第21話エピソード21

◇◇◇◇◇


「期間限定だけど、よろしくな」

蓮が手を差し出すと

「こっちこそ」

その手を四季は強く握り返した。

その日、B-BRANDのトップ蓮と四季は共に目的を達成するために、期間限定ではあるけれど同盟を結んだ。


その目的とは、もちろんShadowを潰すこと。

できる限りshadowからメンバーを削ぎ落し、最終的にはトップの鳴宮玄朱を打つ。

通常ならばトップを狩ったあと、残されたメンバーは、B-BRANDの傘下に加えるのだが、今回はそれすらもしないことが決定した。

学生相手に卑劣な手を使って金を稼いでいた人間に与える情はないというのがB-BRAND幹部の総意だった。


Shadowのトップである鳴宮玄朱をこの街から事実上追攻することで二度と再結成できなくさせる。


それからCouleurが出張ってきた時には、全力で交戦し、こちらも鳴宮玄武をCouleurのトップがら引きずり降ろすということで意見はまとまった。


ただCouleurに関しては、先に相手が手を出すまでは、B-BRANDは、仕掛けてはいけないという条件が付け加えられた。

「てかCouleurが出張ってくるまでは、B-BRANDは動かない方がいいって」

四季は最後の最後までそれだけは譲ろうとはしなかった。


しかし――

「なんでだよ、四季。そんなツレないこというなよ」

「おい、溝下。くっつきすぎだ。少し離れろって……」


「なあなあ、四季くんのこと四季ポンって呼んでもいい?」「松浦、“ポン”は止めろ。四季って呼び捨てにしてもいいから」

「了解。じゃあ、四季も琥珀って呼んでいいよ」


「四季、これ新たに分かったShadowの情報だから目を通しといて」

「おいおい。お前も早速呼び捨てかよ、如月。てかこの情報量、半端ねぇな」


「ねえ、四季ってダンス得意なんだろ? 今度ダンスバトルやろうぜ」

「分かった。今度やるから今は、話し合いに集中しような西園寺」


「じゃあ、B-BRANDも四季と一緒にShadow潰しから動くってことでいいな」

「待て、神宮。俺はそんなこと一言も言ってねえぞ。俺が言ったのはCouleurがてくるまでB-BRANDは…」


「よし。分かった。こういう時は多数決でどっちにするか決めようぜ」

「いいね、ケン。じゃあ、今すぐにでも暴れたい人は手を上げて」

琥珀の合図で

「は~いっ!!」

創設メンバー全員が手を上げた。

ケンに至っては両方の手を上げている。


「じゃあ、この時点で5人が手を挙げたから、B-BRANDはShadow漬しから動くってことで決定!!」

盛り上がる創設メンバー達。


彼らを愕然と見つめていた四季が

「……おい、マサト」

「……ん?」

「こいつら本当はただ暴れたいだけじゃねぇのか?」

四季は

ウンザリしたようにマサトを横目で見てくる。

「……まあ、血の気の多いお年頃だからな」

マサトは苦笑気味に答える。

「……俺、本当にこいつらと上手くやっていけるのか、ものすごく不安になってきた」

「そこは心配しなくていいと思うぞ」

「なんで断言できるんだよ?」

怪訝そうに尋ねられたマサトは視線を5人の方に向ける。

5人は楽しそうに作戦会議を繰り広げている。

「だって、四季は俺よりも上手くこいつらの相手をしてるし」

「……それって素直に喜んでいいのか?」

疑念を念んだ視線を向けてくる四季にマサトはチラリと視線を向ける。

だけどその視線はすぐに5人へと戻された。

「もちろん。こいつらを手懐けられる奴はあんまりいねぇんだぞ」

「はっ? こんなに人懐っこいのに?」

四季は納得できない様子で首を傾げた。


「お前は知らねぇだろうけど、こいつらはかなり手を焼くガキ共なんだぞ」

「……いや、それは俺にも分かる。てか、さっきの俺とこいつらのやり取りをお前も見てただろ? 十分に手を焼いているように見えなかったか?」

「俺には十分手懐けているようにしか見えなかったけど?」「……お前、ちょっと眼科に行ってきたちかがいいんじゃないか?」

本気で心配してくる四季に


「別に目は悪くねぇよ」

マサトは笑いながら答える。


「じゃあ、相当疲れが溜まってるとか?」

「そこも大丈夫だ、心配は要らない。てか、お前が言ったんだろ」

「なにを?」

「あいつらが人懐っこいって」

確かにそれはさっき四季が言った言葉だった。

「それがなんだ?」

「あいつらを人壊っこいって思えるなら、それはお前があいつらを手なずけてる証拠だ」

マサトは自信満々でそう言い切った。

「どういうことだ?」

「あいつらは、誰にでもフレンドリーに接するわけじゃない」

「そんなことねぇだろ。普通にめちゃくちゃフレンドリ-じゃん」

マサトの言葉を四季は笑いながら否定したが……

「それはお前が上手くあいつらの相手をして、手懐けることができたからなんだって。てか、あの5人がB-BRANDを立ち


上げた理由を知ってるか?」

マサトに聞かれて

「さあ? そういえばそれは聞いたことかねえな。てか、お前は知ってんのか?」

