第19話エピソード19
◇◇◇◇◇
蓮の意図を探るように、マサトはまっすぐな視線を向ける。
その視線を蓮もまたまっすぐに受け止める。
「そうだ。Shodowはお前が動いていることが分かった時点で、間違いなく焦るはずだ。その時に狙って来るのは100パーセントヒナに違いない」
「……」
蓮の言うことは決して間違っていない。
shadowのような卑劣なチームは、まず弱い立場のものに狙いを定める。
苦労してまで正攻法は選ぶはずはない。
それは容易に推測できることだった。
「お前の弱点はヒナだし、お前とヒナが付き合っていることも周知の事実だ」
「……」
これも事実。
マサトは隠す必要がないと考えてヒナと堂々と付き合ってきた。
だから毎日、ヒナを迎えに行っているし、時間があればヒナと手を繋いでメインストリートを歩きもしている。
堂々と付き合っているのだから、2人の交際を知っている者は決して少なくない。
まさかこんな形でこれまでのヒナとの付き合いが裏目に出てしまうとはマサトも考えていなかった。
でも今更それを言っても仕方がない。
「これからしばらくお前も忙しくなる。目が届きにくい分先に手をまわしておいた方が安心できるんじゃないのか?」
「でも、俺の為にメンバーに迷惑を掛けるのは……」
言いかけたマサトの言葉を
「お前の為じゃない。これはあくまでもヒナの為だ」
蓮は遮るようにしてきっぱりと断言した。
きっぱりと蓮に断言されたマサトは、少しの間悩むような素振りを見せたあと
「悪いな。助かるわ」
蓮に再び深々と頭を下げた。
「あぁ、任せておけ。ヒナの身の安全は俺が保証する」
そのやり取りを見いていたケンが
「マサトってヒナが絡むと素直に人に甘えられるんだな」
気が付いたように呟いた。
「あ?」
「自分のこともそんな風に素直に甘えればいいのに」
ケンの言葉に
「なにが言いたいんだ?」
マサトは困惑していた。
マサトの困惑に気付いているのか、気付いていないのか、ケンはマイペースに話を続ける。
「てかさ、俺マサトに聞きたいことがあるんだよ」
「聞きたいこと?」
「そう。もし、俺がすげぇこ困ってるとするじゃん?」
「あぁ」
「マサトから見ても、俺は大変そうな感じで見ている方が辛いって感じなわけ。そういう時、マサトならどうする?」
「どうするって……とりあえず話を聞いて」
「うん」
「俺にできそうなことがあれば何でも協力しようと思う」
「だな。マサトなら間違いなくそうするよな」
なぜかケンはとても嬉しそうで
「あぁ」
ケンの意図が分からないマサトは戸惑うことしかできない。
「じゃあさ、マサトが協力を申し出たとするじゃん。その時、俺がなんて答えたらいちばん嬉しい?」
「……はっ?」
「1番、心配しなくても大丈夫だ」
「……」
「2番、俺は自分ひとりで解決できるから気にしないでくれ」
「……」
「3番、お前に迷惑を掛けたくないから放っておいてくれ」
「……」
「4番、力を貸してくれるか?」
「……」
「さぁ、どれだ?」
「……4番だな」
「そうだよな?」
「あぁ」
「俺達も一緒だよ」
「一緒?」
「そう。マサトが困ってるって分かってるんだからなにか協力したいと思ってるし」
「……」
「困ってる時に頼ってもらえるのは普通に嬉しいんだ」
「……」
「それに友達に頼られることは迷惑だなんて思わねぇよ」
……あぁ、そうか。
気が付かない間に、俺は四季と同じことをこいつらにしてたんだな。
協力を迷惑を掛けたくないという理由でマサトの申し出を断った四季。
断られたマサトは自分の無力さを痛感し辛かった。
納得したフリをしながらも、ずっとモヤモヤ感は消えなくて……。
それは今でもマサトの心の中に巣くっている。
自分が辛い思いをしたというのに、、それと全く同じことを自分もまたしていた。
ようやくマサトはケンが言いたいことに気が付くことができた。
だからマサトはそれ以上意地を張る必要はないと判断した。
「頼みがある。どうしてもshadowを潰したいんだ。だから協力してほしい」
マサトは四季に言って欲しかった言葉をそのまま伝えた。
何度も喉まで出かかって、飲み込んだ言葉。
実際に口に出してみると、その途端心が軽くなったような気がした。
……あぁ、そうか。
俺はこの言葉をずっと言いたかったんだ。
迷惑を掛けるから
負担を掛けたくないないから
申し訳ないから
そんな建前で本音を隠していたから、こんなに苦しかったんだとマサトは気が付いた。
マサトが本音を曝け出すと
「やっと俺達が待ち望んでいた言葉を言ってくれたな」
蓮が柔らかい笑みを浮かべる。
「マサト、任せとけ。俺もshadowにはかなり強い恨みがあるんだ。きれいさっぱり跡形もなくぶっ潰してやるよ」
ケンが物騒ではあるが頼もしいことを言ってくれる。
