23.ヤキモチ大作戦!

私(とペロリン)がグラウス様のお屋敷で暮らすようになってから、ひと月ほど経とうとしていた。

その間、もう一度なんとかシリウス様に会えないか試してみるも……今のところ、なんの進展もない。

アレクセイ様も一緒に文献を調べたり、色々と情報収集をしてくれているが……。


「これでひと月、音沙汰無しか」


最近はお屋敷のリビングで、アレクセイ様と『シリウス様と再会会議』をおこなうのが恒例になっている。


「うーん……なんとかシリウス様を呼び出せるといいんですけど」


「スフーン……スヤヤ」


ペロリンは『シリウス様会議』にはまったく興味がないらしく、いつも眠って不参加を決め込んでいる。

……まあ、その方がアレクセイ様と余計な揉めごとが起きなくて助かるけど。


「シリウス様は……何を血迷ったか、とんでもない勘違いをしてお前に不埒ふらちなことをしようとたくらんでるんだろう? なら簡単じゃないか」


「血迷うとか不埒ふらちとか、言い方が少々引っかかりますけど……そう簡単にいかないから困ってるんじゃないですか」


「まあそうふくれるな。そういう顔も可愛いが」


「はいはい、わー嬉しい~」


アレクセイ様の、さらっと口説くようなタラシ癖にも慣れてきた。


「俺に良い考えがある」


「えっ、ホントですか?」


「まず、お前が……シヴァを誘惑する」


「はあ!?」


「寝ているシヴァの耳元で色っぽくささやくんだ。そしてシリウス様をおびき出す」


「ちょ、ホントいろいろ突っ込みたいんですけどっ……それってメッチャ危険じゃないですか!?」


「安心しろ、俺が隠れてこっそりと見張っててやる」


「……なんか悪趣味ですねー」


「ふん、なんとでも言え。もう一ヶ月も姿を現わさないんだぞ、手段を選んでる場合か」


「まあ、それはおっしゃる通りで……もしかしたら、私の知らないうちに入れ替わってるんじゃないかって、シヴァ君が寝てるところをこっそり覗いたりしたんですけど……まったく」


「ストーカーかよ、どっちが悪趣味なんだか……とにかく、このままじゃらちが明かない。シリウス様が食いつく餌をちらつかせ、誘い出すんだ」


「……うう、わかりました……やってみます」


「よしよし、いい子だ」


ペロリンを避けているのか、私の頭ではなく頬を撫でるアレクセイ様。


「ちょ……くすぐったいですよ」


「ふふふ……あ、俺、今夜は王宮に戻らなきゃならないから、決行は明日だな」


そう言いながら、楽しそうに私のほっぺをぷにぷにもてあそぶ。


「はひ、あしゅた……あ、グラウシュしゃま」


ふと扉の先を見ると、いつの間にかグラウス様が立っていた。


「……ずいぶんと、仲良くなったようだな」


「いえっ、全然! これは……」


慌てて立ち上がると、アレクセイ様に後ろから抱き締められた。


「ちょ!? アレクセイ様……っ?」


「そんなに気になるか?」


「……何が?」


「俺とティアラのこと。このまま親しくなって……恋仲になったり?」


「恋っ!? ない! ないないっ、絶対ないですからっ! グラウス様っ……私、アレクセイ様とはそんな関係じゃ」


「どうでもいい。俺はペロリンのことが気がかりなだけだ」


「え……あ、は、はあ……」


なんだ、変な誤解されたら困るって焦っちゃった……そうだよね、グラウス様はペロリン第一なんだから。


「ペロリン、ねぇ……大丈夫、この通り最近は良好な関係だ」


「それでも……あんなに魔物だ凶悪だの、騒いでいたからな。邪魔になれば、植木鉢女もろとも即刻排除しようと……」


「ぷっ! あはは……グレンも意外とわかりやすいな」


「……何がだ」


「どれだけティアラを大事に想ってるか、丸分かりだぞ」


「え!?」


「くだらない……とにかく、ペロリンには手出しするなよ」


「ふーん……なら、ティアラには手を出してもいいってことかな」


「んぅっ……!」


後ろから抱き締められた恰好のまま、今度は顎を掴まれた。


「……離せ」


グラウス様の瞳が薄く細められた。一瞬でその場の空気が凍る。


「……ほう、驚いた。本気なのか」


「も……もうっ、アレクセイ様! からかうのもいい加減にしてくださいよ~っ」


私はおどけたように言って、アレクセイ様から慌てて離れる。


「はあ、なんだよ。いいところだったのに……」


「い、いいところって……」


「もっと見たくないか? グレンがヤキモチ妬くところ」


「ドロン……戯言ざれごとを」


「はははっ、まあいいや。十分面白いものが見られたしな」


アレクセイ様は何食わぬ顔をして去っていった。


「あ、はは……あ、アレクセイ様ってば、なっ、なに言っちゃってるんですかね?」


ちょー! このイヤ~な雰囲気……どうしてくれる!?


「えっとえっとっ、グラウス様がヤキモチ妬くなんて想像つかないし……ホントもう、意味わかんない!」


「……面白くないな」


「え?」


グラウス様がツカツカと近づいてきて、私を壁際に追い詰める。


「どうして俺がこんな気持ちにならなければならない」


壁にドンと手をついて、私を見下ろすグラウス様。


「こ、こんな気持ちって……どどっ、どういう?」


むくいを受けてもらおう」


「む、むくい? あ……うっ!?」


グラウス様がかがんで顔を寄せ、私の首筋に吸い付いた。


「……あ、んんぅ……!?」


「まったく……隙だらけだな」


ペロッと唇を舐めながら私を睨むグラウス様。


「だから、ドロンみたいなのにつけ込まれるんだ」


グラウス様がねたように言う。

うわぁ……これってもしかして、ホントにヤキモチ?


「は……わ……ぁ」


「これはお仕置きだ……あまり、俺以外に隙を見せるなよ」


「……っ、……っ!」


こくこくとうなずく私を見て、グラウス様は満足げに去っていった。


一方、私はというと――

ドキドキと爆音を奏でる心臓を押さえ、しばらくその場に立ち尽くしていた……。

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