スラム街編.13.挑発
「さて、そろそろ打って出ます」
【お?】
ダンジョンの整備も終わり、1号さんを相手に剣の2号さんとマントの3号さんとの連携も確認できました。
農業担当スケルトン達も順調みたいですし、スライムさんもぷるぷるしてて可愛いです。
もうコソコソ一人ずつ人を攫って来て殺す、というのは非効率的な面が大きくなってきましたし、そもそも人自体もダンジョンの近辺では見掛けなくなってきました。
「ここ数日の偵察でスラムを牛耳っているのが複数の反社組織というのも分かりましたから、大きく出ます」
【反社組織だとなんかあんのか?】
「反社の最大のデメリットは社会や行政からの助けを期待できない事ですよ」
【なるほどな】
まぁ、汚職や賄賂なんかで買収されてしまっている公務員なんかも居るには居るでしょうが、精々ちょっとした犯罪を見逃して貰う為の警邏隊くらいが精々でしょう。
パッと見た限りではそこまで大きなシノギは無さそうですので、役人も買収していたとしてもそこまで人数は多くないと予想します。
そんな彼らが数人いくら頑張ったところで軍を動かす、なんて仰々しい事は起きないでしょう……他国に隙を見せる事にもなりますし。
【で、どうすんだ?】
「どうもこうもありませんよ」
このダンジョンには人が自主的に挑む理由となるお宝も資源もなければ、場所も『光石』が無ければ真っ暗な臭い下水道の奥と分かりづらく、絶対に普段なら人が寄り付かない様な場所にあるのです。
息を潜める、隠れ住むという点では便利ですが相手に認知して貰い、挑んで貰うという点では少しばかり面倒なんですよね。
だとしたら、やるべき事は一つですよね――
「――正面から喧嘩を売ります」
【はっ!】
思わず、といった様子で楽しそうに笑うアークに手を差し伸べられます。
「……なんです?」
【さっさと行こうぜ、マスター】
ニヒルに笑い、まるで貴婦人をエスコートするかの様な様子を見せるアークに首を傾げながらもその手を取る。
【やっぱり、お前で正解だったようだ】
「そのセリフは全てが成功してから言ってください」
【いいや、正解さ】
「……そうですか」
なんだかアークの機嫌がとても良いですね……まぁ、不機嫌である事よりかはマシではありますか。
「さて、ではお望み通り――」
――ダンジョンと、ギャングの抗争を始めましょう。
「――ごめんください」
「? なんだお前?」
場末の酒場、ではありませんが暴力的な人達のたまり場とも言うべき建物内へと躊躇なく足を踏み入れる。
見慣れぬ小娘相手に侮るでも油断するでもなく、警戒した顔でピリつく彼らの様子に『さすがに行方不明者の多さに気が付きましたか』と、自身の行動による影響を考察します。
まぁ、余計な事を考えるのは今は置いておいて必要な事をしましょう。
「この中で一番偉い人ってどなたか教えて貰えませんか?」
店内を見渡しながらそう告げるも誰も何も答えず、静かに周囲の者達と目配せし合っています……早く教えて欲しいのですけれど。
クルクルと指で毛先を弄びながら無言で待っていると、埒が明かないと思ったのか奥のカウンター席から一人の男性が立ち上がってコチラへと歩いて来ます。
「あのなぁ、嬢ちゃん……今とってもピリついててな」
「はぁ」
何を言うかと思えばそんなどうでもいい報告に思わず力のない声が出ていしまいます。
無駄な話をして時間を稼ぎながらも、私の身体の隅々まで視線を飛ばして武器の有無を確認するところが小賢しいですね。
まぁ、今の私は制服の上から外套を羽織っているだけの丸腰にしか見えませんけれど。
「気の抜けた返事だな――っ?!」
武術なんかも習っていないので立ち振る舞いも素人同然で、アーク曰くあるらしい魔法を使う為の魔力も練られていない丸腰の小娘に拍子抜けしたのか、それともそのまま制圧してしまおうと考えたのか……ともかく私に対して手を伸ばして来た男の、その腕を掴み引き寄せる。
