第3話 初デート

好きになってもらうにはどうすればいいのか。デートでリードする?優しいところを見せる?自分のすごい所を言う?分からない。

でもこれだけは分かる。


「彼女がいるって、ワクワクする!」


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デート当日。俺はやらかした。寝坊したのだ。会う時間より早くくるつもりだったのに20分も遅れてしまった。


「吉野くんから誘ってきたのになんであなたの方が遅く来るの」

「ほんとごめん!初デートなのに」

「いいよ。どこ行くか決めてあるの?」

「いや?決めてないけど」

「私はなにも考えてきてないよ。ついていくだけ」


今だいぶピンチだ。デートに遅れた上に予定も決めてないなんて知られた。


「じ、じゃあご飯食べに行こ!パスタ!」

「今10時24分」


中途半端。ご飯はないとするとやっぱり買い物か?


「じゃあ服買いにいこうよ!」

「いや、私の服は足りて...」

「いいからいいから!俺が選ぶよ!」


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「うーん、色揃えた方が似合う? でも色んな服が似合うな...」


彼女の服を探していた。彼女は疎いのか、服は足りてると言っていたが今着れるのは3種類しかないらしい。


「これとか似合うと思うよ!」


そう言って俺が重ねたのは黒のワイドパンツと白黒のボーダートップスだ。


「うん、似合ってるよ」


そう言うと彼女は鏡で自分の服を見ながら、


「吉野くん、センスいいね」


(やばい、嬉しすぎる!)

やっぱり好きな人に褒められるのは嬉しい。はたしてレンさんは嬉しく思っているのだろうか。表情じゃ分からない。


「私、行きたいところできた」

「え、いますぐ?」

「いこ」



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「どうして歩道橋?」

「私ね、今までの人生で友達と遊んだこともないの」

「え、友達がいなかったの?」

「まあ、いなかったのは本当だけど言われると心に刺さるね」

「あ、ごめん」

「私、中学校の時大怪我したの」

「そのせいで?」

「うん、ある意味ね」

「どういうこと?」

「私、1回記憶を失ってるの。だからそれまでの記憶が無い。無いまま高校2年生になったの」

「...」

「最初のうちはクラスのみんなも心配してくれてた。だけど私は、私は知らない人に心配され続けるのが怖くて、中学校に一回も行ってないの」

「つまり、実際に学校にいってたのは記憶を失ってからの時間だけ?」

「そう。中学校2年生の夏。ちょうど今日」


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新しく出来た彼女は本当の彼女じゃないらしい。でも俺はその本当の彼女を知らない。しかも記憶を失って3年も経ってるのになにも感情が起こらないらしい。

(可哀想だと思うのは、レンさんに失礼だよな)

そんなことを考えながら、俺は憐さんにメールを送った。


今日はデート楽しかった。今度は違うところでデートしてみたいな。あと、レンさんのこと少しでも知れて嬉しいよ。


~~~~~~~~~~

私にできた初めての彼氏は、いい人だった。遅刻はしたけど、デートはリードしてくれたし、予定は組んでないのに服を買ったりもしてくれた。でも私はなにも分からない。喜びも悲しみも、楽しさや嬉しさも分からない。



「あぁ、感情が知りたいな」

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