13.目覚ましイケメン

あり合わせの材料で昼食を作って、急いで食卓を調ととのえた。


「あのぉ~……私、グラウス様と一緒に食べていいんですか? 給仕とか、した方が……?」


「しなくていい。シヴァも給仕などしない、共に食卓へつく」


執事なのに? グラウス様にとって、使用人の定義とは一体……。


「仮にも王子様ですよね? 私みたいな庶民と食事って、マナー的にどうなのかなって」


「図々しいわりには、変なところで律儀りちぎだな」


「えへへ……なんだか落ち着いたら、急に気になり出して」


「本当に今さらだな。昨日からさんざん無礼を働いておいて」


「だってグラウス様って王子様っぽくな……いえ、つい王子様だってこと忘れちゃ……うわわ」


何か言おうとすればするほど失礼だ。これじゃあ、無礼者扱いされても仕方ない。


「図々しい上に、失敬しっけいなやつだな」


「すみません……」


「とにかく、この屋敷ではマナーなど気にしなくていい。自分の世話は、できるだけ自分でやっている」


「あっ、でもお掃除とかお洗濯とかはボクがしてますよ!」


シヴァ君がスープを飲みながら、胸を張って言った。


「へえ、えらいね。こんな大きなお屋敷、綺麗にするの大変でしょ。これからは私も色々と手伝うね」


「ありがとうございます! ティアラ様とお仕事できるなんて素敵ですっ」


「一緒に頑張ろうね」


言いながら、シヴァ君の口の端についたスープを拭いてあげる。


「わ……えへへ、どうも。このスープ、美味しいから夢中で食べちゃいました」


「よかった、口に合って……私、お料理は得意なんだー。孤児院でずっと作ってたから」


「このチーズ焼きもエッグサラダも最高ですっ」


「えへへ、ありがとう~。そんなに喜んでくれるなんて嬉しいな」


しかし――

一番反応が気になる、グラウス様はというと……静かに黙々と食べている。

とりあえず、口に合わないわけではないみたいだけど……。


「御主人様、ティアラ様のごはん、とっても美味しいですね!」


「……ん? そうか、味など気にしてなかった」


「もう~っ、御主人様はいっつもそうなんですから。少しは味わって食べてください」


「え? いっつもって……どういうこと?」


「ティアラ様、聞いてください! 御主人様は食事に全然興味がないんですよ」


「ええっ?」


私なんて、毎日のごはん(ついでにおやつも)が一番の楽しみなのに!


「食事など、腹に入ればなんでもいい」


「でも、不味いより美味しい方が絶対いいですよね?」


「不味いなら口にしなければいいではないか」


「御主人様はときどき食事するのも忘れるんですよ。基本的に一日一食、食べるか食べないかだし……」


「えええ、ダメですよそんなの! 身体によくありませんっ」


「うるさいやつらだな……俺は食事という行為自体に興味がないんだ」


「……でも、さっきペロリンが食べてるのは興味津々で見てましたよね」


「ああ、あれは素晴らしかった! もっと見ていたいくらいだ」


グラウス様はアイスブルーの瞳をキラキラと輝かせた。

なんて、嬉しそうな顔……今までで一番、生き生きとしてない?


「あんまり食べさせすぎると危険ですよ、また吐くかもしれないし」


「グエー、ゲップゥ……」


さすがのペロリンも食傷しょくしょう気味みたい……やっぱり、グラウス様食べ物を与えすぎ!


「とにかくグラウス様、食事はきちんと取った方がいいですよ」


「俺は誰の指図さしずも受けない」


グラウス様はフォークを置いて、すっと席を立った。


「あ、グラウス様……どこへ行くんです?」


「ペロリンを迎え入れる準備だ……貴様は、しばらくシヴァと一緒に待て」


「あ、はい。わかりました……」


「じゃあティアラ様ー! ボク、お屋敷の中を案内しますね」



・・・・・・・・・・。



一通り、お屋敷の案内をしてもらったあと――


「お城並みとはいかないけど、豪華なお屋敷だね。さすが王族……」


仕事があるというシヴァ君と別れ、今朝(といっても昼過ぎだけど)目覚めた部屋へ戻ってきた。


「プキュルンルーンッ」


満腹のペロリンもご機嫌で、ずっと大人しくしてくれている。


「グラウス様、迎える準備をするって言ってたけど……ずいぶん時間がかかってるね」


「フアアン、クアア~ァ……」


ペロリンが眠そうに欠伸あくびをした。私も、なんだか眠くなってきた……。

昨日は怒濤どとうの一日だったし、なんといっても朝のお目覚めインパクトが強烈で。


「うーん……少しだけ、少しだけ……横になるぅ、だけ……だか、ら……」


私は今朝、グラウス様と一緒に寝ていたベッドでうたた寝を始めた。


――うとうとうと……。



「プギャアアアッ!」


「……え?」


突然、ペロリンの叫び声がして目が覚めた。


「お前、どうしてここに……」


「……ええええええええええっ!?」


目の前には……本日2度目の目覚ましイケメン!


……でも、グラウス様じゃなかった!


「魔物の分際で、なぜグラウス様のお屋敷でグースカ寝ている!」


「あっ……、あ……っ、アレクセイ様……! どうして、ここにっ……」


「はあ? それは私の台詞だ! 私はクラウンザード王国騎士団団長だぞ、グラウス様を守るのがつとめだ!」


そうだった! つまり、アレクセイ様はグラウス様の……ボディーガード!

グラウス様のお屋敷に現れたってなんの不思議もない!!


けがらわしい魔物め! 今度こそ成敗せいばいしてくれるっ」


「ちょ! 室内で剣を振り回さないでくださいっ」


「キシャーーーッ!」


ペロリンが威嚇いかくしながら、アレクセイ様を牽制けんせいする。


「また毒霧を吐くつもりか!? 卑怯ひきょうな、そうはさせんぞっ」


私はなんとかこのピンチをしのごうと、ベッドやらソファの陰に隠れる。


「くっ、ちょこまかと! 小賢こざかしい魔物めっ、逃げるな」


「だから、私は魔物じゃありませんってば!」


「じゃあ、その大きな花はなんなんだ! このっ、逃げるなというに!」


「ですからっ、私の話をちゃんと聞いてくれたら逃げませんよ!」


さすがに家具を傷つけるわけにはいかないと気を遣っているのか、室内でのアレクセイ様の動きは鈍い。


「……わかった、では話を聞こう」


「……へ?」

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