第13話エピソード13

◇◇◇◇◇


「そう言われてみれば確かにもっと長く一緒にいたような気がするな」

マサトが言うと

「だよね?」

四季は嬉しそうに身を乗り出してくる。

「あぁ」

「……そっか、マサトと初めて会ってからまだ3年も経ってないのか」

しみじみと呟く四季をじっと見つめていたマサトが、意を決したように口を開いた。


「四季」

「ん?」

「俺も手伝うわ」

「えっ?」

「shadowを潰すの、俺も手伝うわ」

マサトの言葉に

「本当に?」

四季は驚きが隠せないようだった。

「あぁ、お前がshadowを潰す理由に、俺もすげぇ共感できるから」

「……やべぇ。マジで嬉しい。マサトがいてくれたら百人力いや万人力だ」

「それはさすがに大袈裟すぎるだろ」

「いや、そのくらい心強いってことだよ」

「そうか」

「でも……」

目を輝かせていた四季の表情が困ったようなものに変わる。

四季の表情の変化にマサトは怪訝そうに眉を寄せる。

「どうした?」

「マサトはこの件に関わっちゃだめだ」

四季はきっぱりとした口調で言い放った。

「あ?」

「その気持ちだけありがたく受け取らせてもらうよ」

「ちょっと待て。なんで俺は関わっちゃいけないんだ?」

「そんなの聞かなくてもマサトは分かってるだろ?」

そう言われてマサトは四季が言わんとしていることを察した。

「……」

「マサトがshadow潰しに加担すれば、事実上B-BRANDが加担したことになる。そうだろ?」

「それは……」

「B-BRANDがShodowに手を出したとなれば、抗争は免れない」

「そんなことになったら、間違いなくCouleurも出張ってくるだろうし、もしかしたらその騒動に乗っかって

なんの関係もないチームがB-BRANDを狙って、仕掛けてくることもあるかもしれない」

「……」

「そうなるこが予想できるのに、マサトに協力を頼むことなんてできねぇよ」

四季の言っていることは、まさにその通りだった。

現在、どこのチームにも所属していない四季と、B-BRANDの幹部であるマサトでは立場が全く異なる。


四季がShodowを潰すと言い出した時点で、マサトは四季の手助けをしたいと思った。

でも相手がチームである以上、四季の味方に付けば、B-BRANDがshadowに仕掛けていると周りに認識されかねない。

マサトはそれが分かっていたので、簡単に協力するとは言えなかった。


だけど四季の目的とその理由を知ったマサトは、少しでも四季の力になりたいと強く思った。

もちろんこの判断が、B-BRANDにとって迷惑となる可能性があることは分かっていたが、それ以上に四季の力になりたいと言う気持ちの方が勝った。


しかし、マサトの葛藤の末の決断も、四季にはお見通しだったらしい。

その上で、四季はマサトの立場を悪くするようなことはしたくないと思ったのだった。


「……そうか」

「マサト、マジでありがとうな。その気持ちだけで十分だ」

「分かった」

四季の言葉にマサトは頷くしかなかった。


◆◆◆◆◆


マサトはここ数日モヤモヤとした心がスッキリとしない日々を送っていた。 

その原因はもちろん四季のことが心配だからだった。

四季の決断を聞いた日から5日。

あの日から四季は学校を休みがちになった。

きっとshadowを潰すための準備に奔走しているのだろう。

それが分かっていながら、なにも手伝うことができない。

マサトはもどかしさを感じていた。


その日、溜まり場に行ったマサトは樹の姿を見つけた。

「樹」

「おう、マサト。お疲れ」

「お疲れ。この前はありがとうな。すげぇ、助かった」

マサトが礼を言うと樹はにっこりと笑みを浮かべた。

「お役に立てて良かったよ。てか、マサト」

「ん?」

「ちょっと場所を変えない?」

「はっ?」

「実は、この前行った喫茶店のコーヒーのファンになっちゃったんだよね」

「そうなのか?」

「うん、それでまた飲みたいなって思ってるんだけど、付き合ってくれない?」

「分かった。てか、この前のお礼も兼ねて今日は奢ってやるよ」

「マジで?」

「あぁ」

「ラッキー」

マサトに奢ってもらうことになった樹は嬉しそうに表情を崩した。

その表情は珍しく年相応なものだった。


◇◇◇◇◇


湯気の立つカップを口に運んだ樹は

「うん、やっぱり美味いな」

満足そうに呟いた。

「本当だ。てか、この前もこんなに美味かったか?」

「多分、同じ味だと思うけど……てか、あれじゃね?」

「どれ?」

「この前は、状況的にコーヒーを味わう余裕がなかったんやない?」

「そう言えば、この前来た時は、ちょうど四季と連絡が取れない時だったな」

樹の言う通り、前回ここに来た時は四季のことが心配過ぎてコーヒーを味わう余裕がなかったのかもしれない。

それならば今日は前回ここに来た時よりも余裕はあるのかもしれない。

コーヒーの味が分かるぐらいには……。


マサトがコーヒーを味わっていると

「友達は元気?」

樹が聞いてきた。

「あぁ、元気は元気だな」

含みのある言い方をしたマサトに樹はなにかを察したらしく

「そっか。やっぱ、shadowになんかされてた?」

