第31話 イベリア加入試験

朝日が顔に降り注ぐ。カーテン越しの光は俺を優しく眠りから目覚めさせてくれた。


安い宿だが、掃除もいき届いていて清潔感が漂う。久しぶりに温かい湯船に浸かり、フカフカの布団に横になった俺は、あっという間に熟睡していたようだ。


ギルドの営業開始は朝九時からなので、イベリアには十五分前に噴水広場へ来てもらうよう伝えた。


まだ時間はあるな。


俺はゆっくりと身支度を整え、食堂に用意された食べ放題のロールパン七個と何の卵か分からない大きめのポーチドエッグ、牛乳らしきものを堪能した。


少し早いけど、朝の空気も味わいたいし、のんびり歩いて行こうかな。


チェックアウトを済ませ、噴水広場へと向かう。八時半にもなると人通りも多く、忙しなく小走りしているもの、呼び込みをしている屋台の親父など町にはだいぶ活気が出ていた。


俺は辺りを観察しながら、噴水広場に到着。イベリアはまだいないよな。


と思ったら、薄水色の長い髪に白のワンピースの女性(少女?)が噴水の縁に腰かけていた。


「おはよう!イベリア。早いね。いつから待ってたの?」


イベリアも気付きこちらに顔を向ける。


「別に待ってたわけじゃないよ。暇だから、ここら辺をブラブラしてただけ。」


「そっか。ご飯は食べた?あの屋台の焼きバードがオススメなんだけど、食べる?」


イベリアも満更ではなさそうなので、二本ずつ買って食べた後、俺たちはギルドへと向かった。


◇◇


ギルドの扉を開けると営業開始直後だからか、まだ冒険者の姿はなかった。

受付のレオーナは相変わらず爽やかな笑顔で出迎えてくれる。


「おはようございます。レオーナさん。朝からお手数をおかけしますが、また加入試験をお願いしてもいいですか?」


「ソーマさん、おはようございます。承知しました。加入試験を受けられるのはお隣の女性の方ですか?」


レオーナがイベリアを見ながら言う。


「はい。そうです。」


「まだお若そうですけど、もしかしてソーマさんの妹さんとか?!」


「あぁ、、、そうですね。」


だいぶフレンドリーな対応になったレオーナから急にそんなことを言われ、俺は昨日の兄妹を思い出して、とっさに返事をしてしまった。

イベリアも気にしてなさそうだし、まぁいいか。


「それでは、また前回と同じようにその扉から外に出てもらって、試験を受けていただきます。本日はギルド長が午後からの出勤なので、私が見届け人も兼任しますね。」


「はい。お願いします。」


俺たちは外に出て、早速説明を受ける。

イベリアはあまり内容を理解していないだろうから、俺から説明することにした。


うーん、魔力判定で魔弾なんて打たれたら建物ごと破壊されそうだし、やっぱり物理攻撃判定かな。

俺はイベリアに小声で耳打ちした。


「あそこにある石を割れば試験合格なんだけど、手加減して、かる~く攻撃ね。」


イベリアも頷いているので大丈夫だろう。


「じゃあ、レオーナさん、僕の時と同じく物理攻撃判定でお願いします。」


「分かりました。では、お願いします。」


俺はイベリアに合図した。

イベリアはてくてくと石に近づいていき、石の手前で一旦停止した。

そして、俺と同じように石の上に手をかざす。


そうそう、そんな感じで軽く叩いてパカっと割れば大丈夫。俺の時は握っちゃったからバラバラになったけど、コツンとするくらいなら砕けるくらいで済むんじゃないだろうか。


なんて思っていた次の瞬間、イベリアの手が一瞬光った。


「え!ちょ、は?どうして?」


石は台座もろとも消し飛び、地面に穴が開いている。

いま魔弾打ったよね?!ピカッとしたぞ!明らかに魔弾の0距離射撃なんじゃないの?!

手で軽くコツンとやるだけでよかったんだけど。


俺はイベリアに駆け寄った。


「手加減してって言ったのに。。」


「したよ」


イベリアはプイっとしている。伝え方間違えたかな。

レオーナを見ると、顔が引きつり何も言葉が出ないようだ。

これは俺の時より気まずい状況じゃないか。何か言わなければ。


「妹は昔から魔力がとても強くて。思いっきりやっていいなんて言わなきゃよかったなぁ。ははは。」


なんとも見苦しい言い訳をしてレオーナを見ると、彼女は大きく深呼吸をして言った。


「想像をだいぶ越えてましたけど、ソーマさんの妹さんですからね。何かあるだろうなとは思ってました。とりあえず、試験は合格なので、手続きが完了するまで少々お待ちください。」


レオーナは軽く頭を振りながら、建屋に戻っていった。

たびたび負担をかけて申し訳ないと思いつつ、俺たちも建屋に戻る。


しばらくするとレオーナが出てきて、イベリアのギルドカードを渡してくれた。

ギルドの説明は前に聞いているので、割愛させてもらった。

どうせイベリアは俺と一緒じゃないとクエスト受注できないだろうから、簡単に伝えておけばいいでしょ。


こうして魔王の冒険者が誕生することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る