第17話エピソード17
◇◇◇◇◇
「このアプリは、蓮だけがトップの権限で自由にメンバーの居場所を確認することができるんだよ」
「……マジか?」
「それも最初にちゃんと許可を取ったけど?」
蓮に言われて、マサトは思わず頭を抱えてしまった。
「……ってことは、俺が行った場所は全部把握してることだよな」
「言っておくけど、俺はそんなに暇人じゃない。俺がこのアプリを確認するのは必要な時だけだ」
「……そうか」
「なんだ? 知られてまずいようなことがあるのか?」
「……ないとは言えない」
マサトも健全な男子でお年頃真っ盛り。
しかも年上の彼女がいるんだから、第三者に知られたくないような場所に出入りすることだってある。
基本的にヒナの家にお泊りをすれば、解決はできるのだが毎回同じというのもなんだか味気ないし、2人で出掛けた時に勢いでホテルに行くことだってある。
そういうことも全て蓮に知られていたとなると、マサトが頭を抱えたくなるのももっともだった。
「そのアプリは、居場所を知られたくない時はぞ場所を曖昧に表示する設定もある。あとで樹に教えて貰って、知られたくない時はそれを使え」
「……あぁ、そうする。てか、このアプリで確認すれば、俺と樹が一緒にいることも分かるよな」
「あぁ。樹とマサト、普段はあんまりツルまない2人が頻繁に喫茶店に出入りしていれば、なにかがあったと思うのは当然のことだろ?」
「……」
「だから俺は樹に探りを入れたんだ。そうしたら樹は『最近、あの店のコーヒーにハマっていて、マサトに付き合ってもらっている』って言ったんだ」
蓮が言うと、すかさずソウタが口を挟んだ。
「樹、それは『なんかあった』って言ってるようなもんだ」
ソウタの言葉にケンと琥珀はそうだと言わんばかりに頷いている。
「どういうことだ?」
マサトは訝しげに眉を潜めた。
別に樹が蓮にいった言葉に、引っかかるものなんてなかった。
それなのになぜそれを聞いてそう思ったのか。
マサトには全く分からなかった。
「樹は普段、あまりコーヒーを飲まないんだよ。こいつがコーヒーを積極的に飲む時は、集中したい時だけだ」
「……そうなのか?」
「あぁ」
涼しい顔で頷く蓮から、樹は勢いよく樹に視線を向けた。
「マサト。俺に確認しても無駄だぞ」
「無駄?」
「うん。俺もさっき蓮に指摘されるまで知らなかったんだから。でも、ここにいるヤツはみんなそれに気付いてたらしいけどな」
「……そうか……」
もうマサトはなにも突っ込む気にならなかった。
……これ以上は俺が知らないことはないだろう。
この時、マサトはそう考えていた。
でもその考えが甘いということをこの後、痛感することとなるが、マサトはこの時まだそれに気付いてはいなかった。
「しかも樹が集中したいと無意のうちに考えるのは、情報収集する時だ」
「あぁ、そうか。だから樹が『コーヒーに嵌ってる』って言ったのを聞いて、なにかあるって分かったんだな」
「そうだ。それが分かればあとは簡単だ。樹がなんの情報を集めているのかを探ればいいだけだからな」
「……ちょっと待て」
「うん?」
「樹がなんの情報を集めているのかを探る。それがいちばん大変じゃないのか?」
マサトのもっともな質問に
「そうでもないけど」
蓮は飄々と答えた。
マサトと蓮のやり取りを聞いていた樹が
「あのな、マサト」
なぜか言いにくそうに口を挟んでくる。
「どうしたんだ、樹?」
「俺が情報を集めるのが得意っていうことは知ってるよな?」
「もちろん知ってる」
「だよな。だけど、もうひとり情報収集が得意なヤツがいるんだよ。しかも、そいつは俺よりも長けた情報収集能力を持ってるんだ」
「樹以上に?」
「あぁ。これはあまり知られてないんだけどな」
「それって誰なんだ?」
「蓮だよ」
「……ってことは、俺達がなにをやってるのか調べるのも……」
「蓮なら楽勝だな」
最早、マサトは溜息しか出てこなかった。
そんなマサトを蓮は鼻で笑った。
「俺に隠れてなにかしようとは考えない方がいい。どうせバレるんだから」
「……そういうことは、もっと早く教えておいてくれ」
「早く教えたら面白くねぇだろ」
「お前の彼女になる女は大変だな」
マサトが言うと、蓮以外のメンバーは必死で笑いをかみ殺していた
「そろそろ話を本題に戻すぞ。俺も含めてここにいるメンバーは全員お前の脱退は認めないと言っている」
「……」
「でもそれを俺がこいつらに聞いた時、こいつらはなにも知らない状態だった」
「……」
「だから、全ての状況が明らかになったこの状態で、もう一度聞きたいと思う」
「……」
「この中にマサトの脱退を認めるってヤツはいるか?」
蓮の声はそんなにでかくはない。
でも静まり返った店内によく響いた。
