第22話エピソード22
◇◇◇◇◇
B-BRANDと四季が同盟を組んで約1週間が経った頃。
何度も打ち合わせをくり返し綿密な計画を立て、全ての準備が整い、いよいよShadowへの攻撃が開始された。
まずShadowへの攻撃開始の合図として、駅前にいつも屯【たむろ】っているShadowのメンバーが襲撃された。
shadowのメンバーを襲ったのは、全身黒ずくめの3人組だった。
黒のパーカーに、黒のパンツ、顔は黒のバンダナで隠されており、フードを被っていたので駅前という人の目が多い場所だったにもかかわらず、目撃者は3人の男達の特徴を『黒尽くめの3人組』としか言えない状況だった。
この襲撃したのは、四季とソウタと琥珀の3人だった。
四季監修の変装をしていた3人。
入念な事前の打ち合わせ時に、ソウタと琥珀は声を発することも禁止されていた。
もちろん身バレを防ぐためである。
Shadowへの最初の攻撃は子定通りに完了し、それを合図にB-BRANDと四季が率いる“四季軍団”の同盟チームは次々と作戦を展開し始めた。
まずメインとなるのは、Shadowのメンバー狩り。
Shadowに在籍しているメンバーの情報は事前調べあげられているので、的確にShadowのメンバーを狙うことができた。
Shadow狩りと平行して行われたのは、Shadowが学生相手に金を稼ぐことを徹底的に阻止することだった。
Shadowに内偵に入っていたB-BRANDのメンバーはShadowへの攻撃開始の直前に蓮の命令で全員引さ上げている。
引き上げる前に、Shadow内のPCやメンバーのスマホの端末に樹お手製の仕掛けを仕込んでいた。
これでShadowが保持しているデータは、樹の遠隔操作によっていつでもデータを確認し、消去することが可能になった。
これは今後新たにデータが増えた時にも使える。
Shadowの攻撃開始時に現在あるデータは樹の手で全て消去された。
四季の立ち合いの元で……。
また樹はそれだけではなく、shadowのメンバーのスマホに会話の内容を盗聴できるシステムも仕込むように手配していた。
これによって、Shadowがターゲットにしている人間の情報や決行日、決行場所が手に取るように分かるようになった。
Shadowの荒稼ぎの阻止はケンの指示によって行われている。稼ぎはShadowの資金源となっていあるため、これが邪魔されるとShadowはかなり苦しい状況に陥ることは容易に想像
できる。
それに加えて、ケンは過去の被害者達にもコンタクトを取り、データは全て消去したのでこれ以上金を払う必要がないことを伝えた。
もちろんこれもB-BRANDの名は徹底的に伏せて実行された。
Shadowは確実に追い込まれつつあった。
Shadow立場が苦しくなるということはB-BRANDの作戦が順調に進んでいるということの証明でもあった。
B-BRANDの創設メンバー達は、まるでゲームでもするかのようにその状況を楽しんでいた。
◇◇◇◇◇
マサトは溜まり場で樹が小まめにまとめている“対Shadow戦”の情報に目を通していた。
状況的には明らかにB-BRANDが優勢だった。
いくつか気になる点はあるが、今すぐどうこうなる問題でもない。
マサトはそう考え、タブレットの電源を切った。
Shadow潰しが始まってからマサトは溜まり場に詰めている時間が長くなった。
なにかあった時、いつでも参戦できるようにと、考えてのことだったけど、今のところマサトが駆けつけなければいけないような事態は一度も起きてはいない。
大暴れしたい人間はたくさんいるので、マサトにまで出番がまわって来ないのだ。
マサトも密かに大暴れする気満々だったので残念といえば残念だけど、マサトの出番がないということはB-BRANDにとって有利な状況なのだからそこは喜ぶべきところなのかもしれない。
それに今後Couleurが出張ってくれば、マサトにだって出番はまわってくるはずだ。
それまでマサトは体力を温存しておくことにしている。
時間を確認しようとスマホに手を伸ばすと、ちょうど電話が掛かってきた。
液晶を見たマサトは表情をわずかに緩めるとスマホを耳にあてる。
ヒナは起きたばかりなのか、少しだけ声が掠れている。
『もしもし、マサト?』
「あぁ、起きたのか?」
『うん。今、起きた』
「そっか。おはよう」
『おはよう。どう? そっちは順調?』
「ああ、かなり」
『ケガとかしてない?』
「全くしてない」
『ごはんはちゃんと食べてる?』
「食べてる」
『睡眠時間は?』
「足りてる」
マサトが答えると
『そっか。良かった』
安心したようなヒナの声が聞こえてきた。
「ごめんな、ヒナ。バイトの送迎、俺が行ってやれなくて」
『ううん、気にしないで。それよりなんか、毎日送り迎えをしてもらうのは申し訳ない気がするんだけど……』
Shadow潰しに参戦することが決まってすぐマサトはヒナに事情を説明し、護衛をつけようと思っていることを包み隠さず話した。
やろうと思えばヒナに内緒で護衛を付けることもできた。
でも、これからの状況を考えれば、ヒナと一緒に過ごす時間はこれまでに比べれば確実に減ってしまう。
それにこれまでマサトが欠かさなかったヒナのバイト帰りの送迎もできない日か増える。
だから、なにも話さなければヒナは確実に戸惑うだろうと考えたマサトはヒナに全てを話したのだった。
