第20話エピソード20

◆◆◆◆◆


その日。

マサトは四季と会っていた。

蓮たちから任せられた四季の説得という面倒くさい大役。

面倒なことはさっさと終わらせてしまおうとマサトは、学校に行く前に四季の家を訪れていた。

何度電話をしても出なかったので、直接家に来てみたら案の定四季は爆睡していた。

shadowを潰すために昼夜問わず、駆けずり回っている四季は相当お疲れらしい。

でも、それを言うならマサトだってここ数日は多忙な日々を過ごしている。

今日だってほぼ寝ていない。

だからマサトは遠慮なく、そして容赦なく四季を叩き起こした。

目を離すとすぐに夢の世界に旅立とうとする四季に事の成り行きを説明するのは一苦労だった。

度々、話は中断するので本題に入るまでがとてつもなく長く感じた。

でもなんとか全てを話し終えることができた。


「マサト」

「うん?」

「……悪い。ちょっと意味が分からねえんだけど……」

全てを話し終え、四季が最初に発したのがこれだった。

『お前ちゃんと話を聞いとけよ』とか『てめぇ、俺がどんだけ苦労して話したと思ってんだ?』とか言いたいことはあった。

でもマサトはそれらの言葉をグッと飲み込み

「どこが分かんねえ?」

平常心を心がけて聞いた。

「……どこって……」

「ん?」

「全体的に分かんねえよ」

「いや、四季。いいか? これは全然むずかしい話なんかじゃねえ。むしろ、ものすごく単純で簡単な話だ」

「……単純で簡単?」

「そうだ。要は、お前らと一緒にB-BRANDEもShadow漬しに参加するって言ってるだけだ」

「……」

「なっ? なんもむずかしくなんかねえだろ?」

「…… なるほど、そういうことか。俺達と B-BRAND が手を組んでShadowを潰すのか。それは心強いな」

「そうだろ? ……ってことで、今日の夕方に作戦会議をするから、お前も参加ってことでいいよな?」

「……いいわけねえだろ。てか、なんでそういう話になってるんだよ!?」

「なんでって……流れ的に?」

「はあ!? どんな流れだよ⁉」

「だからそれはさっき説明しただろ」

「その説明じゃ分かんねぇって言ってんだよ」

「……分かった。じゃあ、そこはあんまり気にするな」

「……なんでだよ?」

「説明するのが面倒くさい」

「はぁ⁉」

「……てか、俺になにを言っても、もうこれはどうにもならねえぞ」

「……どういうことだ?」

「B-BRANDの創設メンバーは、Shadowを潰す気満々なんだ。今更、お前が拒否ったところであいつらは止めらんねえよ」

「だったら、なんでShadowを潰す気満々になる前に、あの小僧どもを止めなかったんだよ?」

「……悪い。うっかりしてたわ」

「うっかりしてんじゃねえよ」

「……だから悪いって言ってんだろ?」

「マサト、B-BRANDとCouleurがぶつかったら、どんだけ大事になるかお前にも分かるだろ?」

四季は珍しく真剣な表情でもっともなことを口にした。


「そうだな、きっとどっちのチームも被害は少なくはねえだろうな。しかも他のチームも巻き添えを食らう可能性は高い」

「あぁ、そうだよ。だから絶対にこの2つのチームはぶつかっちゃいけねぇんだよ」

「……まあ、お前の言い分も分からなくはない。でも、遅かれ早かれ B-BRANDとCouleurはぶつかるんだよ。お前がいくらこの2つのチームの衝突を回避しようと足掻いてもな」

「……どういう意味だ?」

「数日前、聖鈴に被害者が出たらしい」

「……それってShadowの被害者か?」

「そうだ。しかも高等部じゃなくて中等部の生徒だってよ」

「あいつら……中坊にまで手を出したのか?」

「あぁ。さすがにこれは見すごせねぇだろ。B-BRANDのメンバーは聖鈴の生徒が多い。それはこの街でチームに所属しているヤツならみんな知っていることだ」

「……」

「Shadowが聖鈴の生徒に手を出した時点で、B-BRANDに宣戦布告したと受け取られもそれは当然のことだと思わねえか?」

「……」

「周りがいくら衝突しないようにって手をまわしたって、Shodowがそんだけ自由気儘にやりてぇことばっかやってたら衝突は避けられねぇんだよ」

「……」

「B-BRANDがShodowに手を出してCouleurが出張ってくるなら、それはどうしても避けようがねぇんだ。先にちょっかいを出したのはshadowなんだからな」

