第23話エピソード23
◇◇◇◇◇
「Shadowがいつまで踏ん張れるのかはもう時間の問題だな」
「ああ、そうだな。動けるメンバーもそんなに残ってねえしな」
「……ってことは、そろそろCouleurが動き出す頃合いかもしれねえな」
マサトの顔からスッと笑みが消える。
「そうだな。でも、俺的にはもう少し早く動き出すかと思ってたんだけどな」
「あ、実は俺もそれ思ってた」
四季のその意見にマサトも同意を示した。
「やっぱり?」
「下手したら、Shadowに攻撃を開始してすぐにCouleurも動くかと思ってたんだけど、未だに動いてる気配はないみてぇだし、てか、玄朱が玄武と連絡を取ってる形跡がないらしい」
「はっ?」
「ほら、樹がShadowのメンバーのスマホに盗聴できるシステムを内偵のヤツら命じて仕込ませたじゃん」
「うん」
「あれで確認しても玄朱と玄武がやり取りした形跡が全くないらしいんだ」
「そうなのか?」
「あぁ、俺はなんかそれが引っ掛かるんだよな」
「それってもしかしたら、玄朱は別にもう一台スマホを持っていて、それで玄武と連絡を取り合ってるとか?」
「その可能性は否定できねえけど、内偵の奴らからはそんな報告はなかったらしい」
「……そうか」
四季は神妙な顔でなにかを考えているようだった。
そんな四季にマサトはもうひとつ抱えている違和感を打ち明ける。
「それに、Shadowのメンバーが全く増えないのはおかしいと思わないか?」
「なにかおかしいんだ? てか、B-BRANDがShadowのメンバー狩りをしてるんだから減ることはあっても、増えることはねぇだろ?」
「Shadowが単体のチームなら確かにそうだな」
「どういうことだ?」
四季は不思議そうに首を傾げる。
「Shadowの母体はCouleurだ。Shadowのメンバーが何者かに連続的に襲われて、それに応戦するための人員が不足し始めたら普通はCouleurから人員を送り込まねえか?」
「……そう言われてみれば、確かにそうだな」
「だろ?」
「あぁ。そうだよな。今まで気付かなかったけど、確かにそれは違和感があるな」
「だよな。でもまぁ、そのうち詳しい状況が分かるだろ」
「どうやって?」
「蓮が数日前からCouleurのことを探りはじめてる」
「マジか⁉」
「あぁ、この違和感を覚えてるのは俺だけじゃない。てか、俺よりもっと早い段階で蓮は違和感を覚えてたみたいだしな」
「……相変わらず仕事か早いな」
四季は驚きを通り越し、感心したように呟く。
「そうだな」
マサトが頷いた時、四季のスマホが着信を知らせた。
スマホの画面を確認した四季の目が一瞬嬉しそうに輝いたのを見逃さなかったマサトは尋ねた。
「星莉か?」
四季はスマホの画面に視線を向けたまま頷いた。
「あぁ、なんか今週末から数日間、お袋さんの実家に行くらしい」
「そうなのか?」
「あぁ、なんかいとこの姉ちゃんの結婚が決まったらしくて親戚が集まるんだってよ」
「星莉のお袋さんの実家ってどこだ?」
「北海道」
「へえ~、めちゃくちゃ遠いじゃん」
「そうなんだよ」
「どのくらい行くんだ?」
「予定では1週間ぐらいらしいけど、1週間後っていったらもう夏休みに入るじゃん」
「そういえばそんな時期だったな」
「学校に行ってねぇからもうすぐ夏休みっていう実感が全然ないよな……」
「……まさしくそれだな」
マサトと四季は遠い目でしみじみと呟いた。
shadow潰しが始まってからマサトは全く学校に入っていない。
四季に至っては、shadowを潰すことを決意してからその準備に駆け回っていたので、マサト以上に欠席が続いている。
別に学校に行けないほど忙しい訳じゃない。
B-BRANDと同盟を組む前は駆けずり回っているという言葉がピッタリだったが、B-BRANDと手を組んでからは仕事量的にも時間的にも余裕があるから、学校に行こうと思えば行ける状態だった。
でもいざ学校に行ったところで落ち着いて授業を受けることは難しい。
それが分かっているのでマサトと四季は学校に行っていない。
でも欠席が増えると出席日数が足りなくなり、卒業することができなくなる可能性が出てくる。
もちろん2人もそれは分かっている。
分かっているが……未来のことよりも今のことをだけで精一杯だった。
だからこそ
「夏休みに入ったら別に焦って帰って来る必要もねぇから伸びる可能性もあるって言ってた」
まるで現実から目を逸らすように四季が言い
「でもなんで夏休み前にわざわざ学校を休んでまで行くんだ?」
マサトも話題を変えるように尋ねた。
「うん?」
「夏休みに入ってからでもよくね?」
「なんか親父さんの仕事がそこしか休めないらしくて。ほら、一応親戚の集まりだから家族揃って出席しないといけないらしくて。だから3人で北海道に行って2~3日で親父さんは戻ってくるらしいんだけど、星莉とお袋さんはしばらくあっちで過ごすことになったらしい」
「そっか。寂しいだろ?」
「まあ、寂しいのは寂しいけど……」
四季は持っているスマホに視線を落とす。
「なんだ?」
「こういう状況だから星莉はこの街を離れてくれていた方が安心できる」
「……それもそうだな。星莉がこっちに戻ってくるまでに一段落着けばいいな」
マサトの言葉に、「そうだな」スマホから視線を上げた四季が笑みを浮かべる。
その笑顔はやはり少し寂しそうだった。