マサトは黙ってその声に耳を傾けている。
蓮の質問に挙手する者は誰もいなかった。
マサトはそれが無性にうれしかった。
でも素直に喜んでばかりもいられなかった。
マサトが脱退しないとなると、Couleurと抗争になる確率が高くなるのだから……。
「マサト、この通りだ。お前に脱退してほしいと思ってる奴はひとりもいない。だから、諦めてくれ」
「でも俺がチームを抜けなかったら、Couleurと抗争になるかもしれないんだぞ」
「上等だ。Couleurが出張ってきたらいつでも迎え撃ってやるよ。B-BRANDとCouleur、人数的には俺らの方が若干少ないけど、力的にはこっちが圧倒的に強い」
「そうそう、そろそろ県外に進出したいと思ってたんだよね」
「だよな。てか、shadowも目障りだからさっさとぶっ潰してやろうぜ」
「マサト、みんながこう言ってるけどどうする?」
「……みんなが手を貸してくれたら……すげぇ、助かる。……でも……」
マサトには『頼む』その一言がどうしても言えなかった。
広がる沈黙。
その沈黙を破ったのは、蓮の声だった。
「一昨日、聖鈴の中等部にもshadowの被害者が出た」
蓮の言葉に
「中等部?」
マサトは反射的に顔を上げた。
「あぁ、俺が知る限りでは、中学生の被害者は初めてだ」
「……中坊にまで手を出してるのかよ?」
マサトの眉間に皺が寄った。
「そういうことになるな。でもこれで、俺らにはshadowを潰す大義名分ができたことになる」
「大義名分?」
「そうだ。可愛い後輩が被害に遭ったんだからな」
ケンが忌々しそうに言い放つ。
それに蓮は小さく頷いた。
「もしマサトが俺らに協力を頼まなかったとしても、俺らはshadowを潰すことができる」
「……」
「要は俺らもマサトも目的は一緒ってこと。それならそれぞれが別々に動くよりも、四季くんも一緒にみんなでshadowを潰した方が効率的じゃない?ってことだよ」
樹が分かりやすく話してくれたおかげで、マサトは蓮やケンが言いたいことを正確に理解することができた。
その時だった。
蓮のスマホが着信を告げた。
蓮は液晶を確認すると、それを耳に充てると立ち上がり席を離れていく。
これにより、とりあえず話は一旦中断することになった。
蓮以外のメンバーはそれぞれが自由に過ごし始める。
そんな中、マサトは小声で
「なぁ、樹?」
樹に声を掛けた。
「うん?」
「ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「お前の学校のshadowの被害に遭った子なんだけど」
「あぁ」
「お前らは面識があるのか?」
「いや、俺はないかな。でも、俺らを見かけたら結構積極的に挨拶とかしてくれるらしい」
「らしい?」
「うん。そういう子って正直何人もいるから、俺はどの子なのか分からないんだ。でも、どうもその子ってケンのファンらしくてさ」
「そうなのか?」
「うん。俺らに挨拶してくれる子っていうのもケンから聞いた話だし」
「そうなんだ。じゃあ、ケンはその子のこと知ってるんだな」
「あぁ。てか、ケンは自分のファンの子は絶対に忘れないからな」
「そうなのか?」
「そうだよ。特に今はね」
「今は?」
「今年度の初めから、ケンは蓮とファンの数を競い合ってるんだよ」
「……はっ?」
「あっ、でも蓮は自分のファンとか全く興味ないから、結果的にケンがひとりで勝手に騒いでるだけなんだけどね」
「そ……そうか。それでどっちのファンが多いんだ?」
「そんなの決まってるだろ。蓮だよ」
それを聞いてマサトは
「……」
心底、ケンに同情してしまった。
「ちなみにどのくらいの割合なんだ?」
「6:4だよ」
「蓮の圧勝じゃねぇか」
「うん。だからケンはあんなに怒ってるんだ」
「怒ってる? ケンって怒ってるのか?」
「そうだよ。今日のケンってものすごく静かだと思わない?」
「それ、すげぇ思ってた」
「でしょ。あれは貴重な自分のファンにShodowが手を出したせいで、その子が県外の学校に転校するかもって話が出てて、ケンはブチギレてんだよね」
「あれ、ブチギレてんのか?」
「
「そ……そうか。ケンはキレると静かになるタイプなんだな」
「ううん、違うよ」
「違う?」
「ケンはキレたら手が付けられなくなるタイプだよ。本当は今すぐにでもshadowに乗り込みたいはずなんだけど、蓮から待てって言われて必死で我慢してる状態なんだ」
「……なるほど。そういうことか」
マサトはケンが静かな理由が分かってほんの少しだけスッキリした。
Precious Memories エピソード17 【完結】
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