「……」

「それにキレイ事を言ってる時間はもうねぇぞ」

「あ?」

「星莉がshadowに狙われてる。しかも星莉には懸賞金がかけられているらしい」

「……懸賞金?」

「そうだ。他の被害者と同じように写真や動画と撮ってくるか」

「……」

「星莉本人を攫って連れて行けば金一封か出るらしい」

「……なんだよ? それ……」

「それからもう一つお前に言っておかないといけないことがある」

「……言っておかないといけないこと?」

マサトの言葉に四季は警戒心を強めた。

「そうだ」

「なんだ?」

「星莉の友達のデータをShadowは持ってるらしい」

「……マジか?」

「ああ」

「マサト、星莉が狙われてるっていう情報と星莉の友達のデータの情報。どうやって調べて手に入れたんだ?」

「内偵だよ」

「内偵?」

「そう。蓮……B‐BRANDのトップは、Shadowのチーム内にB‐BRANDのメンバーを内偵として送りこんでる」

「マジで?」

「あぁ」

「それっていつから送り込んでいるんだ?」

「さあ? 正確には分からねえけど、お前かShadowのヤツらとモメたすぐあとぐらいからじゃねえか?」

「そんなに前から?」

「多分だけどな。でも、内偵に入ってるヤツらがそれだけの情報を調べるには、それなりに時間も必要だと思うからタイミング的にはやっぱりそのくらいだと思う」

「そうか。もしかして、お前がB-BRANDのトップに俺の話をしたのか?」

「いや、俺が蓮にお前の話をしたのは、昨日の夜だ」

「昨日の夜?」

「あぁ、そうだ」

四季は怪訝そうに眉を潜めた。


「じゃあ、なんで B-BRANDのトップはそんなに早いタイミングでShadow内に内偵を送り込んでるんだ? その時点では、まだ聖鈴の生徒も被害には会ってねえだろ?」

「あぁ、その通りだ。てか、俺が昨日話した時点で、蓮は全部知ってたんだけどな」

「全部知ってた?」

「そうだ。俺が話さなくても蓮は自分で調べて、shadowのチーム内の情報や関わっている事件の情報ほぼ完璧に得て状況を把握してたんだよ」

「そんなことができるはずねぇじゃん…いや、待てよ。そう言えばB-BRANDの名前が売れ始めた頃に聞いたことがある」

「なにを?」

「B-BRANDのトップは、ガキとは思えないほどのコネを持っていて、それを駆使してどんな情報でも集めることができるって。その情報収集力は警察の人間でさえ舌を巻くぐらいだって話」

