第3話

「留守じゃなきゃいいんだけど」


フウロは森から出た先にある山の麓にいた。目の前には古びた小屋がある。

小屋の扉を軽く叩き、小屋の主の名を呼ぶ。


「グフィンーいるかーー!!」


フウロが叫ぶと、小屋の中から騒がしい音が聞こえる。フウロは小屋の主がいることに安心すると、小屋から黒い髪に全身を黒いローブで覆った少女が出てきた。


「フウロ!久しぶりね!」


「王城のパレード以来だな!元気そうで安心したぜ!」


少女の名はグフィン・ビリオッド。フウロとティーレと勇者と共に魔王を倒した英雄。賢者の称号を持つ魔法士だ。

グフィンは魔法の天才で、10歳の時点で千の魔法を扱えた。


「フウロも元気そうね!今日はどうしたの?ティーレさんとの結婚報告?」


グフィンはニコニコとフウロに要件を尋ねた。それを聞いたフウロは深刻そうな表情になり、グフィンは笑みを辞め真剣な表情になる。


「どうやら違うみたいね」


「ああ」


「もしかして魔王関連?この辺りじゃ特に強い気配はしないけど‥‥」


「‥‥に‥‥‥た」


「え?ごめん、聞こえなかったわ」


ポツリと漏れたフウロの声が聞こえなかったグフィンはもう一度聞き直す。


「ティーレさんに振られた!」


「え?」


自分の予想の斜め上の発言に思わず呆けた声が出てしまったグフィン。フウロの表情からして世界の一大事かと思ったら、思っていたよりしょうもない要件で肩透かしを食らった。


「ティーレさんに振られた!!!!」


「ごめん、今のは聞こえたけど驚きのあまり声が漏れただけ。叫ばないで」


「えっごめん」


てっきり慰めてくれると思っていたフウロは目を点にして落ち込む。

グフィンは気にせずに思考の沼にハマっていた。


(え?魔王を倒したから、てっきりティーレさんはフウロの告白を受けるもんだと思っていたけど‥‥旅の途中でもあんなに私とローレンに惚気てたし‥‥‥私とフウロが少し会話をしただけで目のハイライトが消えて圧をかけてきたあのティーレさんが振った?)


考えれば考えるほど訳がわからなくなるグフィン。ティーレが旅の途中で告白を振った理由は分かっていたが、魔王を倒した後にフウロを振る理由が分からなかったのだ。


「なあ、そろそろ相談に乗ってもらって良いか?」


「えっ‥‥?あ、ああ、良いわよ」


「さっき気づいたんだけどよ。俺、今までティーレさんにプレゼントを贈ったことが無いんだ。だから振られたんだと思う」


それは絶対ちげえ、と内心でツッコミを入れるグフィンであったが、確かに一緒に旅をしててフウロがティーレに物を上げたのを見たことがなかった。


「‥‥で、何をあげれば良いのかわからないから私に聞きにきたと」


「お前、俺の心を読んだのか!?」


「違うわよ!フウロが単純だから分かりやすいだけ!まぁ良いわ。プレゼント選びに付き合ってあげる」


「話が早いな!助かる!」


フウロはグフィンの手を掴み、上下に揺らす。勢いが強すぎてグフィン本体も上下に揺れる。


「ちょ、ちょっと!落ち着いて!」


「わ、悪い!つい嬉しくて」


「ハァ‥‥ハァ‥‥アンタ、全然変わらないわね」


「ん?ありがとな!」


「褒めてないわよ!」


まだ何もしていないにも関わらず、疲れた様子のグフィン。グフィンは気を取り直して話を進める。


「それでプレゼントの件だけど、フウロはこれを贈りたいって物は考えていないの?」


「ん〜‥‥あるっちゃあるな」


少し言いづらそうにするフウロを見て、グフィンは促す。


「期待はしていないけど言ってみなさい」


「酷えなぁ。‥‥フォスカル雪原で取れる宝石、ブラッドティアーを加工した指輪を贈ろうと思ってるんだ」


「フォ、フォスカル雪原!?っていうかブラッドティァァァ!?」


目ん玉が飛び出るんじゃないかと思うほど目を見開くグフィン。フウロの発言でそれほど度肝を抜かれていた。

フォスカル雪原とは、魔王が支配していた領域でかなり強いモンスターが生息しており、視界が見えないほどの激しい吹雪が絶えず環境が最悪な為、誰も近づこうとしない魔の領域だった。


そんな危険なフォスカル雪原の奥地にある洞窟に、神秘の神樹と呼ばれる小さな樹が生えている。神樹はフォスカル雪原の環境に耐えれるようにかなり純度の高い魔力を溜め込んでおり、神樹の葉は古くなった魔力を雫に変えて放出する。

出てきた雫は特殊で、神樹の葉が赤いせいか血のように真っ赤で透明度が高く、雫が落ちる瞬間に雪原の気温により直ぐに固まる。

真っ赤な雫が落ちるのがまるで涙に見えたことからその雫はブラッドティアーと呼ばれるようになった。


「や、やっぱりセンスがないか?ティーレさんの赤い瞳に合うと思ったんだが‥‥」


「いや、ありすぎるわ。そんな物貰ったら世の中の女性はほぼ全員堕ちるわね。ティーレさんが貰ったら嬉しすぎて発狂するんじゃないかしら」


「そうかそうか!」


グフィンが認めてくれたことにより、フロウは機嫌が良くなりニコニコし始める。しかし、フロウとは反対にグフィンは難しい表情をしていた。


「眉間に皺なんかよせてどうしたんだ?」


「プレゼントが決まったのは良いけど、かなり時間がかかるわね‥‥」


「どれくらいかかるんだ?一ヶ月くらいか?」


「早くて一年ね」


「一年か〜‥‥い、一年?一年もかかるのか!?しかも早くて!?」


「ブラッドティアーが取れるのが大体半年に一回。それに加工が難しいから余裕を見て半年ね。合わせて一年。まあ私も手伝ってあげるから頑張りましょ?」  


「心の友よ!!!今日ほどグフィンが友達で良かったと思った事はないぞ!ありがとう!」


「どういたしまして。なんか複雑ね‥‥」

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