14.救いの王子様

意外とあっさりと了承してくれたアレクセイ様に、拍子抜けしつつも――……

私は今までの経緯けいいを打ち明けた。


「……ほう、その花がいつもと違うものを飲み込んだら、突然巨大化した……と」


そして自ら望んでここへ来たのではなく、グラウス様に連れてこられたことも説明した。

……ただ、宝珠の件うんぬんは話していいのかわからなかったのでにごしておいた。


「グラウス様がわざわざここへ……見ず知らずの他人を?」


「……まあ、そうなりますね」


「はああ~ぁ……、まったくあの方は……。まだりないのか……」


りない?」


「グラウス様の悪いくせだ」


???

……ますますよくわからないが、アレクセイ様はしばらく長考していた。


「しかし、だがお前は……つまり――」


「つ……つまり?」


私は固唾かたずんでアレクセイ様が下す判断を待った。


「やっぱり、どう考えても訳のわからないバケモノではないか!」


「えええっ、やっぱりそうなるの~!?」


もうなんでなんでっ!? アレクセイ様のわからず屋!


「バケモノ花の方だけなんとかしたかったが、止むを得まい! こうなったらお前を……斬る!」


アレクセイ様は、標的をなんとペロリンから私へ変えてきた!


「ええっ!? それでも正義の騎士ですか!? 王国騎士団には国民を守る義務がっ……!!」


「いけしゃあしゃあと魔物が何を言う!」


アレクセイ様はふところから何やら取り出して、ペロリンの方へ投げつけた。


「ファッ!? ワキューーーンッ!」


即座に飛びつくペロリン。


「何それ……あっ、キャンディー!?」


「王都で人気のクラウンキャンディーだ! これなら魔物もまっしぐら!」


餌付えづけなんて卑怯ひきょう!」


「不意打ちに毒霧を吹きかけておいて……お前が言うなっ」


今度はあっという間にアレクセイ様に押し倒された!


「ちょーーーっ!? ペロリン助けてっ」


「ンペロッ、ペロペロッ!」


しかしペロリンはキャンディーに夢中で、私のことなどお構いなしだ!


「悪く思うな、これも魔物として生まれたお前の運命さだめ……」


「だからっ、私は……魔物じゃなあああいっ!」


アレクセイ様は私へ向かって、剣を突き立てた。


「お命頂戴ちょうだいっ!」


「イヤーーーっ、死にたくない! 助けてーーーーーっ!!」



私が絶叫ぜっきょうした瞬間――


首元に突き立てられていた剣が、キーーーンと弾け飛んだ。


「なっ!?」


「騒がしいぞ、何をしている」


「……あ!」


私は勢いよく立ち上がって、助けてくれた人の元へ駆け寄る。


「グラウス様あぁ……」


「……まったく、貴様は騒動を起こさないと死ぬ病気なのか」


グラウス様はいつもと変わらない無表情のまま、私を見下ろした。


「だ、だってぇ……」


アイスブルーの瞳は冷え冷えとしてるのに、グラウス様の顔を見たらなんだか心底ほっとしてしまった。


「グラウス様! 離れてください、そいつは危険な魔物です!」


「落ち着け、こいつは魔物などではない」


「訳もわからず、巨大化した花が!? しかも人間の頭に寄生するなど、邪悪な魔物以外の何ものでもありません!」


「訳もわからず……?」


グラウス様は、自分の背中に隠れている私を振り返った。


「宝珠のことは話してないのか」


「はい、一応……全部説明するのはどうかと思いまして」


「……賢明だな」


私の答えを聞いて、グラウス様は口の端を少しだけ上げた。


「えへへっ」


グラウス様に褒められたようで嬉しくなる私。


「……何をにやけている。植木鉢にしては、という意味だ」


「あ、意地悪。その言い方はないですよ」


「うるさい、苗床女」


「な、なえどこ女!?」


相変わらず、ひっどいあだ名センス……私のネーミングセンスをとやかく言えない!


「何をコソコソと話しているのです!?」


二人の世界に入って、ついついアレクセイ様をほったらかしにしてしまった。


「とにかく、ペロリンは魔物ではない」


「ペロ……? ペロリンとは一体……?」


「……コホン、この花の名だ」


なぜグラウス様が照れるのかわからないが、顔が少し赤くなってる……可愛い。


「そもそも、俺にとってはペロリンが魔物だったとしても不都合はない」


「グラウス様の御身おんみが危険です!」


「自分の身は自分で守れる」


「ぐっ……で、ですが! 万が一のことがあったら……」


「あーーーっ! 性悪騎士!!」


バタバタと飛び込んできたシヴァ君が、アレクセイ様を指差して叫んだ。


「し、しょうわる騎士……?」


「……このように、ここにはシヴァもいる」


「……そうでした、また違う意味で心配の種が」


「ティアラ様、気をつけてください! この性悪騎士は、優しそうに見えてとっても意地悪なんです!」


わめいているシヴァ君を気持ちいいくらいにスルーして、グラウス様とアレクセイ様は何やら話し込んでいる。


「――だから、心配はいらない」


「グラウス様が、そこまでおっしゃるのでしたら……」


私の説明では納得しなかったアレクセイ様が、グラウス様の説得には応じた!


「しかし、心配の種がまた一つ増えたことは遺憾いかんです。何か対策を講じなくては……」


「いやだから、気にしなくてい……」


「やむを得ません、私もここで暮らします!」


「えええええーーーっ!?」

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