第4話

「さて、早速フォスカル雪原の近くに行くわよ〜酔いたくなかったら私に捕まりなさい」


「お願いしやっす!」


グフィンは一度近くに行った場所ならどこでも転移ができる。魔王を倒す旅の途中で、フウロ達はフォスカル雪原の近くに寄ったためそこに行こうとしていた。

フウロは転移魔法が苦手で他人の転移魔法でも酔いやすいため、グフィンの袖を掴みむ。

グフィンが直接フウロに魔力を流して、フウロの魔力を安定させるためだ。


「ディメンションワープ」


フウロ達の足元に大きめの魔法陣が現れる。フウロ達が魔法陣に乗ると、聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。


「グゥゥゥフィィィンちゃぁぁぁぁん!!!」


「ヒィッ!」


「ティーレさん!?顔が目の色ぐらい赤いけど!?‥‥顔が真っ赤なティーレさんも愛おしいな」


「‥‥正気?私からしたらバケモンにしか見えないけど‥‥」


「お?俺とやる気か?」


グフィンの名を読んだのは、鬼の形相でこちらに向かっているティーレだった。

疲れているのか怒っているのか定かではないが、自慢の白い肌がこれでもかというくらい真っ赤になっている。

そんなティーレから名前を呼ばれたグフィンは、ティーレとは反対に恐怖で顔が真っ青になっていた。あまりの怖さに直ぐに転移をするグフィン。


「待ちなさぁぁぁい!!!!」


「あわわわ‥‥と、飛ぶわよ!」


「え!?ちょっ!」


スッとその場から消えたフウロとグフィン。ティーレはギリギリ二人に追いつけなかった。


「フウ君‥‥」


小屋の前でギリっと歯軋りをするティーレ。握っていた拳は、力が入りすぎて血がダラダラと流れていた。


「あんなに私のこと好きって言ってたのに‥‥‥グフィンちゃんと逃げるように消えるだなんて」


ティーレはニヤニヤしていたフウロの顔を思い出してイライラが止まらなくなった。実際にはティーレが可愛くてフウロはニヤニヤしていたのだが、ティーレからはグフィンに触れてニヤニヤしているように見えた。


「あ‥‥そっか」


ティーレは安心したように呟く。


「ふふ、グフィンちゃんがフウ君を誑かしたんだ‥‥じゃなきゃ、フウ君が私から逃げる訳ないもんね?聖女として悪い子にはお仕置きしなきゃ‥‥」


フラフラと虚な目をして森の中を歩き出すティーレ。ティーレの近くにいたモンスターが、ティーレを危険と判断し背後から襲いかかる。


「ごめんなさい。今、機嫌が悪いの」


「ギュッ!?」


完全に気配を消して襲いかかったのにも関わらず、ティーレは後ろを見ないで体を捻るだけでモンスターの攻撃を躱した。ティーレに攻撃が当たらなかったモンスターは、そのままティーレの横を通過して、ティーレの前に背中を向ける形で出てきてしまった。


「か弱き命を導きたまへ、穢れた魂を浄化したまへ。安らかな眠りを天国ラ イ ジ ン グへのヘ ヴ ン 


ティーレが詠唱をすると、モンスターを覆うように光が発生する。


「ギュギュッ!?ギュゥゥゥ!!」


光がパンッと音を鳴らして弾けると、光の中にいたモンスターは断末魔を残して消失した。


この魔法は本来、魔王やその手下である魔族と呼ばれる強者に対抗するために造られた魔法であり、そこら辺の雑魚モンスターに使うには勿体無い魔法である。


「神のご加護があらんことを‥‥」


ティーレは祈って冷静になったのか、またはモンスターに八つ当たりをしてスッキリしたのか分からないが、憑き物が落ちたようにスッキリした表情になっていた。


「そうだ、グフィンちゃんの事ならローレンに頼るのが1番ね。今なら家で休んでいるかしら?」


ティーレは方向を変えて全力で走り出した。


「ふふ、直ぐに迎えに行くから待っててね、フウ君」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る