鋭く突っ込んでくる。

樹には、いろいろと動いてもらったので、正直に話す必要がある。

マサトはそう考え、口を開いた。


「幸いにも友達の彼女は無事だった」

「それは良かった」

「でも彼女の友達が、shadowの被害に遭ったらしくて」

「……そうだったんだ」

樹はマサトが思っていたよりも驚くことはなかった。

それを見て、マサトの予想は確信に変わった。


「てか、なにがあったのか、もう知ってるんだろ?」

マサトが確認すると

「バレた?」

樹はにっこりと笑みを浮かべた。

「……やっぱり」

マサトは脱力したように、椅子の背凭れに身体を預けた。

まさかという気持ちはあったけど、やっぱりそうだった。

樹は侮れない。

マサトは痛感していた。


「マサトの友達……四季くんだっけ」

「あぁ」

「もう水面下で密かに動き始めてるよね?」

「……それも知ってんのかよ?」

「まぁね」

樹は飄々と答える。


「このことを蓮たちは……」

「俺はまだ何も言ってないよ」

「そうか」

マサトは刹那的に安心したような表情を浮かべた。

樹はそれを見逃さなかった。


「マサトの友達がshadowを潰そうって動いていることを蓮たちに報告すんの?」

「……正直、どうするべきか迷ってるところなんだ」

「そっか。まっ、マサトの気持ちは分かるよ。ただ、俺に言えることは、報告の必要性はマサト次第だと思うよ」

「……俺次第?」

「マサトが友達に手を貸すつもりなら報告は必須。でも、その気がないなら報告する必要性はない」

「……」

「要はウチのチームに関わることかそうじゃないかで対応は変わるから」

「やっぱそうだよな。問題はそこだよな」

マサトは神妙な表情でなにかを考えているようだった。

「てかさ、ぶっちゃけマサトは四季くんに手を貸そうと思ってるの?」

「……いや、現時点では、手を出すつもりはない」

「えっ? そうなの?」

マサトの言葉が余程意外だったらしく、樹は珍しく驚いた様子をみせた。

「てか、断られたんだ」

「……はっ? 断られた?」

「あぁ、B-BRANDの幹部の俺に力を借りるってことは、B-BRANDにも迷惑がかかるからって」

「四季くんがそう言ったの?」

「あぁ」

「へぇ~、なんか意外だな」

「なにが?」

「てっきり俺は四季くんがマサトに協力を求めるだろうって思ってたから」

「あぁ、そういう意味か。樹、残念だけど四季はそういうヤツじゃないぞ」

「ん?」

「今回手伝うって先に言い出したのは俺の方なんだけど、もし俺がなにも言わなかったらとしても、四季は絶対に自分から力を貸してくれとは言わなかったはずだ」

「へぇ~、そうなんだ。でも、shadowのバックにcouleurいるって分かった時点で、人手いくらでもあった方がいいと考えるのが普通だ。もし、マサトの協力を得ることができたら、B-BRANDの人手も借りることができるかもしれない。四季くんはそう考えなかったのかな?」

「普通ならそう考えるかもしれねぇけど、あいつはそう考えなかったらしい。いいや考えはしたけどそれを望まなかったって言った方が正しいかもしれない」

「そうなんだ。なんか俺、ちょっと勘違いしてたかもしれない」

「勘違い?」

「うん。なんかごめんね、マサト」

「あ?」

「マサトの友達なんだからそんなに悪い人間じゃないとは思ってたけど、ちょっと疑ってた」

「なにを?」

「四季くんはマサトを利用するんじゃないかって」

「四季はそんなヤツじゃねぇよ」

「うん、そうみたいだね」

「疑ったお詫びって言ったらなんだけど、四季くんに伝言をお願いできないかな?」

「伝言?」

「うん」

「“四季くんの作戦に俺もぜひ協力がしたい。shadowに関することを含めて、今回の作戦に必要な情報収集は俺が個人的に手伝うから任せて欲しい”って」

樹から四季への伝言を聞いたマサトは驚き、

「はぁ?」

動揺を隠せなかった。

「あと、四季くんに俺のスマホの番号と“明日の午後連絡を待ってる”っていうのも忘れず頼む」

「ちょっ……樹⁉」

「それと四季くんは人も集めてるよね?」

「あ……あぁ、そうだけど」

「最終的には何人ぐらい集まる予定?」

「……この前話した時は、50人前後って言ってたけど、その後にShodowの母体がCouleurってことが分かったから、もっと集めようとしてると思う」

「そっか、そうだね。Shodowだけなら必要ないかもしれないけど、万が一Couleurが出張ってきた時のことを考えると一人でも多く集めておいた方がいいな。個人的に手伝ってくれそうなヤツとshadowに反感を持ってそうなチームに協力を依頼しておくよ」


協力を申し出てくれた樹は、テンポよく自分が協力できそうなことを見つけては計画を打ちだしていく。

きっとこのことを知ったら四季は喜んでくれるに違いない。

『B-BRANDの頭脳と呼ばれるヤツが協力してくれるなら百人力だ』

きっとそう言って瞳を輝かせるに違いない。


でも四季は喜びはするだろうけど……。


Precious Memories エピソード13 【完結】


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