元々、四季の件は話していたので、B-BRANDと四季が同盟を組んだことからshadowを潰し、それをきっかけにCouleurが出張って来たら迎え撃つつもりだということ。
それに伴い、ヒナが狙われる可能性があること。
ヒナに迫る危機を回避するために護衛を付けようと考えていること。
不自由な想いをさせて申し訳ないけど、理解してほしいということをマサトはヒナに伝えた。
マサトの話を聞いたヒナは一瞬だけ不安そうな表情をみせたものの
「マサトが後悔しないように」
と納得してくれた。
そしてマサトはヒナにひとつだけ約束をさせられた。
「もし、なにかあったら絶対に私にも教えてね」と……。
きっとヒナはヒナなりに不安や不満があるはずなのにそれを一切口にしないヒナにマサト感謝すると同時に申し訳なく感じた。
しかもこうして連絡を取り合う時は、いつもマサトのことを心配してくれるのだから本当にできた彼女だ。
マサトは今回改めて、ヒナは自分にはもったいない程のイイ女だと何度も痛感した。
「ヒナ、不自由な思いをさせて悪いな」
『ううん、全然不自由とかじゃないんだよ。ただ申し訳なくはあるんだけど……』
「それはヒナが気にすることじゃない。ヒナに護衛をつける事になったのはこっちの事情なんだから」
『うん』
「あと少しでカタが付く。それまで悪ぃけど我慢してくれるか?」
『もちろん。……っていうか私は不自由さなんて感じてないよ。むしろ毎日バイト先まで送迎してもらえるからものすごく楽させてもらって逆に助かってるし。だからあまり気にしないで』
「あぁ、悪ぃな」
『マサト、それ止めて』
「それ?」
『ここ最近、マサトは謝ってばかりだよ』
「そうか?」
『うん、そうだよ。今度から謝ったら罰金ね』
「そりゃ、謝れねぇな」
『そうだよ。マサトは謝る必要なんてないんだよ。あっ、そうだ』
ヒナはなにかを思い出したように声を上げた。
「どうした?」
『マサトから護衛の人達に言って欲しいことかあるんだけど』
「言って欲しいこと? なんかあったのか?」
『そうなの。私、ものすごく困ってて……』
「困ってる? 護衛のヤツがなんかしたのか?」
マサトの声音が若干低くなり、口調がわずかに鋭くなった。
『ジュースの差し入れぐらい受け取って欲しいんだよね』
「……はっ? ジュースの差し入れ?」
『そう。ほら送迎してくれる人とかお店や家のまわりで見張っていてくれている人にジュ-スとかお菓子とかをお礼のつもりで渡そうとしてるんだけど……』
「あぁ」
『なんでか頑なに受け取ってくれないんだよね』
「あ~、それは確かに受け取らねぇな」
『そうなの。だからマサトから言って欲しいんだ』
「でもそいつらは厚意でやってるわけじゃねぇから」
『それは、チームの事情じゃん。私は送迎してもらったり、危険がないように見守って貰ってすごく助かってる。だからお礼をしたいの』
「……」
『お礼を受け取ってもらえないなら、送迎はお断りしてタクシーで……』
「分かった。俺から言っておくから」
ヒナの言葉を遮るように、マサトは被せ気味でそう伝えた。
すると――
『うん。お願します』
ヒナはまるでマサトがそう言うことを分かっていたかのように満足そうだった。
マサトは
……ヒナには敵わねぇな。
改めてそう感じていると
「お~い、マサト~」
四季がやってきた。
「じゃあ、私はバイトの準備があるからもう切るね」
四季の声が聞こえたのかヒナは会話を切り上げようとする。
「ああ」
マサトはもう少しとその声を聞いていたいと思いつつもそう言うしかなかった。
『マサト、気を付けてね。無理だけはしちゃダメだよ』
「あぁ、分かってる。ちゃんと肝に銘じておく」
『うん。そうしてください』
名残惜しく想いながらもヒナとの通話を終えると
「悪い。電話中だって気付かなくて……俺、邪魔したよな?」
四季が申し訳なさそうに謝ってきた。
「大丈夫だから気にすんな」
マサトは笑いながら答える。
すると四季はようやく安心したようでいつもと同じ調子に戻った。
「ヒナちゃんか?」
「ああ」
「全然、会えてねぇんだろ? ヒナちゃんは怒ってねぇか?」
四季は聞きながら缶コーヒーをマサトに差し出した。
マサトはそれを受け取りながら答える。
「ありがとう。ヒナは怒ってねえよ。てか、事情を全部話したらちゃんと理解してくれたし。俺の心配はしてくれるけど、不満は言わない」
「そっか、さすがヒナちゃんだな。てか、お前は護衛をつけるってことも事前にヒナちゃんに話したらしいな」
「あぁ。前にヒナに言われたことがあるんだ」
「なんて?」
「俺がなにも言わない方が不安になるって。だから俺は全部話すことにしてる」
「……そっか」
「それより星莉はどうしてるんだ?」
「うん? 蓮がB-BRANDの精鋭護衛部隊を護衛に着けてくれてるからなんも問題はねえよ」
「そうか」
マサトは安心した。
「てか、Shadowは今、それどころじゃねえだろうし」
Shadowの置かれている状況を把握している四季が意味ありげに口端を引き上げる。
「確かにそうだな。自分達が四方八方から狙われて攻撃されてるんだから、誰かを狙ってる余裕なんてねぇな」
マサトも四季と同じような笑みをこぼした。
Precious Memories エピソード22 【完結】
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