓海は飛山の動き出しを見逃さなかった。するどいパスが飛山に通る。それは拓海が見ていた方向とまったく違う方向だったため、拓海をマークしていた相手選手を驚愕させることになった。
飛山は見事にシュートを決め、先制点を奪った。待ってましたとばかりにクラスの女子から歓声が上がったが、このプレイに関しては部員勧誘のために来ていたバスケ部の上級生からも声が上がった。
「っしゃ」
拓海は飛山とハイタッチをした。
「いや、飛山くん凄いね!」
「カッコいいよね!」
クラスの女子が飛山を讃えていた。拓海がするどいパスを出したことに気づく人はそう多くはない。
莉子でさえも、この一発だけでは気が付かなかった。
「いいぞー、頑張れ~」
と声をかけるだけだった。そんな中、日菜菊は、バスケコートの光景を笑みを浮かべながら眺めていた。
最初から歓声を上げていた女子だけでなく、勝利が近づく頃には下にいる男子も声を上げるようになっていた。それだけ見ていても楽しい試合だったのだ。結局、試合を決めたのは飛山の活躍だったが、拓海がするどいパスを出せたことと、
勝利に湧くクラスに混じって、バスケ部が勧誘に来た。主な対象は、拓海と村岡だった。
「
「村岡くん、その体格とジャンプ力はうちの部に必要だ!」
拓海は本格的にバスケをしたいわけではなかったし、村岡も陸上部に入ることをほぼ決めていたので、バスケ部の上級生たち及び一緒になって勧誘をしていた飛山は泣く泣く去っていった。部で集まって勧誘反省会を開いている。
なお、クラスの場を離れたことで、クラスの女子からの歓迎を受けられなかった飛山は、後で悔しがることになるのだった。
「拓海、凄いよ! 中学の時、あんなプレイしてなかったでしょ!」
「全然違う方向見ながらパス出してたじゃん? バスケ部員みたいだったぜ!」
中学時代、運動に関して拓海が極めて普通の生徒だったことを知っている莉子と浩太が、興奮気味に拓海に話しかけていた。
「いやー、どうしたんだろ。ゾーンにでも入ったかな」
などと、拓海は白々しく言った。拓海から笑みが消えることはなかった。
(思った通り、楽しかった~)
男子バスケの盛り上がりを受け、その後の女子のバレーも大いに盛り上がった。男女問わずの大応援だ。かくして、クラス親睦の目的はまんまと果たされたのだった。
拓海も声を張り上げて応援していた。隣に佇む日菜菊と一緒に。
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