逆の手で男の顎を打ちながら、右足を荷物を蹴り退かすように男性の膝裏へと引っ掛けて体勢を崩します。
そのまま顎を掴み、無理やり首を動かす事で私に背を向けさせ、男性の腕から離した右手の袖からカッターナイフを取り出して首に添える。
「――おかしな真似はしないで下さいね」
顎から滑らせるように左手を移動させ、男性の目元を覆い隠しながらギチギチと音を鳴らして刃を伸ばします。
あぁ、カッターナイフはこういう時にも便利ですね……服の袖に簡単に忍ばせる事が出来ますし、その他のナイフ等と違って嵩張らず、とてもバレにくいです。
「てめっ――」
「待て! やめろ! ……大人しくするんだ」
「……チッ」
一気に殺気立つ周囲を人質に取られた男性が声を掛ける事で抑え込みますが……何かあれば一斉に襲って来そうな勢いがありますね。
「おい、何が目的なんだ?」
「ちょっと喧嘩を売りに来ました」
「……はぁ?」
何言ってんだコイツとでも言いたげな声を出しながら、少しずつ指を動かしていた男性の首の皮を刃で切り付ける。
「――おかしな真似はしないで下さいと言ったはずです」
「……っ」
男性の耳元でそう囁いてあげれば、素直になったのか脱力するのが分かります。
「この方って、そこそこ偉いのでしょう? 返して欲しければ南東部にある下水道まで取り返しに来て下さいね?」
「……俺たちに喧嘩を売ってなんになる」
「さぁ? それを知りたかったらお仲間が助けに来るのを祈っておくと良いですよ……早く来ないと拷問でこの方から情報を抜き取ってしまうかも知れません」
適度に煽りつつ、私の背後に別の組織がある事を匂わせておきます……まぁ、匂わせるだけでそんなものはないんですけれど。
「お前、もしも俺が自分の命を鑑みずに部下を突撃させたらどうするつもりだ?」
「死体が増えるだけです」
「……本気で言ってんのか?」
「えぇ、私は本気ですよ」
と、ここで魂魄眼を発動させる……唐突に目の色が赤く輝く私を見て前方の方々も、私の指の隙間から覗き見ていた人質も息を飲むのが分かります。
今の私の魂魄眼では魂の外見を見る事しか出来ませんが、それでも魔眼を発動したという事は相手に伝わるでしょう。
相手からすればどんな魔眼で、どんな効果を持っているのかするも分からない状態です。
「……魔眼持ちか」
「どうしますか? 試しますか? 私は構いませんけれど」
「はっ! 化け物を相手に無策で挑めってか?」
周囲を見渡し、気を付けるべき脅威は居ないかと確認してみますが……奥の方に三人ほど強そうな魂の外見を持っている方が居ますね。
というより、人を化け物呼ばわりとは失礼な方ですねこの人は。
「……降参だ、連れて行け」
「ではそのように」
「お前らはボスにありのままを伝えろ」
どうやらきちんとハッタリは通用した様で、人質に取った方が諦めてくれました。
いやはや、上手くいって良かったです……ダンジョンの領域外では依然として私の戦力は大した事はないですからね。
「それでは、皆さまの訪問をお待ちしておりますね」
そのまま警戒しつつ、人質の男性を引き摺ってその場を後にします。
幾人かの尾行が着いて来ているようですが、まぁダンジョンの正確な位置が分からないと来れないでしょうし、今さら隠す必要もないので構いません。
アークとマントの3号が私の死角をカバーしてくれてますので、警戒も容易です。
「お前、どの組の者なんだ」
「1年4組です」
「……はぁ?」
【いや、通じねぇだろ……】
仕方ないじゃないですか、私の所属している組なんてそれだけなのですから……むしろ他にどう答えろと言うのですか。
「……いえ、絶賛内外抗争勃発中のダンジョン組傘下の
「……」
【……】
……………………何故二人して黙るのですか?
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