領地簒奪編.36.獅子身中の虫その2
「――ゴードン?!」
ダンジョン機能の《配置》により路地裏から現れたカシム――いえ、アンデッドの剣士により一行の中で一番大柄な男性の首が落とされる。
ダンジョン内であれば無理にコチラから話を振らずとも会話を盗み聞き出来ますし、背を向けていても相手の細かい表情まで観察できますので不意討ちがとてもしやすいのですよね。
生身の私もすぐ近くに居る訳ですし、タイミングを合わせるのは容易でした。
「何者だ?!」
同時に、領域を延ばして繋げたばかりのスラムと隣接する地区の井戸からアンデッドを数体送り込み、程々に騒ぎを起こす事でコチラを探っているだろう守備隊の注意を惹き付けます。
これで私達の様子に気付くのが遅れるでしょうし、気付けてもすぐに援軍は出せないでしょう。
「(アーク、声の担当をよろしくお願いしますね)」
【あ? あ〜、そっか、コイツ喋れねぇのか】
そうなんですよ、素体としては他の住民よりもそこそこ優れてはいましたがそこそこ止まりなんですよね。
なので生前の剣技はある程度再現できますがそれだけですし、声帯も上手く使えません。
それでも現状の私が保有する配下のアンデッドの中で一番強い個体ではあるんですけどね。
「【ふん、今回もジョットは来ていないのか】」
「! 騎士団長を知っているのか?」
「【かつて同じ師を仰いだ身……知らない訳があるまい】」
さて、私は私で演技をしますかね……ちょっと恥ずかしいですが。
「ぐっ……!」
「勇者様!?」
っと、タイミング良くゴードンとやらの魂が流れて来たので不要でしたかね……私が戦闘に参加する訳では無いので誰かがダンジョンに殺される度に快楽が襲って来るようです。
これはむしろ、私が苦しんでいるのではなく快楽を感じているのだという事を悟られない様にする必要がありますね。
「【その身に呪いの傷を刻み、調教したというのに懲りずにまた来るとは……勇者様にこの先に行かれると困るんですよねぇ】」
「貴様ッ!」
「……そう、アナタが勇者様に酷い事をしたのね」
死人に口なしとはよく言ったもので、都合よく私が戦いに参加できない、そして必ず排除しなければならない敵として認識して貰える最高のポジションを与えましょう。
元々生前に領地の中枢メンバーと顔見知りであるという点も高評価ポイントで、彼がこの騒動の中心に居ると知ればダンジョン内に騎士団長を誘き寄せる餌になる。
話を聞いていた限り、出奔した兄弟子が心残りだった様でしたから利用してあげましょう。
「騎士団長の身内とはいえ容赦はせん!」
「死になさい」
「ゴードンの仇!」
さて、以前はコチラが一方的にやられるか、もしくはダンジョンの罠などでその自慢の剣技を十分に発揮する前に殺しましたが、本来の実力はどの様なものだったのでしょうか。
まぁ、それはそれとして私も次の罠の準備をしておきますかね。
「くっ……!」
「
「はぁ!」
「【……この程度ですか?】」
虚ろな瞳は何処に焦点を当てているのか定かではなく、ゆらりゆらりと身体が揺れ動いている様に見えながらその剣筋は全くブレない。
態と剣先のみを動かす事で相手からの攻撃を誘い、一瞬前のめりになる事で斬撃を放つと錯覚させた相手を飛び退かせる。
そうしてこの狭いスラムの路上でアルフレッドとカインの動きを制御する事で、リサが放つ魔術も全てやり過ごしているのは見事ですね。
分かってはいましたが、やはり飢餓状態の私が正面から戦って勝てる相手ではなかった様です。運が良かったですね。
「コイツ強いぞ!」
「くっ、今のは当たった筈なのに魔術を斬るだなんて……」
「どうやらジョット様の兄弟子というのは本当らしいな」
これでも生前に比べれば全体的な能力は下がっている筈ですが……あれですね、生前の傲慢さや怒りっぽさが無くなった分で差し引きゼロになっている様です。
「アルフレッド! 一旦退くべきだ!」
「しかし!」
「勇者様が何らかの呪いで動けない中で強敵に挑み続けるのは愚かだ!」
「……クソっ!」
おや、割と判断が早いようで……指揮は一応アルフレッドが取る様ですが、一歩引いた冷静な判断が出来るのはカインの様です。
であるならば、次の標的は彼に決まりですね。
「はぁッ!!」
「
「勇者様、お身体失礼します!」
カインが果敢に斬り掛かり、リサが目眩しの煙を出した瞬間を見逃さずにアルフレッドが私を抱きかかえる……のは別に良いんですけど、今ちょっと下腹部を刺激しないで貰えますかね。
「このまま離脱します!」
それは構いませんが、貴方達はここに何を解決しに来たのか忘れるのが早すぎるんじゃないですか?
「――っ?! なっ、ゴードン!?」
首無しのアンデッドと成った元ゴードンが殿を務めていたカインに背後から掴み掛かり、その身動きを制限する。
ダンジョン領域下で死体になったのですからこれはもう私達の資産であり、それをどう改造しようが持ち主の勝手という事です。
さぁ、そのまま二人目に引導を渡してしまいなさい。
「がッ――」
「カインッ!!」
「嘘っ、そんな……」
自分よりも体格の良い戦士に背後から不意討ちを喰らい、身動きが取れなくなったカインの心臓をカシムが貫いて殺す。
そして即座にその遺体を素に新たなアンデッドを作製し、私達へと追撃を命じる。
「クソっ、ここで死んだ者達はアンデッドに成るのか!?」
「どうするの?!」
「逃げるしかない! 情報を持ち帰るんだ!」
さて、それでは『次回以降は勇者様はお留守番で』と言われない様に更なる小細工をしましょうか。
「……二人を解放しましょう」
「勇者様? 何を……」
アルフレッドの肩越しに身を乗り出し、魔眼を発動する――魂魄眼でアルフレッドとリサの魂を覗き見しながら、ダンジョン機能の《配置》によって新人アンデッド二体をダンジョンの奥深くへと飛ばす。
こうする事でアルフレッドとリサの二人には、私が女神様から貰った魔眼でアンデッドを消し去った様に見えるでしょう。
今回のアンデッド騒動に、アンデッドに特攻があるらしい勇者の魔眼、元カシムの言った『勇者にはこの先に進んで欲しくない』という発言……これらを全て報告された領主がどのような判断をするのかは分かりませんが、可能性として一番高いのは『騎士団長を同行させる』という物になるでしょう。というよりも私の方からそう提案するつもりです。
「勇者様、魔眼を……」
「どうやらこれが私が女神様から頂いた力の様です」
兄弟子の不始末は弟弟子が方をつけるべきだとは思いませんか?
合理的な思考ができる者ならば、唯一勇者の行動を縛れるらしい者と対等以上に戦える者をぶつけて私を先に進ませる判断をするでしょう。
ついにスラムの外にもアンデッドが湧いてしまったのですから、領主側も早期の解決を望む筈です。
「どうにかして、先に進まなければ……」
「勇者様」
……おや、どうやら早速アンデッド達が新しい水源を発見した様ですね。
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