「はっ? 俺はそんな話なんて聞いたことねえぞ」

「いや、その話をしてた時お前もいたはずだ。だってその話をしたのは、お前の部屋だったし」

「俺の部屋?」

「あぁ。そん時、俺はお前が全巻揃えているマンガを読んでたんだから間違いない」

「マジで? 聞いた記憶が全くねぇんだけど……」

「……あっ……」

「なんだよ?」

「……そういえば、あの時マサトは寝てたかもしれない」

「寝てた?」

「あぁ、ぐっすり寝てた気がする」

「……なるほど。それなら聞いた記憶がなくても当然だな」

「そうだな。……まっ、B-BRANDのトップがびっくりするぐらい、すげぇヤツだってことはよく分か ったわ」

「だろ?そんな化け物みてぇにデキるヤツを俺なんかがどうこうしようってことに無理があると思わねぇか?」

「それって、さっきのShadowを潰す気満々になる前に止めろって話か?」

「そうだよ。てか、蓮は情報収集以外にも、俺の本音と建前も正確に見抜いてくるんだよ」

「そうなのか?」

「あぁ、しかもそれを見抜いて分かってるくせに、俺が本音を言うように仕向けてきたりするんだぞ」

「マジか⁉ 容赦ねぇな」

「そうだろ?蓮は年下だけどそういうことをしてくるから年上感が半端ねぇんだよ」

「年下に負けてんじゃねえよ。しっかりしろ」

「いや、あいつマジでやべぇんだって」

「そりゃそうだろ。警察が舌を巻くぐらいの情報収集力を持ってるんだから」

「だよな?」

「あぁ。俺達じゃ絶対に敵わねぇよ」

四季は観念したように呟いた。


「あっ、そうだ。言い忘れてたけど、星莉の友達のデータだけど」

「なんだ?」

「蓮が内偵に入ってる奴らにデータを完全に消去するよう命じてるから心配しなくていいぞ」

「はっ? そんなことができるのか?」

「……いや、俺もぶっちゃけその話を最初に聞いた時、そんなことができるのかって思ったんだけど、なんか普通にできるみたいだぞ」

「マジか!?」

「あぁ。それと……」

「……まだなんかあんのか?」

四季は若干ウンザリしたような表情を浮かべた。

どうやらこれ以上驚かされるのは勘弁してほしいと思っているらしい。

それを察したマサトは苦笑してしまった。

「あぁ、これが最後だ」

「やっと最後か…なんだ?」

「お前、星莉に護衛をつけてんだろ?」

「なんでそれを?……いや、それもお前のところの大将からの情報か?」

「あぁ、そうだ」

「だよな。てか、それがどうした?」

四季はB-BRANDのトップがどういう人間なのかを分かってきたらしい。


「星莉がShadowに狙われてるって分かった時点で、ウチのメンバーも何人か星莉の護衛についてんぞ」

「…はぁ⁉」

でも、なかなか慣れることは難しいらしい。


「Shadowは、汚え手も平気で使ってくるようなヤツらだから、念には念とってことらしい。あっ、先に言っとくけど、星莉に護衛がついてんのは蓮は決めたことだ」

「……だから?」

「蓮に『止めろ』っていう伝言は、俺はしねぇぞ」

「……」

「てか、蓮にそれを伝えたところで、あいつが俺の言うことを聞くとも思えねぇしな」

「……そっか」

「ああ」

「じゃあ、別の伝言を頼んでもいいか?」

「なんだ?」

「星莉の護衛の件と友達のデータの件、『ありがとう』っていうのと『すげぇ助かる』って伝えて欲しい」

「分かった伝えておく」

「それと…」

「……」

「…いや、これはいいや」

「あ?」

「これは自分で伝えないと意味ねえからな」

「自分で伝える?」

「そうだ。マサト、スマホを貸してくれ」

「なんでスマホ?」

「だって俺は知らねえもん」

「なにを?」

「お前のところの大将――神宮の番号だよ」

「……あぁ、そういうことか」

マサトは納得したように呟いた。

その表情には達成感と安堵感が入り混じっていた。

「そういうことだ」

それから四季は、すぐに蓮に連絡を入れた。

自分が知らないところで動いてくれていたことに対し感謝の気持ちを伝え、その上で「Shadowを潰すのに力を貸して欲しい」と伝えていた。

四季の頼みに蓮が快諾したことは言うまでもない。

その日の夕方、直接会う約束を交わし通話を終えた四季が

「なぁ、神宮ってもしかして俺の性格とかも調べたりしてんじゃねえかな」

ポツリと言った。

「なんでそう思うんだ?」

マサトが尋ねると

「なんか外堀を埋められて追い詰められてる感が半端ねえんだよ」

四季は正直な感想を口にする。

四季の読みはあながち間違ってはいない。

マサトはそう思った。

蓮は自分の思うがままに事を進めることができる男だ。

その為には緻密な計画と、こっちの予想を上回る行動力を発揮する。

おそらく、今回も蓮は四季が断れないように、外堀を埋めてからshadow潰しを共同でという提案をしている。

マサトはそれに気付いていたがあえて四季にそれを伝えることはしなかった。


Precious Memories エピソード20 【完結】

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