領地簒奪編.28.お腹が空くと怒りっぽくなる


「――反吐が出る」


【おー、いきなり怖っわ】


 案内された部屋のベッドへと倒れ込み、目元に腕を乗せながら漏れ出た怨嗟の声におどける様な返事が頭の中で響き渡る。

 それに対して思わず不快げに眉尻を上げ、腕の下から誰も居ない天井をジロリと睨み付けてしまう。


【何処を睨んでんだよ】


「……そうでしたね、ダンジョンの外では顕現できないんでしたね」


 はぁ、今のアークは私に憑依しているだけなのですから睨むなら自分自身ですかね……一応姿見は部屋にありますけど、自分を自分で睨むのも馬鹿らしいです。

 それをしたら我慢できずに鏡を叩き割ってしまい、この家の者達に一気に疑われてしまうかも知れません。


【にしてもお前が勇者って笑えるな】


「適当に話を合わせないと詰みでしたからね、私は貴方のマスターですよ」


【……へんっ!】


「なんですかその反応は」


 コチラにとって都合がいいので勝手に勘違いさせていますが、私はアークに召喚されたダンジョンマスターである筈です。


「……シュピーゲルン」


====================


名前:神田かんだ 悠里ゆうり

性別:女性

年齢:15歳

種族:ダンジョンマスターLv.2 《亜神》

属性:光

状態:空腹・怒り

カルマ: 《悪性》


ダンジョン機能

《不完全創造》《不完全知識》《把握》《拡張》《配置》《回収》《吸収》《合成》《改造》《同化》《監視》《召喚》


――※その他ロックされている機能があります。


基本技能

《日本語》《英語》《アウソニア言語》

《数学》《暗算》《高度計算》《義務教育》《不完全科学知識》《不完全化学知識》《不完全倫理》

《ストレス耐性》《苦痛耐性》《空腹耐性》《睡眠耐性》《不眠耐性》《刃傷耐性》《殴打耐性》《火傷耐性》《電流耐性》《疾病耐性》《痛覚鈍化》《悪臭耐性》

《息止め》《料理》《窃盗》《性技》《恫喝》《恐喝》《脅迫》《採取》《詐術》《話術》《演技》

《気配感知》《敵意感知》《悪意感知》《視線感知》《危機感知》

《剣術》《短剣術》《槍術》《棒術》《斧術》《暗殺術》《投擲》

《剛力》《耐久》《俊足》《柔軟》《免疫》《性豪》


特殊技能

《サヴォイア剣術・外道》


特有技能

《魂魄眼》


権能

《ダンジョンマスターLv.2》《■■■■■》


称号

《異世界人》《転移者》《迷宮の主》《人殺し》《殺戮者》《親殺し》《狂人》《被虐待児》《契約者》《魂喰い》《死霊使い》


加護

《地球神の加護》《■■との契約》


====================


「……特に女神とやらの痕跡は無いですね」


 念の為に手元に現れたスマホを確認するも、特にそれらしい情報は記載されておりません。

 やはりこれは私とは関係なく別にはぐれ勇者が居ると見るべきでしょうか。

 長い黒髪に整った顔の女生徒がその人物の特徴らしいですが、その様な人間など日本には履いて捨てるほど居たでしょうし。


【うーん、奇しくもあのクソ女神からお前を横取りする形になったか? だとしたら面白ぇがな】


「私としては向こうに既に認知されている可能性があるので嫌ですね」


【そういうもんか……って、お前ステータスにも状態:怒りって書かれてんじゃねぇか!】


「……煩いので人の頭の中で笑い転げないで下さいませんか」


 仕方ないじゃないですか、下心ありきで近付いてくる大人や私へ恋慕や性的な目を向けてくる男性という物が大嫌いなのですから。

 そもそも生きている人間自体があまり好きではありませんし、そんな人物達からの好意や気遣いなど気持ち悪くて仕方がありません。


【じゃあなんで素直に同行したんだよ】


「保有戦力などの情報を得る為ですよ」


 どの程度の戦力を持っていて、どの様に周辺国家と付き合っているのか……有事の際に即座に援軍を送ってくれる様な同盟国などは存在しているのかといった事を知りたかったのです。

 一応ダンジョンの存在がバレた時の為に最終的には行き止まりとなるダミーの入口を作りましたが、時間と人手を使えば正規ルートはいずれ発見されるでしょう。

 それまでにどれだけ領主一族の戦力を削れるか、勇者などの様な驚愕すべき個人が居ないかどうかの判断、また居た場合の対策などが主目的です。


【驚愕すべき個人というのは?】


「カシムの様なダンジョンの用意する罠やモンスターを意に介さないほどの強者、ですかね……今のところ騎士団長と嫡男辺りが強そうです」


【ソイツらの情報を集めるのか】


「そうです。戦闘スタイルからよく繰り出す攻撃や防御の癖、どういった事に心を揺らされ隙を晒すのかといった心理的な弱点……挙げればキリがないですが、こういった情報を持っているのと持っていないのとでは防衛成功率に大きな違いが出るでしょう」


 我がダンジョンは未だにスラムの2000人ぽっちを平らげた程度です。まだまだ全然空腹なのです。

 そんな十全に力を発揮できない状態で、未だに二本の足で立ち上がれない程度の成長でどれだけ攻め込まれても安全だとは考えられないです。

 ですので敵の懐に潜り込んで情報を集め、ダンジョン本体の脅威となり得る個人を排して、勝利を確認できたタイミングで一気に勝負に出るのです。


【理由は分かったけどよ、なんでそこまで急ぐんだ? 別に殺さなくても生きている人間からでもほんの少量ではあるがDPは得られるんだからよ】


 ニヤニヤと意地悪い声色で、私を揶揄って遊ぶように当たり前の質問をするアークに若干イラつきながらも当然の理屈を述べる――


「――お腹が空いて我慢ができませんでした」


【ぶはっ!】


 あー、煩いですね……本当にこの大悪魔様は非常に、それはもう心底煩いです。

 先ほども人の頭の中で笑い転げないでくださいと言った筈なのですがね。


「人を笑っていますが、それはアークも同じでしょう?」


【それはそうだがよ、そこまでハッキリ言われると笑っちまうってなもんだよ】


「……そうですか」


 もう、いいです……この悪魔は満足するまで笑わせておけば良いのです。


「――それはそうと私もダンジョン攻略しませんとね」

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