「そうと決まれば早速計画を立てよう」
樹がテキパキと段取りに取り掛かってくれる。
「俺はまずなにをやればいいんだ? 頭を使うのは役に立たないけど身体を使うことならなんでも引き受けるぞ」
ソウタはすでに立ち上がって準備運動を始めている。
「下の奴らへの指示と調整は俺がやるよ」
琥珀はスマホを取り出してスタンバっている。
嬉しそうにイキイキとしているメンバーたちの反応に
……俺がこいつらにするべきことは遠慮なんかじゃなくて頼ることだったんだな。
マサトは痛感した。
「みんなお前が頼ってくれるのをずっと待ってたんだぞ」
「そうみたいだな」
俯き気味に答えるマサト。
込み上げてくるものが我慢できなかった。
蓮がそれに気付いているかどうかは分からない。
でも、マサトの隣に腰を降ろさずに立っているところをみると、もしかしたら気付いているのかもしれない。
「マサト、頼ってくれてありがとうな」
蓮がポツリとそんな言葉を口にする。
「……礼を言うのはこっちの方だ」
マサトも俯いたまま言葉を返す。
マサトの周辺には優しい空気が流れている。
少しの間をおいて
「そう言ってくれるのなら、俺からも頼みがひとつある」
蓮がそんなことを言い出した。
マサトは顔を上げると
「なんだ?」
ほんのりと赤く染まった瞳で蓮を見あげた。
蓮はマサトの方に視線を向けることなく、“打倒 Shodow”を目標にすでに準備に取り掛かっている他のメンバーを見つめたまま口を開いた。
「次からは困ったことがあったら、気を遣う前にまず言ってくれ」
予想外の蓮の言葉に
「……はっ?」
マサトは思わず唖然としてしまった。
「今回のことで俺も学んだんだ」
「学んだ? なにを?」
「どんな問題よりも、お前に頼るということをさせる方が何倍も大変だってことが」
「……」
「それをするぐらいなら、チームを2つ、3つ潰す方が全然楽だ」
「そ……そうか」
「あぁ」
「だから頼む」
「……分かった」
蓮の主張に心当たりがありすぎるマサトは猛省していた。
その後、マサトは他のメンバーと今後の打ち合わせをざっと済ませて、今日のところは解散となった。
明日の夕方からshadowを潰すため、本格的に動き出すことになる。
まず、マサトに任せられたのは四季の説得だった。
現在、四季が集めている人間をメインとしてB-BRANDはサポート側に徹するという条件を四季に認めさせなければいけない。
どちらにしろCouleurが出張ってくるまでB-BRANDは大ぴらに動くことはできない。
だからshadowに仕掛ける段階では、B-BRAND内で動くのはマサトと創設メンバーだけにしようということで話はなんとかまとまった。。
ここまで話をまとめるのもかなり大変だった。
すでに乱闘モードに入っている、ケンとソウタは自分達がshadowの溜まり場に乗り込むと言い出した。
それに触発されてしまった琥珀は、乗り込むなら自分も行くと張り切りだし、樹は樹でネットを駆使してshadowが保有している電子データを破壊するなんて言い出す始末。
本来ならそういうメンバーを止める役目の蓮も、shadowを一刻も早く潰したいという気持ちは他の創設メンバーと同じらしく、『確かに、俺達がB-BRANDの人間だってバレなければ何でも良くね?』などと言い出すから、マサトは本気で焦ってしまった。
この5人にここまで熱烈に“ぶっ潰す宣言”をされているshadowというチームの未来は、決して明るくはない。
もしshadowの母体がCouleurじゃなかったら、もうすでにこの5人によって指されていたかもしれない。
マサトは口にこそ出さなかったが、そんな気がしてならなかった。
そんな中、マサトに与えられた任務。
「マサトは明日中に友達に俺達と同盟を結ぶことを認めさせろよ」
蓮直々のお達しに
「はっ? 俺ひとりでか?」
マサトはついそう聞き返してしまった。
すると
「当たり前だ。俺達はお前の説得に疲労困憊してるんだ。こんなに疲れ果ててるのにもうひとり説得させるなんて無理に決まってるだろ。てか、お前も少しは俺達の苦労を経験しろ」
蓮からそう言われてしまい
「……分かった」
マサトはそうその任務を引き受けるしかなかった。
……四季の説得って大変そうだよな。
申し出た協力を一度断られているマサトにとって、与えられた任務は荷が重いものだった。
でも任せられたものはやらなければいけないし、四季が了承してくれないといつまでたっても作戦は進まない。
マサトは自分を奮い立たせ、目的を果たすために家に帰ったらとりあえず作戦を練ることを決めた。
Precious Memories エピソード19 【完結】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます