スラム街編.10.拡張その2
【で、どんな罠をどんな風に配置するんだ?】
「そうですね、基本的には自動ではなく任意発動の罠を採用します」
最終的には私が居なくても全てが自動で回るダンジョンにしたいのですが、それはそれとして今回は私とアークの戦場というのがコンセプトですからね。
私本体が動き回るのに、複数人の位置関係や戦闘に意識を割きつつ自動発動の罠を全く踏まないという保証は出来ません。
それに戦闘中に罠を利用するつもりですから、任意発動の方が何かと都合が良いのですよね。
「とりあえずせり出す壁や持ち上がる床、あとは噴水ですね」
【噴水?】
「えぇ、せっかく大量の下水があるのですから、それをぶっ掛けてやりましょう」
【うへ〜】
せり出す壁で下水に叩き落とし、持ち上がる床で分断と殺害、それと下水の底に設置する事で私だけが使える足場にもしましょう。
下水から出現した足場へと、私を追い掛けて来た方には噴水攻撃をお見舞いして叩き落とします。
「……下水の底に『毒石』とやらを設置しましょうか」
【いいねいいね、ダンジョンらしくなって来たじゃねぇか】
現状は私だけが把握できれば良いので明かりは必要ありませんが、暗すぎるからという理由で撤退されても詰まらないですので最初は『光石(小)』で薄暗い程度に用意しておいてあげましょう。
ある程度奥まったところに誘い込めたらその『光石』の効力をオフにし、視界の自由を奪いながら壁や床のトラップで背後の道を塞げば容易く撤退など出来ない筈です。
もちろん下水の上まで塞ぐ訳ではないので、泳いでいけば帰る事も侵入する事も可能ですのでダンジョンが機能不全に陥る事はありません……何なら足場も用意してますしね。
「後は玉座の間まで続く通路を上り坂にして、簡易的な壁と塹壕などで侵入スピードを遅らせつつ……流します」
【流す?】
「えぇ、通路の上に新しい階層と部屋を一つ創り、そこに『水石(小)』と落とし穴を設置します」
本当は最低でも『水石(大)』が複数個は欲しいのですが、さすがにDPの残りがキツイので断念します。
何とか普段は密閉されたこの部屋に時間を掛けて水を溜め込むしかないのでそう何度も使える手ではありませんが、もしもの時は落とし穴を発動する事で下の通路に溜めて圧縮された大量の水を勢いよく流し込んで下水へと侵入者達を押し流します。
それまでは適当に壁に隠れたスケルトン達に石を投げさせても良いかもしれませんね。
「遠距離攻撃の吹き矢トラップも欲しいのですが、矢を安定供給できる様になるまではお預けですね」
【何にせよDPが足らねぇからな】
「そのDPを稼ぐ為の改装ですので我慢するしかありません」
とりあえずは今回の改装で一度に多くの人間を殺す準備は整いましたので、ここからは少々派手に行きます。
「とりあえず改装はこのくらいにして、次は武器を何とかしたいですね……」
カッターナイフは折れてしまいましたし、昨日の男達が持っていた剣や短剣はありますが……どれも質が良い物とは思えません。
「これらを素材に何か新しい物を創造できませんかね」
【出来るには出来るが、何を創るんだ?】
「そうですね……」
スケルトンさんみたいな事を武器でも出来るみたいですが――と、おや?
「……剣の魔物って居るんですね」
【お? あぁ、死後の怨念や無念が直前まで装備していた物に宿って魔物化するアンデッドの類いだ】
「では剣以外にもあるのですか」
【種類は結構居るぞ】
スマホの画面をスクロールしながら確認していく限り……剣の他に盾、鎧、マント、ネックレス、果ては馬鎧やチャリオットまでありますね。
「……にしても、創れる魔物がアンデッドしか居ないのですが?」
スライム、ゴブリン、ワーム……といった最安値の魔物以外は全てアンデッドしか表示されておりませんね。
【マスターであるお前の気質に由来すんだよ】
「私の気質、ですか……では他のダンジョンではまた別ジャンルの魔物が多いという事ですかね」
【ま、そういうこったな】
なるほど、創れる魔物がアンデッドばかりなのは私のせいだと言う事ですね。
「とりあえず剣となるモノを創ってみますかね」
【ちなみに同じアンデッドだからな、スケルトンと武器を合成創造すればもっと安上がりになるぞ? スケルトンの魂を剣という器にぶち込む形だな】
「そういう事なら試してみましょう」
ちょうど雑用するしかない一体が余っていますしね……何やら1号が不満そうに見詰めて来ていますが、アナタには既に《剛力》や《投擲》などを与えているので剣にするには勿体ないんですよ。
渋々といった様子で引き下がる1号に苦笑しつつも、余り物のスケルトンと折れたカッターナイフを素材に合成創造を発動します。
剣なんて生まれてきてから一度も扱った事がないですし、カッターナイフの方が妙に手に馴染むんですよね。
それにダンジョンの《不完全知識》からの情報によると、この魔物は剣や剣の素材となる物を食べたり魔力とやらを供給する事で欠けた自身の身体を修復するようですので、カッターナイフとは相性が良いでしょう。
「ほう、こんな風になるのですか」
『――』
口もないので喋る事はしませんが、驚く事にカッターナイフが宙を浮いています……魔物というものは当然の事ながら日本には居ませんでしたので驚く事ばかりです。
「ダンジョン領域外で目が増えるという事は単純に利点ですし、余裕があれば武具系の魔物を創造しますか」
【そうだな、外は把握とか使えねぇしな】
ダンジョンの外で戦う機会もこれからは出てくるでしょうし、意識を割く事ができない死角などをカバーして貰えるなら強みになります。
それがある程度の自我を持っているのなら尚さら便利ですね。
「では外套を素材として、浮遊するマントも創造しておきますか」
1号は勿体ないですし、その他の二名も農業という役割があるので今回は合成創造は行いませんが、まぁ素材があるので安くはなります。
「このくらいで今回は良いでしょう……これ以上はもう本当にDPが足りません」
【かなり節約して、罠も必要最低限だけ準備したって感じでもうカツカツか】
「頑張って貯めたのですけれど、これ以上はもう無理です」
だって仕方ないでしょう? これ以上DPを消費してしまっては私が困ってしまいます。
「――これ以上はベッドが創れなくなってしまいます」
【……】
そんな事になってしまっては由々しき事態です。
「私はアークやアンデッド達と違って休息が必要なので、これは必要経費です」
【とか言いながらちゃっかり高そうなやつを選んでいる様に見えるが?】
「現代日本人を舐めて貰っては困りますね、あの国の寝具は安物でもちゃんとしたお布団なんですよ」
断じて床に布を敷いただけの物や、ただの藁の塊をベッドとは認めません。
「はい創造」
【あっ! やりやがった! 無駄遣いできないとか散々言っておいてコイツ躊躇がねぇ!】
「五月蝿いですよ」
仕方ないのです。これは必要経費なのです。
「そんな事よりもアーク――」
さて、改装や装備の強化などは全て終えたので残りの確認作業に移行しましょうか。
「――魂魄眼について教えて下さい」
何やら知っている風でしたよね。
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