四季は不思議そうに聞いてくる。

「あぁ、あいつらがチームを立ち上げたのは、誰かの下になんか着きたくなかったからだ」

「はっ? そんな理由で?」

四季は意外そうに目を見開いた。

「やっぱりそう思うよな? 俺も最初に聞いた時はお前と同じことを思ったよ。でも、最近なんとなく納得できるようになってきたんだ」

「どの辺に納得したんだ?」

「ほら、あいつらってすげえ頭もいいし、行動力もある。1人1人の能力も高いんだから5人揃うと最強なんだ。実際のところ、あいつらがチームを立ち上げる前は、相当な数のスカウトを受けたらしい」

「そりゃあそうだ。あいつらがいればチームをどこまででもでかくできるだろうし」

「そうだよな。結構な好条件を提示してきたチームもあったらしい。でもあいつらはそのスカウトを全部蹴って、B-BRANDを立ち上げた。要するにあいつらを手懐けられる奴がいなかったってことだ」

「…なるほど。そういうことか」

四季は納得したように呟いた。


「お前から見れば人懐っこいガキでも、人によっては扱いにくくて面倒なガキだって感じることもある。能力が高い分、余計にな」

「確かに上手く扱うことができなければ、面倒に感じるかもしれねぇな。一歩間違えば、下剋上されてもおかしくねぇしな」

「あぁ」

「少なくともこの街にあいつらを手懐けられるヤツは限られている」

「じゃあ、俺ってすげぇじゃん」

自画自賛する四季に

「あぁ、さっきからそう言ってんだろ」

マサトは笑ながら頷いてみせる。


正直マサトは 、四季と創設メンバーの5人がここまで打ち解けることができるとは思っていなかった。

おそらく蓮達は事前に四季がどういう人間なのかを探り調べていたに違いない。

期間限定とはいえ、チームの名を掲げて手を組むのだからそれは当然のことだった。

万が一、四季が手を組むに相応しくない相手だったらB-BRANDの名に傷を付けてしまうことになってしまう。

徹底的に調べあげて四季という男が信用できると判断したから蓮は同盟を申し出たに違いない。


万が一、この時点で蓮が四季を信用できないと判断していれば、同盟の話すら出てくることはなかったはずだ。

そこはマサトも分かっていたので、そこまで心配していたわ じゃない。

だけど完全に安心することもできなかった。


人には相性というものがある。

いくら信用できる人間同士でも相性が合わないということもある。

もしかしたら創設メンバーと四季の相性が合わないという 可能性だって否定できなかったから。

でも、それはマサトの杞憂に過ぎなかった。

ほぼ初対面にもかかわらずここまで打ち解けることができたのは、マサトにとっても嬉しい誤算だった。


「なぁ、四季」

「うん?」

「あいつらのことかわいがってやってくれな」

マサトが呟くように言った言葉に

「はっ?」

四季は困惑したようにその視線をマサトに戻した。

「あいつらは年上のヤツからかわいがってもらった経験があんまりないんだよ。てか、利用されそうになったり、疎まれた経験の方がはるかに多い」

「……そっか」

マサトの言いたいことを察したらしい四季は小さな声でただそう呟いただけただった。

「かわいがる」とも「かわいがらない」とも四季は言わなかった。

だけどマサトは確信していた。

……きっと四季はあいつらをかわいがってくれるだろう。と……。


「なあ、四季。めっちゃいいことを思い付いたんだけど」

「めっちゃいいこと? なんだよ」

「さっきの話だけど、要は俺達B-BRANDが動いてるってShadowやCouleurにバレなければいいんだから、Shadow漬しの時は俺達だってバレねえように変装しようって話になったんだけど。いい案だと思わね?」

「……お前らそこまでして暴れたいのか?」

「えっ? 俺達は普通に大暴れしたいんだけど」

それがなに?、と言わんばかりに正直に本音をさらしたケンの言葉に

「……」

四季は天を仰いで絶句していた。

そんな四季を

「四季?」

5人は不思議そうな目で見ていた。


やがて四季は

「よし、分かった。じゃあ俺がお前達の変装を手伝ってやる」なにを思ったのか、急に開き直った四季に

「マジで!?」

創設メンバーの5人は、テンションが一層上がり

「おい、おい。四季!?」

マサトは焦った。

「マサト、あとのことはお前に任せたぞ」

「はぁ⁉」


「ねえ、四季。どんな変装がいいと思う?」

「そうだな〜」


すっかり5人の中にとけこんでいる四季を眺めながら、

……これって俺が大変になるパターンじゃねぇか?

マサトの胸には不安が過った。

でも、目の前の光景は決して嫌なものじゃなかった。


四季と蓮とケンとソウタと樹と琥珀。

この6人がこんな風に楽しそうに盛り上がっているところなんて一週間前までは想像もできなかったのだから。


Precious Memories エピソード21 【完結】

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