2人がそんなやり取りをしている時だった。
ドアが開き樹が駆け込んできた。
「おう、樹。お疲れ」
すっかり仲良くなった四季が声を掛ける。
「うん、お疲れ」
そう答えた樹はよほど急いできたのか息が切れている。
「珍しいな、お前が息を切らせてるなんて」
「うん、ちょっと……てか、蓮はいる?」
「いや、まだここには来てねぇ。多分、もうそろそろ来ると思うけど」
「そうか」
樹と四季のやり取りを見ていたマサトが
「樹、どうしたんだ?」
異変を察して尋ねる。
いつも冷静でポーカーフェイスを崩さない樹の表情にわずかに焦りのようなもの含まれている。
マサトはそれを見逃さなかった。
樹とマサトのやり取りを見ていた四季があとで飲もうと買ってきていたペットボトルに手を伸ばす。
「樹、とりあえずこれを飲め」
四季が樹にペットボトルを差し出す。
受け取った樹は、よほど喉が渇いていたのかそれを喉に流し込む。
樹が一息吐いたのを確認してからマサトは尋ねた。
「樹、なにがあった?」
「……玄武からコンタクトがあった」
「玄武?」
四季が怪訝そうに眉を顰める。
「鳴宮玄武。Couleurのトップだ」
マサトが低い声を発し
「あぁ、そうだ。Couleurのトップだ」
樹は小さく頷いてみせた。
「コンタクトってなんか言ってきたのか?」
「あぁ、俺のパソコンにメールが来た」
「内容は?」
「B-BRANDのトップ、神宮蓮と直接会って話したいことがあるって」
「話したいこと……それってとうとう宣戦布告してきたってことか?」
四季の声に緊張感が走った。
「蓮に連絡を入れるぞ」
マサトがスマホを手に立ち上がる。
「あぁ、頼む」
樹はもう一度ペットボトルを口に運んだ。
◇◇◇◇◇
連絡を入れるとすぐに蓮は溜まり場にやってきた。
樹から連絡を受けた他のメンバーも続々と集まる。
そして臨時の幹部会が開かれた。
鳴宮玄武から送られてきたメールには確かに蓮との面談を希望するといった内容のことが書かれていた。
しかもそのメールには玄武の携帯番号が記載されていた。
終始、丁寧な文言が並ぶ文面。
差出人が鳴宮玄武だけにその丁寧さがやけに不気味に感じられた。
「これってやっぱり直接会って宣戦布告するってことだよな?」
ケンが疑問を口にすると
「あぁ、多分そうだと思う」
ソウタが頷く。
「蓮、返信はどうする?」
樹が蓮に視線を向ける。
「携帯の番号があるから俺が直接連絡をする」
「……ってことは、もちろん面談をするってことだよな?」
琥珀が尋ねる。
「もちろん。玄武が直接会って宣戦布告をするとしても、それは想定内のことだ。てか、むしろタイミング的にはこちらの予想より随分遅かったけどな」
蓮は不敵な笑みを浮かべる。
突然の鳴宮玄武からのコンタクト。
B-BRANDのメンバーといずれこうなることを予測し覚悟もしていた。
ただ、あまりにも唐突だったので動揺が隠せなかった。
だけど蓮だけはいつもと変わらず冷静だった。
その冷静で余裕さえ感じさせられる蓮の態度に他のメンバーも落ち着きを取り戻すことができた。
「……だよな。Couleurが出張ってくることは予想していたことだもんな」
「あぁ、面談は喜んで受けてやる。日時はあっちの都合に合わせる。それでいいな?」
蓮の言葉にその場にいた全員が力強く頷いた。
全員の意見が一致したところで、すぐに蓮は玄武に連絡を入れた。
玄武はこちらからの連絡を待っていたのかすぐに電話を取った。
B-BRANDのトップ蓮とCouleurのトップ玄武の初接触は淡々と行われ、その結果面談は週末の15時に決まった。
面談の場所はB-BRANDの溜まり場。
玄武が出向いてくるという。
その話をした時、玄武は「ウチのNo.2と俺の2人で行く」と告げたがこちらの人数は指定しなかった。
◇◇◇◇◇
面談当日。
間もなく鳴宮玄武が訪れる予定である。
今日溜まり場には、創設メンバーの5人とマサトと四季の7人だけが集まっていた。
マサトはカウンターに座ってスマホを弄っている四季の隣に腰を降ろした。
「四季」
「うん?」
「星莉が北海道に行くのって今日だろ?」
「あぁ」
「出発は何時だ?」
「16時の飛行機に乗るらしい」
「16時か……見送りはどうするんだ?」
「今回は止めとく。玄武も来ることだしな」
「いいのか?」
「あぁ、親父さんとお袋さんも一緒だし。長くても2週間ぐらいで帰ってくるらしいから」
「そうか」
「なぁ、マサト」
「ん?」
「Couleurとの抗争って2週間で終わらせれると思うか?」
「どうだろうな」
「……さすがに2週間じゃ無理だよな」
「まぁ、無理かどうかはやってみないと分かんねぇな。まっ、目標ってことで頑張ってみようぜ」
「目標?」
「見送りができなかったんだから、出迎えはしてぇだろ?」
「……そうだな。さすがに見送りも出迎えもしなかったら星莉が拗ねるな」
「星莉に拗ねられるくらいならさっさとCouleurを潰す方が精神的に楽かもしれねぇぞ」
「確かにそうだな」
「頑張ろうぜ」
マサトが肩を叩くと
「おう」
四季はなにかを吹っ切ったような表情で頷いた。
その時だった。
「マサト、四季。玄武が来たぞ」
樹の声が響いた。
Precious Memories エピソード23【完結】
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